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導き(1)

(ミリウス様、大丈夫、かしら……?)


 走っている最中、そう思ってしまう。が、今は人の心配をしている場合ではないと思い直し、セイディは走った。聖女の衣装は走ることを考慮して作られていない。だからこそ、走るのが大層難しい。それでも、ミリウスのためにも、逃げなくては。……そうだ。そうに、決まっている。


(……それにしても、先ほどのクリストバル様は……)


 それと同時に頭の中に思い浮かぶのは、先ほどセイディのことを助けてくれたクリストバルという男性のことだった。ふわりとした美しい銀色の髪を持つ彼は、セイディのことを知っているようだった。……自分は、彼のことをこれっぽっちも知らないのに。


(ううん、無駄なことを考えていてもダメよ。……今は、自分のことを考えなくちゃ)


 腕時計を見れば、まだ時間はある。リオの元に駆けつけ、神殿巡りを再開しても問題ないはずだ。そう思っていれば、目の前から見知った顔が走ってくる。……リオだ。


「セイディ!」

「リオ、さん?」


 どうして、彼がこちらに向かってきてくれているのだろうか。そんなことを思いセイディが目を丸くすれば、リオはセイディの元に駆けよってきてくれた。その後、「大丈夫?」と問いかけてくる。


「だ、だいじょう、ぶ……で、す」

「全然、そうは見えないわ」


 確かに、今のセイディは息を切らしているということもあり、全く大丈夫そうには見えない。が、セイディは顔を勢いよく上げ「み、ミリウス様が!」とリオに声を叫ぶ。その声を聞いたためだろうか、リオは「大丈夫よ。まずは貴女が落ち着きなさい」と言いながら首を横に振る。


「団長がそう簡単にくたばるわけがないわ。……とにかく、団長から連絡を受けて私の方はこっちに駆けつけてきたのよ」

「……ミリウス様、が」

「えぇ」


 リオはセイディと目線を合わせ、「続けられる?」と優しく問いかけてきた。……続けられるかというのは、自分に課せられた役目のことだろう。それは、セイディにもすぐに分かった。


(そもそも、続けられるとか続けられないとか、そういうことじゃないのよ)


 そうだ。続けるとか、続けないとか。そういうことじゃない。続けるしかないのだ。だって、それがセイディに出来る精いっぱいのことだから。自分が出来る、唯一の抗う術なのだから。


「できます。……なので、護衛の方、お願い、出来ませんか?」


 ミリウスの元に戻るのはリスクが高すぎる。そういう意味を込めてそう言えば、リオは「分かったわ、元々そのつもりよ」と言葉をくれた。……どうやら、セイディとリオは似たような考えをしていたらしい。いや、この場合は違うのだろう。リオがセイディの思考回路を分かっている。これに、尽きる。


「……とりあえず、近くまで背負ってあげるわ。……乗りなさい」

「……い、いえ、その……」

「いいから。疲れたのでしょう?」


 疲れたことに間違いはないし、リオのその提案がとてもありがたいことだということも分かる。しかし、ちょっと反応に困ってしまう。抱っこではなく背負うということがまだマシなのかもしれないが。そう思いながら、セイディはじっと考え込むフリをして……「お、お願い、します」と声を発した。疲れには、勝てなかった。


 その後、リオに背負ってもらえば、リオは軽々しくセイディのことを運んでくれる。……自分は、重くないだろうか? 間違いなく、重いだろう。聖女の衣装もかなりの重量があるし、セイディ自身も平均的な体重はある。……リオの負担に、なっていないと良いのだが。


「あ、あの、重くない、ですか……?」

「全然。大丈夫よ~」


 背負われているセイディからでは、リオの表情は見えない。でも、聞こえてくる声音からリオの言葉は真実なのだと分かった。……ありがたい。そう思いながら、セイディはようやくゆっくりと考えることが出来た。


(アーネスト様は、正常じゃない。あの状態だったら……壊れてしまうわ)


 アーネストのことは易々と許せそうにない。ただ、一つだけ思うことがあるのだ。アーネストにも、彼のことを大切に思う人たちがいるのだろうと。だから、アーネストが死ぬことまでは望んでいない。……少なくとも、反省してほしいと思っているくらいなのだ。あと、王国から手を引いてほしい。そう、思っているだけだ。


(それに、あのクリストバル様のことがやっぱり気になってしまう……)


 慈愛に満ちた、男性だった。それに、彼に注がれた光の魔力は凄まじいものだった。……だが、そこで一つの疑問が脳裏に浮かぶ。……光の魔力は、普通ならば男性が使うことは出来ない代物である。


(……クリストバル様は、間違いなく男性。じゃあ、どうして光の魔力が使えたの?)


 こういう時に、自らの無知が恨めしい。そう思いながらセイディが下唇を噛みしめていれば、リオが「どうしたの?」とセイディに声をかけてくれた。そのため、セイディはゆっくりと口を開いた。もしかしたら、リオならば何かを知っているかもしれない。そんな期待を、仄かに抱いて。

次回更新は多分火曜日になる……と思います(o*。_。)oペコッ

引き続きよろしくお願いいたします……!


また、4月28日からコミカライズの方が連載になります! とても素敵に描いていただいておりますので、ぜひぜひ覗いていただければ、と思います!


いつもお読みくださり誠にありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします……!

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