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元婚約者に会いに行きます(3)

「ジャレッド様。何処をどう見てそんなことをおっしゃるのですか」


 一人慌てふためくジャックを一瞥し、セイディは淡々とそう言葉を返してみる。すると、ジャレッドは「……だって」とほんの少しだけいじけたような表情をする。全く可愛くないが、なんというか意外な表情だ。そう思って、セイディは軽く驚いてしまった。


「僕といた時よりも、ずっと楽しそうな表情をする」

「……」

「あの後、ずっと一人で考えていたんだ。僕はセイディに近づこうとしていなかった」

「……それ、は」


 それは、セイディも理解していたことだった。二人が二人とも歩み寄ろうとはせず、互いを疎み見放していた。だからこそ、あんな結末になってしまったのだろう。多分、どちらにも非があったのだろう。


「僕は甘い言葉だけをくれるレイラの方に流された。……今ならば、分かるんだ。セイディが僕のためにいろいろと怒ってくれていたことに」


 ジャレッドは目を伏せてそんなことを告げてきた。……ようやく、分かってくれたのか。そう思う気持ちはあるが、どうしても思ってしまうのだ。今更遅いと。どう足掻いても過去には戻れないし、どう足掻いても元の関係に戻ることはない。もう、自分たちの関係は終わったのだ。婚約破棄という四文字によって。


「……レイラは、どうしていますか?」


 その後、セイディが絞り出した言葉はそんな言葉だった。レイラのことは、元々気になっていたのだ。そのためそう問いかけたのだが、ジャレッドは首を横に振り「分からない」と言う。ジャレッドはレイラに心酔していたように見えた。なのに、今ではそんな様子はない。目が、覚めたのかもしれない。それか、気持ちが冷めたのだろう。そう思い、セイディはただ「そうですか」とだけ言葉を返した。


(レイラの様子が、知れればよかったのだけれど)


 ミリウスから教えてもらった帝国への内通の話。それに通じる手掛かりが、知れればよかったのだけれど。心の中でそう思い落胆するセイディの隣で、もう一度ジャックが椅子に腰を下ろしたのが分かった。


「……あと、もう一度だけ言っておきますが、私はジャック様の恋人ではありませんから」


 そして、セイディはもう一度はっきりとそう言っておく。自分は婚姻するつもりなどこれっぽっちもない。そういう意味を込めてジャレッドを睨みつければ、ジャレッドは「……そうか」と静かに言葉を告げてきた。


「……僕と一緒にいた頃よりも、楽しそうだなって、思ったんだが」

「そうですね。それは、認めます」

「おい」


 セイディの言葉に、ジャックも反応する。そんな彼を他所に、セイディは「いろいろと、お訊きしたいのですが」と話を本題に移すことにした。一応、ジャレッドはセイディが自分を助けるつもりはないということを理解しているらしい。何処となく疲れたような表情で、セイディのことをまっすぐに見据えてくる。


「……アーネスト様のこと、なのですが」


 ゆっくりと噛みしめるようにその名を呼べば、ジャレッドは「……あの帝国の魔法騎士か」とボソッと言葉を漏らす。そのため、セイディは「そのアーネスト様です」とはっきりと返事をした。


「アーネスト様、何か目的があるとかおっしゃっていませんでしたか? それか、何かおかしなことを……」

「……いや、特には」


 が、ジャレッドが返してきた言葉は予想ハズレの言葉だった。いや、違うのだろう。元々、そんな予感は薄々していた。アーネストのような人物が、易々と自らの情報を漏らすとは考えにくい。きっと、最低限のことだけをジャレッドに教えていたのだろう。


「あの男は……そうだな。魔法石を使って僕を操っていた……らしい。あと、アフターフォローはしないとか、なんとか、言っていたような……」

「アフターフォローですか」

「僕が破滅するのも成功するのも、運次第だと言っていたような気がする」


 ジャレッドは少し考え込んだ後、そんなことを教えてくれた。その言葉は、なかなかにあのアーネストらしい言葉ではないだろうか。


「あと、この国には諜報活動に来ていると言っていたような気がする」

「それは、知っております」

「……それから……あぁ、『あの方が動きやすいように』とかも、言っていたような気がする」


 そのジャレッドの言葉を聞いて、セイディは思考回路を動かした。アーネストの言う『あの方』とは大方フレディのことだろう。もしくは、リリス。……あと可能性があるとすれば、ジョシュアだろうか。だが、ジョシュアの場合はあの方とは言わないはずだ。やはり、一番に思う浮かぶのはフレディとリリス。


「……そうですか」

「あの男は、僕を使ってこの王国を混乱の渦に陥れようとしていたみたいだ。……まぁ、失敗したんだけれどな」


 ははは。そんな乾いた笑いを零すジャレッドは、何処となく寂しそうだった。でも、特別な同情などは湧いてこない。だから、セイディは「そうですか」ともう一度相槌を打つだけにとどめておいた。


「……今後、どうされるのですか?」


 そして、そう問いかけてみる。すると、ジャレッドは「……どうするもこうするも、神殿には戻れない」と言って目を伏せていた。その言葉は、正しい。

本日からコミカライズがスタートしております(n*´ω`*n)また、明日も更新予定です(明日の次は火曜日を予定しております)


コミカライズに関しましては、この下にあるバナーの方にリンクを貼り付けておりますので、そちらから飛べますので、よろしくお願いいたします……!


いつもお読みくださり誠にありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします……!

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