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一日目の終わり(4)

「あー、そう身構えるなって。俺、お前に手出しするつもりこれっぽっちもねぇし。……多分」


 身構えるセイディを見つめ、ジョシュアは大きなあくびをした後そう言葉を発した。それから、彼はゆっくりとセイディに近づいてくる。その禍々しい赤色の目は、セイディ一人だけを射貫いている。その狂気に満ちた視線は、見るものを委縮させる効果でもあるかのような。そんな雰囲気だった。


「……そのお言葉、信じられません」

「そうかよ、まぁ、それならばいいけど」


 ジョシュアはそれだけの言葉を残し、セイディのすぐ真正面に立ち、セイディの顔と自身の顔をぐっと近づけてくる。ジョシュアの顔立ちは、とても整っていた。ただし、今はそれどころではない。ジョシュアは、帝国の人間なのだから。


「俺はな、アーネストの奴に呼ばれてきただけだ。……けどさ正直、俺にとっちゃあ帝国の目的とか、関係ねぇんだよ」


 けらけらと笑いながら、ジョシュアはそう言う。セイディがゆっくりと後ずされば、後ろは壁だった。どうやら、後ずさりも限界が来ているらしい。倒れた騎士たちが起き上る気配はない。頼りになるのは、自分だけ。そう自分に言い聞かせ、セイディはジョシュアの目を見つめる。セイディの真っ赤な目と、ジョシュアの禍々しい赤い目が醸し出す視線が交錯する。


「……では、どうして帝国に、皇帝陛下に協力するのですか」

「そうだなぁ……。俺にはさ、守りたいものがあるんだわ」


 また一歩セイディに近づきながら、ジョシュアはそういう。その後、セイディの顔の丁度横にある壁を、どんと大きな音を立てて叩いた。これは、世にいう壁ドンだろうか。が、そんなもの胸キュンしている場合ではない。少なくとも、壁にひびが入っているのだから。……ジョシュアの力は、相当強いらしい。


「恩人にな、守ってほしいって言われた。だから、俺はそいつを守るためだけに生きている」

「……それ、は」

「大体さぁ、俺らって大体みーんな同じ目的なわけ。……守りたい。だから、自分の正義を貫く。どれだけの犠牲の上に成り立ったとしても、構わない」


 きっと、彼らは究極の自己中心的な考えの持ち主なのだろう。人の幸せを踏みつぶしてでも、自分の幸せを手に入れようとしている。自分が大切にしている存在を守ろうとしている。それは考えようによっては美徳となるのかもしれない。でも、そのために他者を犠牲にするのはいただけない。少なくとも、セイディはそう思っている。


「間違っていると、思わないのですか?」


 真剣な声音でジョシュアにそう問いかければ、彼は「思わないねぇ」なんて言葉を返してきた。その声は、挑発的であり、何処となく人を不快にするような声音。


「そもそも、この世界に何がある。生き物っつーのはな、狩るか狩られるかの二択だ。綺麗ごとなんて必要ない。俺たちは狩られる側に回りたくない。そうなれば、必然的に狩る側だ」

「……」

「……そもそもな、今まで散々人を苦しめておいて、のうのうと生きている人間が許せねぇんだわ。……だから、俺は、俺たちは」

 ――どれだけの犠牲を生み出そうとも、自分の正義を貫く。


 ジョシュアのその言葉に、セイディはゆっくりと目を瞑った。もう、無理だろう。彼らとは会話をしても何処までも平行線だ。彼らは自分の正義を変えない。そして、セイディも自らの考えを変えるつもりはない。そうなれば、考えは何処まで行っても交わらない。ただ、どちらかが狩られるまで。この話は、永遠に続く。


(アーネスト様よりはお話は通じそうだけれど……でも、無理ね。このお方も、歪んでいる)


 心の中でそう零し、セイディはまっすぐにジョシュアを見据えた。彼は、間違いなく吸血鬼の血を引いている。吸血鬼とは、一部の国で迫害されてきた存在だ。その中に、マギニス帝国も含まれていた。……もしかしたら、これは彼なりの復讐なのかもしれない。それから彼の言う恩人への、恩返しなのかもしれない。


「……正直、俺はお前を殺すことに乗り気じゃない。……アーネストの奴はお前を始末しろと言っていたけれどさ、どうにも気乗りしない」


 セイディの考えを無視して、ジョシュアはそう続ける。そして、彼は少しだけ考えたのち「……でも、ブラッドリーの奴の意に従わないと、俺はアイツを守れない」と零していた。


「だからさ、大人しく――やられてくれねぇかなぁ?」


 そう言ったジョシュアの表情は、清々しいほどの笑顔だった。だからこそ、セイディは静かに息を呑む。首元に突き付けられたジョシュアの爪。それは、今引っかかれればかなりの致命傷を負うことは確実で。……彼は、月の光に照らされたその銀色の髪を風になびかせながら、セイディのことを見下ろしてくる。


「あんまり、俺たちの手を煩わせるな。……それが、俺が出来る最終忠告だ」

「……そう、ですか」


 目を瞑って、セイディはそう返事をする。が――一瞬の隙を突いて、ジョシュアと壁の間からすり抜ける。しかし、すぐにジョシュアに手首を掴まれ、床に押し倒されてしまった。


「……逃げようたって、上手くはいかねぇぞ。俺の身体能力は、バケモノだ。……女一人逃がすほど、甘ったれたもんじゃない」

 

いつかジョシュアたちが歪んだきっかけも書きたいですね(n*´ω`*n)彼らは彼らなりに苦労しているので……。次回更新は一応火曜日を予定しております。


いつもお読みくださり誠にありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします……!


(あと『転生したら子持ちの令嬢(未婚)でした。メイドとして働き始めたら、主たちに溺愛されているのですが?』という新連載もこっそりと始めました。たくましいヒロインの逆ハーレムですので、こちらがお好きな方は好みかなぁと思いますので、よろしければぜひ)

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