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見かけた実父

 それからというもの、アルヴィドが度々王宮の方に来るという情報をセイディはもらうようになった。


 騎士たちだけではなく、魔法騎士たちも協力して追い返してくれているらしいが、それもいつまで持つかはわからない。そう思いながらセイディはその日買い出しを行っていた。


 王都の街まで降りて、いくつかの備品を買い足していく。ほんの少し調味料も足りなさそうだったので、店に行って買っていく。


「これで全部ですか?」

「はい。そうですね」


 隣を歩くクリストファーと共にセイディは帰路についた。買い物袋三つ分買い物をし、そのうちの一つを持ちながらセイディは歩く。クリストファーは二つの袋を持ち、セイディの手元のメモを覗き込んできた。


「……セイディさん、最近あんまり元気ないですよね」


 帰路についてしばらくしたころ。ふとクリストファーがそう声をかけてくる。そのため、セイディは「そうですか?」と彼に笑みを向けながら返事をする。


 セイディの事情を知っているのは本部に所属している騎士と、一部の騎士。それから一部の魔法騎士くらいだ。クリストファーやルディ、オーティスには教えていない。だからこそ、クリストファーは最近セイディの様子がおかしい理由を理解していないのだ。


「そ、その、僕でよかったら、力になります、から……」


 肩をすくめながらクリストファーがそう言ってくれる。その言葉に胸中が温かくなっていくが、クリストファーに迷惑をかけるわけにはいかない。そう思い、セイディは「お気持ちだけ、受け取っておきますね」と返事をする。


「じゃ、じゃあ、相談でも……僕じゃ、ろくなアドバイスは出せませんけれど……」


 しかし、クリストファーは引いてくれない。そんな彼を何処となく愛おしく思いながらも、セイディは「本当に、大丈夫ですから」と返事をする。


 出逢った頃よりも少したくましくなったクリストファーを見ていると、何となく時の流れを実感してしまう。もう騎士団の寄宿舎で働き始めて半年以上が経っている。そろそろ新しい騎士がやってくる時期でもあるだろう。


(……もう、潮時なのかも)


 ふと、そんなことを思ってしまった。けれど、隣を歩くクリストファーを見ていると、彼らの成長をもう少し見て居たいという気持ちも抱いてしまう。


(でも、迷惑をかけてしまうのは……)


 騎士たちはセイディに迷惑をかけられても構わないと言ってくれている。が、それではセイディの気が収まらないのだ。妹分のように思われているからとはいえ、やはり彼らの仕事を増やすのはいただけない。貯金はある程度溜まりつつあるので、一度他国に渡るのもいいかもしれない。


(まぁ、選択肢は無限大にあるわけだし――)


 そう思いながらセイディが歩いていた時だった。不意に、前から見知った顔が歩いてくるのを見つけた。彼は何処となく怒りに満ちた表情で乱暴に歩いている。だが、何処となくびくびくしているように見えるのは気のせいではないだろう。


 そんな歪さを持っているためか、周囲の人間は彼のことを露骨によける。セイディも彼が全くの知らない人ならば避けていただろう。……しかし。


「……お父様」


 口はそう呟いていた。半年以上ぶりに見た実父は何処となくやつれているようだ。もしかしたら、ろくな生活をしていないのかもしれない。一瞬だけそう思ったが、セイディは頭を振りクリストファーの後ろに隠れる。その瞬間、彼の身体が露骨に震え「せ、セイディさん……?」と声を上げたのがわかった。


「……ちょっと、隠れさせてください」


 そのため、セイディは上目遣いになりながらクリストファーにそうお願いする。すると、彼は「べ、別に、構いませんけれど……」としどろもどろになりながらも返事をくれた。


 実父アルヴィドはセイディに気が付かずに歩いて行った。それにほっと息を吐いていれば、クリストファーは「あの人と、お知り合い……ですか?」と問いかけてくる。……もう、隠し切れないらしい。


「え、えぇ、まぁ。……私の、お父様です」


 苦笑を浮かべながらそう言えば、クリストファーの目が大きく見開かれる。その後、彼は「一体何の用なんでしょうね……?」と問いかけてきた。


「私のことを連れ戻しに来たみたいなんです」

「そ、それは……」

「自分で勘当しておいて、身勝手ですよね」


 ははは。そんな笑い声を上げて歩き出せば、クリストファーが何とも言えない表情になっていた。しかし、彼は意を決したかのように「……ぼ、僕は、いなくなってほしくないです……」と今にも消え入りそうなほどの小さな声で言ってくれた。


「僕はセイディさんのことが好きですから。……その、いなくならないで、ください」


 クリストファーはうつむいていることもあり、その表情は見えない。でも、その言葉が嬉しかったのは真実だ。だからこそ、セイディは「……ありがとう、ございます」と素直に礼を告げた。


「ですが、前にも言った通りいなくならないという約束は、出来ません」


 だけど、これだけは伝えておかなくては。そう思い、セイディは凛とした声でそう告げていた。

次回更新は金曜日を予定しております(o_ _)o))


書籍は第2巻まで発売中、またコミカライズも連載中になります。


いつもお読みくださり誠にありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします……!

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