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閑話4 もう一度、告白1(クリストファー編)

 その日、セイディはいつものようにメイド業務にあたっていた。


 本日の主な仕事は掃除であり、玄関の土を箒で吐き出していく。徐々にきれいになっていく玄関を見て、満足げにうなずいていれば、不意に「セイディさん!」と声をかけられた。


 声の方向――玄関の外に視線を向けると、そこでは真っ赤な髪を風に揺らして可愛らしい笑みを浮かべたクリストファーが立っていて。


「クリストファー様、お仕事は終わりですか?」

「はい、今日は半休なんです」


 何処となく照れたように笑いながら、クリストファーはそう言ってくる。


 セイディがまだ騎士団の寄宿舎に来たばかりの頃。クリストファーはセイディを警戒し、素っ気なく当たっていた。だが、今ではそんな様子見る影もない。人懐っこい笑みをセイディに向け、ちょこちょこと後ろをついてくるくらいなのだ。


「そうですか。では、私はお仕事に戻りますね」


 ちょうど玄関の掃除を終えたところだった。だからこそそう言えば、クリストファーは「……あ、あの!」と空のバケツを持ったセイディのことを呼び止める。そちらに視線を向ければ、彼は何処となく上目遣いになりながらセイディのことを見つめている。……大層可愛らしかった。


「……どう、なさいましたか?」


 小首をかしげてそう問えば、彼は「……ぼ、僕に、お手伝いできることはありませんか……?」と恐る恐ると言った風に声をかけてくる。


 ……お手伝い。


 確かにあると助かるのは真実だ。だけど、クリストファーは騎士である。セイディの仕事まで押し付けるわけにはいかない。


「いえ、特にないですよ。どうぞ、お休みくださいませ」


 にっこりと笑ってそう告げ、セイディが立ち去ろうとする。すると、クリストファーは慌ててセイディの手首をつかんできた。その所為で驚いてしまい、セイディの手から空のバケツが転がっていく。


「ぁ、あの、すみません……!」


 その様子を見て、クリストファーは慌てて謝ってくる。特に気にしていないので、構わないのだけれど。


 そう思いながら、セイディは「いえ、お気になさらず」と言ってバケツを拾い上げた。


「あ、あの、その……」


 セイディの淡々とした姿を見つめながら、クリストファーはまた恐る恐ると言った風に声をかけてくる。……何か、あるのだろうか。そう感じとり、セイディは「……一緒に、休憩でもしますか?」と誘ってしまった。


「い、いいんですか……?」

「はい。まだ時間はありますし、少しだけ、ですけれど……」

「し、します! 一緒に休憩します!」


 顔を思いきりセイディに近づけ、クリストファーはそう言う。その態度に若干引いてしまいながらも、セイディはぎこちない笑みを浮かべ「そ、そうですか」と言葉を返す。実際、彼のそのぐいぐいと来る態度は、少し戸惑うのだ。


「では、お片づけをしてきますので、食堂で待っていてください」


 クリストファーにそう声をかけ、セイディが歩き出せば、クリストファーは何故かセイディの後ろをちょこちょことついてくる。その姿はまるで親鳥についてくるひな鳥のようで。……大層可愛らしい。


(って、そうじゃないわよ。クリストファー様疲れていらっしゃるんだから、休ませないと……)


 アシェルならばきっと、そういうだろうから。


 そう考えセイディが勢いよく振り返れば、その際に足を滑らせて転びそうになる。多分だが、疲れがたまって足が絡まってしまったのだろう。ここ最近、頑張りすぎていたから。


(……私の、バカっ!)


 自分自身にそんな言葉を投げつけ、セイディはそう心の中でつぶやく。こんなところで転んだら、クリストファーに心配をかけてしまうのに。そんな風に思うけれど、どう足掻いても体勢が立て直せない。


「……セイディさんっ!」


 クリストファーの声が、近くから聞こえてくる。内心で「心配かけて、申し訳ございません」と謝罪をし、セイディが襲い来る痛みに構えていれば、誰かに抱き留められた。


「……え?」


 驚いて顔を上げれば、セイディはクリストファーに抱きしめられていた。どうやら、彼は咄嗟にセイディの手首をつかみ、自身の方に引き寄せてくれたらしい。


 バケツと箒が、床に落ちる。その音を聞きながら、セイディはぼんやりとしてしまう。……クリストファーは、確かに男性だった。可愛らしい顔をしているのに、身体はしっかりとしていた。


「……セイディさん! 大丈夫ですか⁉」


 慌てたようにそう問いかけられ、セイディは「え、えぇ」と呆然と返事をする。そうすれば、クリストファーは「ど、何処も、痛みませんか⁉」とセイディの両肩に手を置き、がくがくと揺らしてくる。……それが一番、辛い。


「だ、だいじょう、ぶ、です。なの、で、揺らすのは、やめていただけると……」

「あっ! す、すみませんっ!」


 セイディの言葉を聞いて、クリストファーは慌てたようにセイディの肩から手を放す。


 彼の顔は何処となく赤く染まっており、照れているのだろう。咄嗟とはいえ、セイディを抱きしめたことが恥ずかしかったのかもしれない。


「……助かりました。ありがとう、ございます」


 そのため、セイディはにっこりと笑ってお礼を告げた。

連続更新三日目です(n*´ω`*n)

第1部最終章のプロットは大まかにですが出来上がりましたので、予定通り8月に始められるように頑張ります。


また、書籍の第2巻は早売りしているようですので、見つけた際はよろしくお願いいたします……!


いつもお読みくださり誠にありがとうございます。明日もよろしくお願いいたします……!

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