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元婚約者に会いに行きます(1)

「それで、どうする?」


 もう一度問いかけられ、セイディは考えた。が、回答はもう決まっている。そう思い、口元をふっと緩める。セイディだって、役に立ちたいのだ。お荷物のままじゃ、終われない。そう思う気持ちがあったからこそ、唇は自然とその言葉を紡ぎ出していた。


「私、ジャレッド様に会います」


 もしも、ジャレッドと会話をすることでアーネストやジョシュアに繋がる手掛かりが見つかるのならば。それ以上に良いことは、ないのだろう。だからこそ、セイディは自分にできることをする。


 その意思をジャックは理解してくれたらしく、「じゃあ、行くか」と言って立ち上がる。どうやら、今から会いに行くらしい。まぁ、当然と言えば当然だろう。明日は『光の収穫祭』の最終日。アーネストやジョシュアが何か行動を起こす可能性は高い。ならば、今のうちに少しでも情報収集をしておくべきだ。それは、セイディにも分かる。


 ゆっくりと部屋を出て、王宮の廊下を歩く。王宮の使用人たちはもうすでに終業時間を迎えたのか、廊下は閑散としていた。そんな空間を、ジャックと二人きりで歩く。二人分の足音が廊下に響き渡る中、ジャックは何も言わない。それでも、この空間を心地悪いとは思わない。元々、ジャックはそういう性格だ。それが分かっているからなのだろうか。


 すたすたと歩きながら、セイディは隣を歩くジャックの横顔を見上げた。相変わらず、美形だな。そう思う気持ちもあるが、今はそれよりもジャレッドのことだと心を引き締める。元婚約者と対面するなど、普通ならば嫌がって当然のシチュエーションだろうな。そんなことを思うと、どうしても微妙な気持ちになってしまうのだ。


 そして、そのまましばらく王宮の廊下を歩いた時だった。不意に、前から誰かの足音が聞こえてきた。……この足音、何処かで聞き覚えがある。そう思いセイディがハッと顔を上げれば、前から歩いてきたのは――何処となく疲れたような顔をしたミリウスで。セイディはミリウスに気が付き、彼の方向に駆けていく。そうすれば、ミリウスは「セイディか」と疲れ切ったような声で名前を呼んでくれた。


「……ミリウス様、ご無事だったのですね……!」

「あぁ、俺、これでも丈夫だし」


 ふわぁ。そんな大きなあくびをしながら、ミリウスはセイディのことを見下ろしてくる。その態度は、いつも通りののんきなものだ。そのため、セイディはホッと息をつく。そんな態度のセイディを見てか、ミリウスは「心配、かけたな」と小さな声で言ってくれた。


「……おっ、セイディはジャックと一緒か」


 それから、ミリウスはセイディの後ろにいたジャックに視線を向け、けらけらと笑いながら「お前も、セイディに懐いたな」なんてからかうような声で言ってくる。そのためだろうか。ジャックは「……そんなわけが、ないだろ」と消え入りそうなほど小さな声で言葉を返していた。


「ところで、殿下。いろいろと大丈夫だったのか?」

「……まぁな。ただ、アーネストの奴は取り逃がしたな」


 ジャックの言葉に、ミリウスは少し悔しそうに唇を嚙んだ後、そう告げてくる。アーネストのことは捕まえられなかった。その単語にジャックが少しがっかりとしたのが分かったが、セイディにとってそれよりもミリウスが無事だったことの方が重要で。セイディは思わず「……それよりも、ミリウス様が無事で、よかったです」と零してしまう。


「俺はそう簡単に死なないからな。……ただ、アーネストの奴に関しては心配だな」

「……殿下?」

「アイツ、身体強化の魔法をバカみたいにかけてやがった。……あれ、代償が来るぞ」


 ミリウスの真剣なまなざしに、ジャックが怯んだのが分かった。


 セイディも、ミリウスと同じ心配をしていた。あのままだと、アーネストはろくなことにならない。けど、セイディは善人ではない。アーネストのことを助けたい、とは思えない。助けようと思えば、助けられるのだろう。でも……どうしても、許せないのだ。リリスへの仕打ちや、王国にしたことに関してを。


「……アーネスト様」


 だけど、許せないことと破滅を願うことはイコールでは繋がらない。もしも彼が助かって罪を償うというのならば、それはそれで応援するつもり……なのかも、しれない。自分の気持ちが、これっぽっちも分からない。そう思い、セイディはただ目を伏せた。


「ま、なるようになるだろ。俺はとりあえず着替えてくるからな。……じゃあな、セイディ、ジャック」


 そんなセイディを他所に、ミリウスは颯爽と場を立ち去ってしまう。そんな彼の後ろ姿を眺めるセイディに対し、ジャックは「行くぞ、時間がない」とセイディに声をかけてくる。動かなくちゃ、時間がないのだから。分かっている。分かっているのに……足が、上手く動かない。


「おい」

「あっ、はい」


 ただ、ジャックに迷惑をかけることは憚られる。そう考え、セイディは重い足を前に動かし、ゆっくりと歩を進めた。……今は、アーネストのことよりもジャレッドのことだ。心の中で、自分自身にそう言い聞かせた。

次回更新は明日です。はい、明日です(n*´ω`*n)

コミカライズスタート記念に今日から金曜日まで毎日更新します……!明日は活動報告の方にてコミカライズのバナーを夕方頃に公開する予定ですので、よろしくお願いいたします!(Twitterの方では昼頃に公開しようと思います)


いつもお読みくださり誠にありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします……!

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