表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

145/275

元婚約者に会いに行きます(2)

 その後、ジャックに案内されセイディが連れてこられたのは、王宮の一室だった。その部屋は質素という言葉が似合い、王宮には似つかわしくない部屋。興味深そうにきょろきょろと辺りを見渡してしまうセイディに対し、ジャックは「……いろいろと、今回は特例だ」と言いながらため息をつく。


「普段は地下牢に入れるんだがな。今回に限っては、取り調べに時間をかけることになった。消耗を減らすためにも、こっちに入ってもらっている」


 ジャックは淡々とそう告げ、セイディを手招きする。なので、セイディはゆっくりと歩を進めた。


 そして、部屋の奥の奥。そこに、ジャレッドはいた。何処かやつれたような表情を浮かべるジャレッドは、セイディのことを見つけると「セイディ!」と言って駆け寄ってくる。が、すぐにジャックに阻まれていた。それをありがたいと思いながら、セイディは表情を消してしまう。


(こういう時、どういう表情をすればいいのかしら?)

 それは、そう思ってしまったためだ。


 対するジャレッドはセイディの表情が無であることに気が付いてか、少し気まずそうに視線を逸らす。きっと、自分を助けてくれるわけではないと悟ったのだろう。……いつもは鈍いのに、こういう時は鋭いのだな。いや、違う。多分、神官長にこってりと絞られ、ほんの少しだけ相手の様子を窺うことを覚えたのだろう。そう、セイディは判断した。


「とりあえず、座れ。こいつに触れたら、ただじゃおかないからな」


 ほんの少しだけすごみながら、ジャレッドにそう告げるジャック。そんなジャックに怯んでか、恐る恐るといった風にジャレッドは指定された椅子に腰を下ろした。それから、ジャックはセイディにも椅子に腰かけるようにと指示を出す。


「一応こっちには結界魔法がかかっているから、アイツがお前に手を出すことは出来ない。……その点は、安心して良いぞ」

「……ありがとう、ございます」


 一体、いつの間にそんなことをしたのかと問いかけたかったが、今はそれどころではないのだ。それに、犯罪者と対面するのに無防備と言うのはいささか問題があるものだ。セイディは、自分自身にそう言い聞かせ、ジャレッドを見つめる。


(……なんていうか、何の感情もわいてこないわね)


 何故だろうか。今になったら、もう何も言うことがない。何も伝えることがない。だから、どう話を切り出せばいいのか。そんなことをセイディは思ってしまうが、悩んでいても埒など明かない。ここは、直球に言うしかないのだ。


「お久しぶりです、ジャレッド様。こういう風に対面するのは、いつぶりでしょうか?」


 でも、とりあえず世間話から行った方が良いかもしれない。そう思い、セイディは表情がひきつるのを実感しながら、そう声をかける。そうすれば、ジャレッドは「……そうだな」と何処となく弱々しい声で言葉を返してくれた。


「……お前が代表聖女になるなど、予想もしていなかった」

「私も、です」


 会話が、終わった。


 全くと言っていいほど、会話が弾まない。もちろん、これはお見合いなどではなく取り調べの一環なので、会話を弾ませる必要はこれっぽっちもない。だが、気まずいのだ。とにかく、気まずくて気まずくて仕方がないのだ。


 そう思いジャックに視線だけで助けを求めれば、そんなセイディを見て声を発したのは何故かジャレッドだった。


「……魔法騎士団の団長、だったか」


 ジャレッドは、ジャックのことを見つめてそう言う。だからだろう、ジャックは「……そうだな」と言って腕を組む。ジャックは何処となく不機嫌そうであり、大層迫力がある。もしかしたら、ジャレッドに声をかけられたのが不満だったのかもしれない。それか、その馴れ馴れしい態度が不快だったのかもしれない。


「……ジャック・メルヴィルだ」


 が、ジャックも大人なのだろう。ゆっくりとそう名乗る。もちろん、名乗る必要などなかったのだろう。なんといっても、相手は犯罪者なのだから。


「……ジャック、か」


 その後、ジャレッドはそんな言葉を零す。一体、ジャックが何だというのだろうか? そう思い首をかしげてしまうセイディに対し、ジャレッドは「……セイディの新しい恋人か?」というとんでもない爆弾を落としてきた。


「……はい?」


 一体、彼は何を言っているのだろうか。そう思ったからなのか、セイディは自分の頬がひきつるのを実感した。……本当に、自分がジャックの恋人など図々しくてありえない。そもそも、身分が釣り合っていないじゃないか。


「だって、親しそうじゃないか」


 いやいやいや、全く親しくありませんけれど?


 脳内でそう繰り返し混乱するセイディを他所に、ジャックは慌てて立ち上がったかと思うと「そんなわけあるか!」と言ってジャレッドのことを睨みつける。その態度はある程度予想できていたとはいえ、そこまで否定しなくてもいいじゃないかと思う気持ちも、セイディの中に芽生える。まぁ、予想していたのでこれっぽっちも傷つかないのだが。そこまで柔らかい心を、セイディは生憎持ち合わせていない。

連続更新2日目です(n*´ω`*n)明日も更新予定です!

また、本日コミカライズのバナーを公開しました! 活動報告も書いておりますので、よろしければ覗いてくださいませ……!


コミカライズは明日の11時からTOブックス様のサイトコロナEXにてスタートします。その後、2週間遅れて他サイト様でも配信ということらしいです。


いつもお読みくださり誠にありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ