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二日目、始まる(2)

「まぁ、そういう話は置いておくとして」


 セイディがいろいろな感情を抱いていれば、ミリウスは突拍子もなくそう言うとセイディの目を見てくる。その目はやはり何もかもを見透かしたような雰囲気であり、その所為でセイディは微妙な気持ちになってしまう。何が、とは言わない。ただ、いろいろと思ってしまうのだ。


「昨日のジョシュアって奴のことだが……」


 どうやら、話の内容が百八十度変わるらしい。でも、その話は必要なことだろう。それが分かるからこそ、セイディは「どう、なさいましたか?」と問いかけてみる。そうすれば、ミリウスは「まぁ、いろいろと厄介だよな」と言ってくる。


「吸血鬼って、結構弱点がないんだわ」

「……そう、なのですか?」

「あぁ、身体能力が人間よりもずっと高くて、特別なデメリットもない。太陽の光がダメとか、あれ所詮妄想だな」


 その話は、セイディも知っていた。吸血鬼は太陽の光や十字架を苦手とするという。しかし、今のミリウスの話を聞くにそれは妄想らしい。


「特に、ああいう人間とのハーフが面倒だ。数少ない弱点もほぼカバーされていてな。……正直、倒せるか分かんねぇ」

「……ミリウス様、でも?」

「あぁ、正直ドラゴンよりも厄介だと思う」


 ミリウスがそう言うということは、実際それだけ厄介なのだろう。そう思いセイディが「……どう、すれば」と一瞬だけ不安になってしまえば、ミリウスは「でも」と言って大剣に手をかける。きっと、これが彼なりの決意表明なのだろう。


「俺は、負けねぇ。ジョシュアの奴がこの世で一番強いとか、ありえねぇって思うし」


 そこで一旦言葉を切り、ミリウスは「俺が、一番だし」なんて言葉を漏らしていた。いや、そこは張り合うところなのか? そう思うセイディを他所に、ミリウスは「なんてな」と言いながらゆっくりと歩を進める。


「実際、俺は俺よりも強い存在を知らない。正々堂々ぶつかり合えば、絶対に俺が勝ってきた。……だからさ、柄にもなくわくわくしているわけだ」

「……はい?」

「俺よりも強いって、どういう感じかなって。……不謹慎だろうけれどな」


 けらけらと笑いながら、ミリウスはそう言う。それに微妙な気持ちを抱きながら外を見つめれば、王宮の外に馬車が止まっていた。今日の移動の馬車は、あれらしい。


「ミリウス様って、好奇心が旺盛ですよね」

「まぁな。子供心を忘れないって言えば、良いんだろうな」

「アシェル様は、そう受け取ってくださいますか?」

「いや、全然。成長していない子供だって言われるな」


 目を伏せながらそう言うミリウスの表情は、とても綺麗だ。それこそ、見惚れてしまうくらいには。でも、セイディに見惚れるような暇はない。そのため、セイディも同じように目を伏せ「……私は」と唇を動かす。


「私は、これっぽっちもわくわくしていません。王国の未来がかかっていることとか、リリスさんの気持ちを考えたら、そんな風には考えられません」


 リリスの過去を知ったからこそ、彼女のことを思うからこそ、そんな楽観的には考えられない。しかし、一つだけ言えることがある。それは……帝国には絶対に負けないということ。たとえ、皇帝陛下のお気に入りたちが攻めてくるとしても。自分はそう簡単には始末されないし、この力を示し続ける。


「……そうか」

「私、リリスさんのこと信頼していました。だから、余計にこう思っちゃうんでしょうね」


 あそこまで親しくなったのに、最後が裏切りだなんて悲しすぎる。そう思う気持ちもあるが、リリスと出逢えたことには感謝している。そして、なんだかんだ言っても彼女を救うことが出来たことも。きっとリリスは、婚約者と共に生きていくのだろう。……今度こそ、幸せになれればいいのだが。


「フレディ様も、きっとリリスさんと一緒なのでしょうね」

「さぁな」


 ミリウスの言葉は、素っ気なかった。だが、その声音に込められた感情は真逆だ。セイディに同意してくれている。それが分かるこそ、セイディは「……頑張ります」と言って胸の前で手を握る。


「私、頑張ります。この王国を守るために、頑張ります」

「……そうか」


 王宮の入口にたどり着いて、セイディは一旦深呼吸をする。そうしていれば、ミリウスが「行くぞ」と言って淡々と馬車の方に歩き出す。だから、セイディも続いた。今日は三つの神殿を回る予定である。一応昨日のこともあるため、警護は強化してあるらしい。


 ゆっくりと馬車に乗り込み、セイディは椅子に腰かける。そうすれば、ミリウスもゆっくりと乗り込んでくる。そして、馬車はゆっくりと走り始めた。


「とりあえず、何処の神殿に向かうんだっけな」

「……ここ、ですね」


 地図を覗き込むミリウスに対し、セイディはそう返事をする。ジャックはきちんと把握していたのに、ミリウスが把握していないのは彼らの性格の違いが顕著に出ているということなのだろう。そう思うと、なんだか笑いがこみ上げてくる。


(頑張るわよ。お母様も、見ていてね)


 指輪を握りしめ、セイディはそう誓う。


 『光の収穫祭』の二日目が――始まる。

次回更新は一応日曜日にする予定です(o*。_。)oペコッ

また、4月(と5月)は更新を週に二回にします。主に火曜日と金曜日です。ご了承くださいませ。


いつもお読みくださり、誠にありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします……!

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