閑話2 王宮舞踏会1(ミリウス編)
(おかしい、絶対におかしい)
きらきらと美しく揺れるシャンデリア。王国でも有名な楽団が奏でる音楽。周囲の人々は美しく着飾り、ダンスを踊る。
(場違い。絶対に場違い。私ここにいるべき人間じゃない!)
立食形式の食事はとても美味しそうである。色気より食い気のセイディにとって、豪華な食事はまさに宝。が、今はそれどころではない。貼り付けたような笑みを浮かべ、額にじりじりと浮かび上がる汗をごまかすのに必死だった。
「ほら、行くぞ」
そう言われ、手を差し出される
自身の隣に並ぶのは、美しい金色の長い髪を一つに束ねた男性――つまりは、ミリウス。彼は普段とは全く違う余所行きの笑みを浮かべながら、セイディを見つめる。
それを見て、セイディの胸がときめく……わけもなく。ただ一つ、思うのだ。
(絶対に私は場違いです~!)
そう思いながら、貼り付けた笑みを浮かべミリウスの手に自身の手を重ねた。
★☆★
こうなったのは、かれこれ一週間前の話が原因である。
その日、セイディはいつものように夕食を騎士たちと食べていた。その際に、ふと「王宮の食事って、美味しいのでしょうか?」とアシェルに問いかけたのだ。
「……まぁ、美味しいと思うぞ。……人それぞれだけれどな」
「そうなのですか」
会話は、それで打ち切られた。なんでもない世間話の一環。ただし、たった一人それを世間話で終わらせなかった人物がいるのだ。……その人物こそ、ミリウスだった。
彼はセイディに「王宮の食事、食べるか?」と問いかけてきたのだ。
「……よろしいのですか?」
今ならば、それが罠だとよく分かる。しかし、食い気に走るセイディにとってそれはまさに魅力的な言葉。無意識のうちにそんな言葉を口に出していれば、ミリウスは「一つだけ、条件がある」と言って人差し指を立てた。
「……その条件を呑んでくれるんだったら、どれだけでも食べさせてやる」
まぁ、ミリウスだし突拍子もないことを言うのは普段通り。それに、今まで無茶ぶりなんてされたことがない。だから、大丈夫だろう。そう楽観視し、セイディは受け入れた。多分だが、ミリウスのことを信頼していたというのも関係していたはずだ。
「じゃあ、この日にここに来てくれ」
そして渡されたメモ。そこに書いてあるのは、王宮の簡易地図。この時点で、気が付くべきだったのだ。……指定された部屋が、明らかに食事を摂る部屋ではないということに。
「……あと、その日休みにしておいていいから」
「……ですが」
「俺の権限で休みにする。だから、昼一でここに来い」
そう言われ、疑うことなくうなずいた自分が今はとても恨めしい。
そう思っても、後悔など先に立たないのだが。
★☆★
(どうして私が王宮の舞踏会に参加しているんですか⁉)
結局セイディがはめられたことに気が付いたのは、当日指定された部屋に行ってからだった。そこでは数名の侍女が待ち構えており、セイディをあっという間にドレスに着替えさせ、化粧を施した。髪の毛を結い上げ、豪華な髪飾りをあしらわれた。
その後、ミリウスは言ったのだ。
『じゃあ、お前今日一日俺のパートナーな』
と。
「……あの~」
隣に並ぶミリウスの表情は、いつもよりもずっと真剣だった。その横顔がきれいだなぁと思い、現実逃避をしようとする。だが、うまくいかない。もう全身に汗をかいているし、どうしてこうなったのか脳が上手く処理していない。さぁ、どうしたものか。
「どうした、セイディ」
「いえ、どうして私、王宮の舞踏会に参加しているのでしょうか……?」
控えめにそう問いかければ、ミリウスは「俺にパートナーガいなかったから」とあっけらかんと答えてくる。うむ、意味がよく分からない。
「あのなぁ、舞踏会っていうのは、パートナー必須なわけ。けど、俺にはいなかった。それだけだろ」
うん、肝心なところがぼかされているような気がする。
そう思い、セイディは「何も、私じゃなくても……」と返事をする。
セイディよりもミリウスに似合う女性はたくさんいるだろうし、彼ならば引く手あまただろう。なんといっても、こんなにも美形で身分も王弟なのだから。王位継承権を放棄しているとはいえ、公爵になることは確定しているのだから。
「適当な奴誘ったら、勘違いされるんだよ」
「……はぁ」
「その点、セイディだったらそういう心配がない。……王家主催である以上、俺が参加しないのもなんだしな」
確かに、最後の言葉は間違いではない。
そんな風に思うが、セイディからすればはた迷惑でしかない。……食事で見事に一本釣りされたような状態である。
(そういえば、以前フレディ様もそうおっしゃっていたわね……)
美形には美形なりの悩みがあるのだろう。そう自分に言い聞かせることで、疑問は無理やりねじ伏せた。
「ところで――」
「セイディって、ダンスできるのか?」
セイディの声を遮り、ミリウスがそう問いかけてくる。だからこそ、セイディは「……最低限は」と視線を逸らしながら言う。
代表聖女としての教育の中には、ダンスレッスンもあったのだ。そのため、ある程度は踊れる……はず、だと思っている。実践はしたことがないので、よく分かっていないが。
「じゃあ、行くか」
「……え?」
いや、何処へ?
そう思うセイディを他所に、ミリウスは踊る人々の輪の中に入っていく。
……まさか、まさか。
「いや、踊るのですか⁉」
「一曲踊ったら帰る」
そんな言葉と同時に、セイディはミリウスに引っ張って行かれた。
閑話その2、ミリウス編です(n*´ω`*n)続きます。
今後の予定なのですが、7月いっぱいは閑話を連載します。8月からは週3回更新に戻しまして、第1部最終章を始めます。
私の方が少し忙しく、なかなか最終章のプロット等を作れなくて……申し訳ございません。
いつもお読みくださり誠にありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします……!
(あ、今月の15日に活動報告を上げますので、覗いてくださると嬉しいです。新キャラのデザインを公開します)




