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昔話(1)

 その後、セイディはアシェルやリオの厚意に甘えて本部で休憩していくことになった。


 セイディ自身もそろそろ休憩を取ろうと思っていたので丁度いいと思い、甘えることにしたのだ。最近では素直に休憩にも応じるようになり、のんびりとすることも増えた。仕事の質は落としていないので、今のところ文句を言われたこともない。


(まぁ、私の場合時給じゃなくて日給だし、一日のお仕事をこなせば別に問題ないのよね……)


 その日のうちに必要な仕事を終わらせれば、どれだけ休んでも構わない。それは初期の頃に言われた。最近では『光の収穫祭』の代表聖女として頑張っていた時期もあるので、何となくかなり昔のような気もするが。


 そして、十五分ほど休憩した後、セイディは「では、私はそろそろ戻りますね」と言って立ち上がる。そうすれば、アシェルは「あぁ」と返事をくれた。リオは「頑張ってね~」と言って手を振ってくれる。そのため、セイディが本部を出て行こうとしたときだった。


「副団長!」


 一人の騎士が、駆けてきた。彼は息を切らしながらアシェルを呼ぶ。それを聞いてアシェルが「どうした?」と声をかければ、騎士は「えぇっと、不審者が……」と言って一旦言葉を切る。その視線はセイディを射貫いており、どうやらセイディがいるから遠慮しているらしい。それに気が付き、セイディは「私のことは、お構いなく」と言って頭を下げる。


「不審者?」

「は、はい。もう散々追い返しているんですけれど、オフラハティ子爵が……」


 ――オフラハティ子爵。


 その言葉を聞いて、セイディはその真っ赤な目を真ん丸にしてしまった。先ほどミリウスから教えてもらっていたとはいえ、さすがにタイミングが悪すぎる。そう思いセイディがぼんやりとしていれば、アシェルは上着を羽織ると「俺が出る」と言って本部を出て行こうとする。


「リオはセイディの元にいてやれ」

「わ、わかったわ」

「お前は一緒に行くぞ」

「は、はい!」


 アシェルはてきぱきと指示を出し、報告に来た騎士を連れて歩き出す。その後ろ姿をセイディが呆然と眺めていれば、リオが「……大丈夫?」と声をかけてくる。どうやら、今の自分は相当ひどい顔をしているらしい。


「……はい」


 ちょっと、頭が混乱しただけだ。そういう意味を込めてにっこりと笑えば、リオは「……無理しなくても、いいのに」と言葉をくれた。そのため、セイディはゆるゆると首を横に振る。


「ただ驚いた、だけです。ちょっと、いきなりすぎて……」


 苦笑を浮かべながらリオにそう声をかければ、彼は「そりゃそうよね」と同意してくれた。その後、彼も苦笑を浮かべる。


「いずれは、こうなると思っていましたし。代表聖女を務めてしまった以上、お父様方に居場所がバレることはわかっていました」


 リオにソファーを勧められ、そこに腰を下ろす。そして、セイディはそんなことを零してしまった。


 どうしてだろうか。リオにならば、本音を話していいと思える。それは、彼のことを信頼しているから。彼のことを、信頼のおける友人だと思っているから……なのだろう。まぁ、微々たるものかもしれないが。


「……気になっていたこと、尋ねてもいい?」


 セイディのすぐ隣に腰を下ろし、リオはセイディの顔を覗き込んできてそう言ってくる。だからこそ、セイディはこくんと首を縦に振った。


「……貴女の元家族は、どういう人たちだったの?」


 直球な問いかけだった。でも、不思議と不快感はない。そう思いながらセイディは「……聞いても、面白いお話じゃないですよ」と前置きをする。


「構わないわ。貴女のこと、知りたいの」


 それに対して、リオはまっすぐにセイディの目を見てそう言ってくれる。


 ここに来た当初。異母妹であるレイラのことは多少話した。けれど、父と継母のことを話すのは初めてかもしれない。そう思いながら、セイディは何から話そうかと口を動かす。リオは急かすことなく待ってくれていた。


「えぇっと、オフラハティ子爵家は、私から見てお爺様が発展させた家です。お爺様はとても優秀なお方で、誰からも慕われるような人でした」


 目を閉じてゆっくりと話す。


 今でこそ顔がおぼろげになったものの、実母を亡くしたセイディを必死に育ててくれたのは祖父母だった。そのため、彼らには感謝してもし足りないと思う。


「お父様はお爺様の命令で私の実のお母様と結婚したそうです。まぁ、よくある政略結婚の一種……だと思えば、いいと思います」

「……そう」


 セイディの実父であるアルヴィド・オフラハティは何処となく気が弱かった。しかし、プライドだけは高くいわばジャレッドのようなタイプだったのだ。そして、彼は何よりも実の父に逆らえなかった。


「でも、お父様にはすでに恋人がいました。その方が私の継母、異母妹レイラの実の母です」


 セイディの継母であるマデリーネ。彼女はアルヴィドを心の底から愛していたらしい。そのため、彼が結婚してからもアルヴィドの愛人として側に居続けたそうだ。それは、古株の使用人から聞いていた。


「貴族なので愛人を持つことを咎められはしませんから」


 そこまで言って、セイディは一度肩をすくめた。

今回から少しだけセイディの昔話です(n*´ω`*n)

次回更新は……どうしましょう。日曜日に出来たらしたいなぁと思っております。間に合わなかったら火曜日になります。


書籍は第2巻まで発売中。コミカライズも連載中ですので、そちらもよろしくお願いいたします……!


いつもお読みくださり誠にありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします……!

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