表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

135/275

逃げずに向き合うから

 それから約三十分馬車は走り、ゆっくりと止まった。それに気が付き、セイディは馬車の窓からこっそりと外を見つめる。


 セイディの視線の先にあるのは、これまた歴史を感じさせるような神殿。どうやら、一ヶ所目の神殿にたどり着いたらしい。


「おっ、着いたか?」

「はい」


 セイディの様子を見つめ、頬杖をついていたミリウスがそう声をかけてくる。だから、セイディは頷いた。外では民たちが集まり始めており、どうやら聖女の登場を今か今かと待ち望んでいるようだ。……この瞬間は、二回目の今日でも慣れないものだ。内心でそうぼやいていれば、御者が馬車の扉を開けてくれる。そのため、セイディはゆっくりと地面に足を降ろした。


 その後、ゆっくりと顔を上げれば湧き上がる民たちの歓声。それを聞き、セイディはゆっくりと一礼をする。後ろではミリウスが護衛としてぴっちりとついてきており、そういう点も慣れない。


(こうやって高貴な男性を従えていると、本当に悪女にでもなった気分よ)


 そう思っていないと、緊張で朝食べたものが逆流してきそうだった。毎年のように聖女としての活動は行っていたものの、代表聖女ともなれば周囲の期待が違う。もちろん、期待には沿うつもりではあるが、出来ないところはご愛嬌……で誤魔化せないだろうか? まぁ、無理だろう。


 神殿の神官たちが先導する道を歩きながら、セイディは民たちに笑顔を振りまく。笑顔を振りまくこと自体がなかなかないことだったため、笑顔がひきつっているであろうことには気が付かないでほしい。これでも、昨日よりはマシになったのだ。心の中で一人そんな言い訳をしながら、セイディはじっと民たちの顔を見渡す。


(アーネスト様、ジョシュア様はいないわね)


 彼らのような整った容姿を持っていれば、民たちに紛れていても一瞬で分かるはずだ。実際、昨日は見つけられたのだから。そう思いながらもセイディは神殿の中に入っていく。神殿の中では、昨日と同様にその神殿の神官長が待機しており、セイディのことを歓迎してくれた。


「我が神殿へようこそ、聖女様」


 定型文のあいさつを交わし、セイディはゆっくりと祈りを捧げていく。この祈りとは、王国の豊穣に感謝をし、来年の豊穣を祈るものだ。こうすることにより、聖女への信仰を廃れさせない目的がある。聖女の力で、王国が豊穣している。そう印象付けるための、お祭りでもあるのだ。


「来年も、どうかよろしくお願いいたします」


 後ろから熱いような視線を感じるのは、気のせいではないだろう。そして、その視線の持ち主も大体想像がつく。他でもない、自身の護衛であるミリウスだ。


「……こういう感じなんだな」


 ボソッと聞こえたその言葉には、反応できない。どうして王族であるミリウスが『光の収穫祭』の進行を知らないのかと問いかけたいが、きっと彼のことだ。頭の中からすっぽ抜けていたと言うに決まっている。そもそも、彼は興味のないことはとことん覚えないタイプである。多分だが、あまりこういうお祭りに参加しなかったのだろう。


 頭の中に叩きこんだ定型文を引っ張り出し、それを口にしていく。最後の一文を口にした後、セイディは顔を上げる。それから、ゆっくりと振り返った。


 神殿の外では民たちが厳粛な空気の中セイディのことを見守っている。それも、昨日と一緒だ。今日も、上手く行きますように。内心でそう唱え、セイディは次に神殿の外に向かおうと足を一歩前に出した。その時、だった。


(――っつ!)


 異様な気配を、感じたのだ。慌てて民たちの顔を見渡せば、「彼」はそこにいた。憎悪が籠ったような目でセイディのことを見つめ、今にも飛び出してきそうな男性。


(……ジャレッド様)


 そこにいたのは、ジャレッドだった。彼はセイディに気が付かれたと分かったのか、唇をゆっくりと歪める。その後、一歩一歩セイディの方に近づいてきた。


 周囲の民たちは、ジャレッドの異様な雰囲気に押されてか、道を開けていく。それで、構わない。民たちに被害が及ぶくらいならば。そう思い、セイディはただジャレッドを見据えた。彼は、この間再会した時と同じような雰囲気だ。……相変わらず、アーネストに操られているらしい。


「セイディ」

「……大丈夫、です」


 ミリウスがセイディを庇うように前に立つので、セイディはそれを振り払い前に出る。それにミリウスは一瞬だけ驚いたような表情をしたものの、セイディの顔を見てすぐに表情を真剣なものに戻した。……セイディの意思は、伝わったらしい。


「……お久しぶりですね、ジャレッド様」


 しんと静まり返った空気に、セイディの声が響き渡る。それを聞いたためか、ジャレッドは「……そうでも、ないだろう」と言ってまた一歩足を踏み出してきた。だからこそ、セイディは口元を緩めた。……もう、逃げない。彼と向き合うべき時は、今なのだ。そんな考えが、すとんと胸の中に落ちていく。


(……ジャレッド様と向き合う。そして――彼を、正気に戻してみせる)


 彼に対して、情に似たような感情はない。しかし、このままだとあまりにも彼が不憫だから。だから、セイディはジャレッドに向き合うのだ。

次回更新は火曜日を予定しております(o*。_。)oペコッ

(また、ブクマが12700を超えました! 誠にありがとうございます……!)


いつもお読みくださり、誠にありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ