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時間切れ

 そうすれば、セイディにとって同僚ともいえる騎士リオがお茶を持ってきてくれた。最近はすっかり寒くなったので、お茶は温かいものである。それをありがたく思いながらセイディがカップに口をつければ、ダルそうな様子でミリウスがセイディの方にやってきた。


「届け物って、何だっけ?」


 そして、彼はそう問いかけてくる。なので、セイディはフレディから預かっていたファイルを目の前の机の上に置いた。


 そのファイルを一瞥し、ミリウスは「あぁ、これか」と言ってファイルを手に取り、ぺらぺらと捲っていく。その様子をセイディがぼんやりと見つめていれば、彼はファイルをアシェルに手渡し「お前も中身を見ておけ」と命じていた。


「……はぁ?」

「お前にも必要な情報だからな」


 ミリウスはアシェルにそれだけを告げると、セイディの前に腰を下ろす。それから、「リオ、俺にも茶」とソファーの背もたれに背を預けながら言う。その言葉に気を悪くした風もなく、リオは「はいはい」と言いながら奥へと引っ込んだ。


 リオが本部の奥へと行ったのを見計らったかのように、ミリウスはセイディに視線を向けてくる。その後、彼は「……ちょうど、よかったわ」と静かな声で告げてきた。


「……どうなさいましたか?」


 何だろうか。何となく、嫌な予感がする。そんな風に考えながらセイディが小首をかしげれば、彼は「不審者情報があってな」と言いながら頬杖を突く。


「不審者、ですか?」


 王宮の付近では度々不審者が目撃される。セイディだってそれは知っているが、どうしてそれをセイディに教えるのだろうか。セイディはただのメイドであり、警護の人間ではないというのに。


 そう思いセイディがミリウスのことを見つめていれば、彼は「……あぁ、セイディに関係のある人物だ」と答えるとゆっくりとその緑色の目を細める。その視線は何処となく怒りを含んでいるようであり、セイディの背筋に冷たいものが走ったような気がした。


「……まさか」


 セイディに関係のある人物。それを聞いて、一番に思い浮かぶのは――元家族。元婚約者であるジャレッドは捕らえられているため、不審者として目撃される可能性はない。彼は顔が割れているため、ミリウスがわざわざ『不審者』というわけがないのだ。


「……お父様方、ですか?」


 ゆっくりとミリウスにそう問えば、彼はこくんと首を縦に振った。


(お父様やお義母様が、ついにこちらに……)


 内心でそう呟き、セイディの表情が一気に曇る。それを見たためだろうか、アシェルは「……団長」とミリウスに声をかける。その口調は何処となく刺々しく、まるで咎めるような口調だった。もしかしたら、彼はこの情報をセイディに教えないようにと思っていたのかもしれない。


「オフラハティ子爵夫妻には、帝国との癒着疑惑があるんだぞ? このままにしておけるわけがないだろう」

「……それは、そうだが」


 ミリウスの言葉にアシェルが眉を下げる。彼も、ミリウスの行ったことに関しては正しいと思っている。それがわかるからこそ、セイディは膝の上でぎゅっと手を握りしめた。


 ずっと、このことは考えていた。もしかしたら実父と継母が、セイディの元にやってくるかもと。『光の収穫祭』で代表聖女を務めてしまった以上、目立ってしまっているのだ。見つかる可能性は跳ね上がっていた。


「セイディ。そろそろ、先送りにしていた結論を出すべきじゃないのか?」


 ミリウスのきれいな唇が、残酷な真実を告げてくる。そのため、セイディはうつむいてしまった。いろいろなことがあり、この問題は先送りにしてきた。けれど、それももう限界だということらしい。それを実感し、セイディは「……考え、ます」と口にする。


(考えると言っても、結論なんてもうとっくの昔に出ているのだけれど……)


 元家族に見つかったら、メイドを辞めるつもりだった。いつまでも逃げ回ることは出来ない。が、今は彼らと向き合うタイミングではないと思っている。だからこそ、メイドを辞めて新しい住居と仕事を見つけたい。そう考えてしまうのだ。


「そうか。……それだけ、言っておきたかった」


 セイディの態度を見てかミリウスはうんうんとうなずき、立ち上がり自身の執務机の方に戻っていく。残されたのはアシェルとセイディであり、アシェルはセイディのことを何とも言えないような目で見つめていた。


「セイディ。俺はお前のことを妹のように思っているからな。……だから、手助けしたいとは、思っている」


 静かな空間にアシェルのその言葉が響き渡る。だが、セイディはうなずけなかった。アシェルの手助けを借りれば、元家族を退けることも容易い。それはわかっている。ただ、それはセイディのちっぽけなプライドが許さないのだ。


「……いえ、私は、自分で、何とかします」


 そのため、セイディは目を瞑りそう答えた。


 そんな様子のセイディを見て、アシェルはどう思ったのだろうか。静かに「……そうか」と返事をくれるだけだった。

次回更新は金曜日の予定です(n*´ω`*n)


書籍は2巻まで発売しております。コミカライズも連載中ですので、そちらもよろしくお願いいたします……!


いつもお読みくださり誠にありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします……!

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