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巡る好意

 『光の収穫祭』の最終日。本日は三つの神殿を回る予定である。そして、最後の神殿は王都で最も力を持つ神殿であり、姿を消した神官長が勤めていた神殿だった。


(神官長、どうなさっているのかしら……?)


 やはり、そこが今一番気になっていることだろうか。そう思い胸の前で手を握れば、そんなセイディのことをミリウスは見つめていた。その鋭い緑色の目は、セイディの不安など見透かしているのだろうな。そんな風に思うからこそ、セイディは「アーネスト様やジョシュア様、どう仕掛けてくると思いますか?」と問いかけてみた。


「……そうだな。まぁ、ジョシュアの方は行動が読めねぇな。あの男は俺と似た人種だ。自由気ままで、人に縛られることを嫌う。そういう奴は、読みにくい」


 セイディの言葉にミリウスは珍しく真面目に返してきた。が、言っていることはあまり参考にはならない。まぁ、セイディも同意なので何かを言うつもりはないのだが。確かに、ミリウスとジョシュアは何処となく似ていた。自身を最強だと思っているところや、自由気ままで人に縛られることを嫌う部分など。


「アーネストの方は……かなり焦りが出てきているな。あぁいう時が一番厄介だ。……何をしでかすか分からない」


 その後、ミリウスはそう続けた。……確かに、アーネストは何処となく焦っていた。多分、彼は『光の収穫祭』の開催時期にすべてを壊すつもりだったのだろう。しかし、その予定は現状上手く行っていない。彼の性格ならば、焦るなと言う方が無理なのかもしれない。


(……あのお二人も、悪い方ではないのよね。……ただ、やり方が間違っているだけ)


 ただ、それをまっすぐに伝えたところで、あの二人には響かないだろう。あの二人にとって、正しいのは自分たち。相手が間違っているのだから。


 そう思いながら、セイディは馬車に揺られ続ける。とりあえず、一ヶ所目の神殿を目指さなければ。


 先ほどから黙っているジャックに視線を向ければ、彼は静かに窓の外を見つめていた。その横顔は絵になるほど美しい。そう思って呆然と彼のことを見つめていれば、ジャックはその視線に気が付いたのか「……見るな」と言う。


「お前は殿下と会話をしていろ。……わざわざ、俺を見るな」

「……いえ、見ていたわけでは」

「……じろじろ見ていただろ」


 実際、呆然と見ていたことは正しい。が、決してじろじろと見ていたわけではない。そういう意味を込めてセイディが首を横に振れば、ジャックはそっと視線を逸らしていた。これ以上言うことは無駄だと感じたのかもしれない。


「お前本当に扱いが面倒だなぁ」


 そんなジャックを見てか、ミリウスはからかうような声音でジャックにそう声をかけていた。それが気に障ったのか、ジャックは「殿下はアイツと話していてください」と素っ気なく返し、また外を見つめていた。


「一つだけ、教えておいてやる」


 不意にミリウスはセイディの方に近づき、セイディの耳元に唇を寄せる。それから、彼は「……ジャック、多分お前のことが好きだぞ」と突拍子もないことを告げてきて。その所為で、セイディは「はい?」と素っ頓狂な声を上げてしまった。


「いや、恋愛感情じゃないぞ。単に、友人として好いているっていうだけだ。……友人以上恋人未満って奴?」


 その言葉に驚きセイディがミリウスの顔を見つめれば、彼は悪戯が成功した子供の様な無邪気な笑みを浮かべていた。……からかっていただけ、なのか。それならば、構わない。そう思いセイディが一息ついていれば、ミリウスは「完全に嘘じゃないぞ~」と軽く言ってくる。


「というか、ジャックが好きでもない奴に女性克服の練習を頼むわけがないだろ」

「……まぁ、それはそうですね」


 『光の収穫祭』の準備期間が始まる前。セイディはジャックの女性克服の練習を手伝っていた時期があった。なんでも、ジャックに縁談が来ていたらしく、それの練習だとか、なんとか。ジャックは元々断るつもりだったらしいが、相手を不快にはしたくないということだった。そのための、練習だった。


(デートの練習……みたいなことをしたけれど、あれはデートじゃないわね)


 ふとあの時のことを思い出したため、セイディの口元が緩んだ。結局あの後ジャックはいつも通りの態度で相手に接してしまい、縁談は破談になったとか、なんとか。……まぁ、噂で聞いただけなので実際はどういう風だったのかは知らない。


「……おい、殿下。余計なことを言っていないでしょうね」


 そんな二人のこそこそ話が耳に入ったのか、ジャックが言葉を挟んでくる。そのためだろう、ミリウスは「別に余計なことじゃない」と言って好戦的に笑っていた。


「お前がセイディのことをそこそこ好いているっていう話だ」

「……誰がだ!」


 ミリウスの言葉に、ジャックは言葉を叫んでいた。……それだと、逆に怪しまれるぞ。そうセイディは思ってしまうが、彼はそこまで思考回路が回っていないのだろう。


「恋愛感情か?」

「余計なお世話だ!」


 ……それだと、逆に肯定しているようにしか聞こえないぞ。冷静な思考を持っている人がいれば、そう告げたのだろう。ただ、生憎そういう人物がここにいなかった。それだけだ。

最近サブタイトルに悩んで悩んで時間がかかります(´・ω・`)次回更新は火曜日を予定しております。


また、各サイト様で第2巻の予約が始まっておりますので、よろしくお願いいたします……!


いつもお読みくださり誠にありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします……!

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