表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

148/275

アーネストの狂気(1)

 身体が重い。そう思いながらセイディが瞼を開けば、そこは何もない空間だった。……魔法の類で作り出されたかのような空間に、セイディは目を凝らす。しかし、特に何も見えない。


(ジャレッド様が何かをした……というのは、考えにくいわね)


 そして、そう思う。ジャレッドが何かを出来る可能性は低い。ジャック曰く結界が張ってあったらしいし、ジャックが隣にいた以上何か変なことをすることは出来ない。それに、ジャレッドは改心していた。もしもあれが演技なのだとすれば、彼は役者に向いている。そう思えるレベルだった。


「……とりあえず、どうにかして目を覚まさなくちゃ」


 そもそも、まだもう一日『光の収穫祭』は残っているのだ。こんなところで大切な時間を無駄にするわけにはいかない。そんな風に考え、セイディはとりあえず頬をつねってみる。その後、自分の手をつねってみる。古典的なやり方かもしれないが、今はこれしか考えられなかった。


 だが、目が覚める気配はない。


「一体、どうしろって言うのかしら?」


 多分、セイディをここに置いた人物は何か狙いがあるのだろう。そうじゃないと、こんな手間のかかることはしない。


 その後、しばらくした時だった。誰かの足音が、耳に届いた。その足音にセイディは聞き覚えがある。そのため、セイディはその足音の方向に視線を向ける。すると――そこには、予想通りの人物がいて。


 美しい青色の髪。目を細めながら、セイディのことを見据える人物。ブーツと床がぶつかるような音を鳴らしながら、彼はセイディのすぐ前で立ち止まった。


「……アーネスト様」


 その人物の顔を見て、セイディはそう言葉を零した。その言葉を聞いたためだろうか、アーネストはにっこりとした表情を作る。それから、ゆっくりと口を開いた。


「ようやく、お出ましですか」


 彼は凛とした声でそう告げると、セイディの目をまっすぐに見つめてくる。その目つきの鋭さに、セイディは一瞬だけぶるりと背筋を震わせた。が、怯んでなどいられない。そう思い、アーネストのことをまっすぐに見据える。そうすれば、彼は「……そんなに、睨まなくても」と小さな声で呟いていた。


「……こんなところに私を連れてきて、何が狙いですか?」

「いえ、俺には狙いなどありませんよ。……ただ、毒が効いてきたというだけですから」

「……毒」

「はい。貴女たちが回収していた魔法石。あの中には、遅延性の毒が入っていました。光の魔力の持ち主にだけ、流れる毒が」


 クスっと声を上げて笑うアーネストに対し、セイディは目を見開いてしまう。そこまでの想像は、出来なかった。でも、そう言われれば当然なのだ。あの魔法石には何か狙いがあったに違いない。考えが、甘かった。


「狙ったのは貴女……というか、聖女ですね。まさか、貴女が全部回収するとは思いませんでしたけれど」


 クスクスと声を上げながら笑うアーネスト。そんな彼を見つめながら、セイディは瞬時に思考回路を張り巡らせる。毒が流れ込んだとして、自分の身体は大丈夫なのだろうか? そんな心配が浮かび上がり、セイディの中で嫌な予感が駆け巡る。


「あぁ、貴女の想像するような状態にはなっていませんよ。俺たちが準備したのは、ただ意識が剥離する毒です。つまり、貴女の意識をここに呼び寄せただけ」


 手のひらをひらひらと振りながらアーネストはそう告げ、コホンと一度だけ咳ばらいをする。多分、彼は今から重要なことを言おうとしている。それが分かるからこそ、セイディは唇をぎゅっと結び、アーネストのことを見据える。


「俺には狙いなどありません。俺が欲しいのは俺と俺の婚約者が平和に暮らせる場所。それだけですから」

「……そう、ですか」

「でも、皇帝陛下は違いますよね。あのお方にはきっちりとした目的があって、その目的のために動いている。そのためならば、手段なんて選びません」


 次にアーネストは目を閉じて、そんなことを言ってくる。ただ淡々と。何の感情も宿さないような声で。開いた目に宿った感情も……まさに、無。


「俺はあのお方と約束しました。協力してくれたら、俺と婚約者の願いを叶えてくれると」

「……ジョシュア様も、ですか?」

「そうですね。俺たち側近は、自らの願いを叶えるために皇帝陛下に従っております」

「つまり、忠誠などないと」

「いえいえ、最低限はありますよ」


 セイディの問いかけにアーネストは答えをくれる。その答えは、多分本当のこと。何処となく歪に感じても、本当のことなのだろう。それに、マギニス帝国の皇帝ならば一人二人の願いを叶えることなど、容易いだろう。金も権力も力もあるのだから。


「……俺とジョシュアは、貴女を始末するようにと皇帝陛下に命令を受けました。ただ……邪魔者が、入ってしまいまして」


 多分、アーネストの言う邪魔者とはあの時セイディのことをジョシュアから庇ってくれた男性のことだろう。それは、セイディにもすぐに想像が出来た。そして、彼の正体も。

多分ぼちぼち帝国の本当の目的が分かると思います……(´・ω・`)次回更新は金曜日を予定しております。また、そろそろこちらの作品についてのお知らせが、あったり……?


いつも読みくださり誠にありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ