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逃げるのか?

 彼はその目に何とも言えぬ感情を宿しながらセイディを見据えている。


 その視線に居心地の悪さを感じ、セイディはそっと視線を逸らした。が、ミリウスはセイディのことをもう一度呼ぶ。


「……話をするぞ」


 そして、彼は淡々とそう告げると歩き出す。……ついてこいという意味だ。それを悟り、セイディもそっと彼の後に続いた。


 ミリウスがセイディを連れてやってきたのは王宮の中庭だった。そこでは庭師たちが仕事をしていたものの、ミリウスが「少し、離れてくれ」と言えば彼らは文句もなく立ち去っていく。そんな彼らに恐縮しながらセイディは言われた通りにベンチに腰を下ろした。


「なぁ、セイディ」


 セイディがベンチの端の端に腰を下ろしていれば、その逆の端にミリウスが腰を下ろす。二人の間には微妙な距離があり、それはいろいろな勘繰りを生んでしまう。


 しかし、そんなことを気にもしないのかミリウスは「……お前、メイドを辞めるのか?」と直球に問いかけてきた。どうして、彼がそれを知っているのだろうか。そう思ったが、ミリウスの行動や思考回路を読むことは難しい。あきらめた方が楽だった。それに、それは真実なのだ。


「……まぁ、そうですね」


 目を瞑らずに、ミリウスの方も見ずに。セイディはそう返事をする。そうすれば、彼は「どうしてだ?」と問いかけてきた。


「どうしてって……そりゃあ、このままだと迷惑になるからです」


 ゆるゆると首を横に振りながらそう言えば、彼は「アシェルやリオは、迷惑だなんて思っていないだろ」と告げてくる。それは、間違いない。彼らはセイディに迷惑をかけられることを望んでいる部分がある。けれど、それだとセイディが納得できない。


「たとえそうだったとしても、です。私は皆様に迷惑をかけたくない。……だから、辞めるだけです」


 凛とした声でそう言ったつもりだった。が、その声は何処となく震えている。それに自分でも驚きながら、セイディがそっとその赤い目を伏せていれば、ミリウスは「お前の決意がもう揺らがないのならば、俺は何も言わない」と言う。


「だけどな、まだお前は迷っているだろ?」

「……え?」

「声、表情、いろいろなところから推測するに、お前はまだ迷っている」


 ミリウスは自信満々にそう言うと、ベンチの背もたれに背を預けながらセイディを見つめてくる。その目が何もかもを見透かしているようであり、セイディはどうしようもないほどの心地悪さを感じる。……どうして、彼はそんなことが言えるのだ。


「だから、俺から言えることはたった一つだけだ」


 その後、ミリウスは人差し指を一本立て、セイディのことを見据える。セイディもゆっくりとそちらに視線を移せば、彼はそのきれいな唇を歪めたあと言う。


「――お前は、逃げるのか?」


 ゆっくりと、凛とした声でそう言われセイディの心にとげが突き刺さったような感覚が襲い来る。


 どうして彼はそう言うのだろうか。どうして彼はそう思うのだろうか。どうして彼は――セイディの心の奥底の気持ちを読んでしまうのだろうか。


「……それ、は」

「俺はお前が強い奴だって思っている。でもな、強い奴でも逃げたくなることはあるし、弱気になることだってある」


 淡々と告げられるその言葉たちに、セイディの心が揺れていく。


「逃げることだって一種の強さだと思う。……でも、このまま逃げ続けていても意味なんてない。いずれは向き合わなくちゃならない」

「……それは、わかっています」


 ミリウスの言葉に静かにそう返せば、彼は「……わかってないだろ」とセイディの言葉を一刀両断する。


「いずれ向き合う。それは一体いつの話だ? いずれなんて日は自分で作らない限り永遠に来ない。ついでに言えば、その時お前には味方がいるか? リオやアシェルのように、お前のことを守ろうとしてくれる奴が確実にいるのか?」


 その言葉たちはセイディの心に突き刺さっていく。ミリウスの言っていることは真実であり、間違いではない。彼は正論を述べている。わかる。わかっているけれど――。


「ですがっ、私は皆様に迷惑をかけたくないのです。大切だからこそ、迷惑なんて……」


 首を横に振りながらそう言えば、ミリウスはおもむろにセイディに近づいてくる。そのまま彼はセイディの頭を自身の肩に押し付けると「頼るのも、強さだぞ」となんてことない風に言ってくる。その言葉に、セイディは目を見開いた。


「自分一人で何でも抱え込むのも強さかもしれない。でも、強さにはいろいろな種類がある。……人に頼る強さだって、あるんだぞ」


 規則正しくセイディの肩をたたきながら、ミリウスがそう言う。その言葉に――どうしようもないほど、セイディの心がざわめく。


「お前は強いよ。……だけど、一人で何でも抱え込みすぎだ。……そんなんだといつか壊れてしまう」


 まっすぐに、真剣に。ミリウスの口から紡がれていく言葉たち。


 その言葉を聞いていると――思わず、セイディの目から涙がこぼれていた。

ほんの少しだけたちそうな恋愛フラグ……。

次回更新は金曜日を予定しております(o_ _)o))先週は私の体調不良にてお休みしておりました。申し訳ございません……!


また、書籍3巻の方は作業中です。個人的にすごく面白く書けていると思いますのでよろしくお願いいたします……!(告知はまだ先ですが汗)


いつもお読みくださり誠にありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします……!

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