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悪女みたいですよね?

 実母のことは、全くと言っていいほど覚えていない。それでも、あの女性は実母なのだろう。封印された記憶の片隅が、断片的に蘇ったような気が、する。しかし、そうなれば前々から抱いていた疑問がもう一度浮かび上がる。


 ――どうして、自分は実母のことをこれっぽっちも覚えていないのだろうか。


 と。


(お母様のお名前も、お姿も覚えていないわ。……思い出したい)


 もしも、何かショックなことがあって忘れていたのだとしても。それでも、いつかは思い出したい。間違いなくそう思える。


「……おい、本当に顔色が悪いぞ」

「大丈夫です。ちょっと、頭が痛くて」


 さすがに体調が悪いことを隠しきることは無理だろう。そもそも、ジャックには調子が悪いことはバレている。ならば、正直に言ってしまった方が楽だ。そんなことを思い、セイディはそう答えた。


 そうすれば、ジャックは「……魔力不足か?」と問いかけてくる。確かに、この間の魔法石のことで魔力をかなり消費したことは分かっている。それでも、どうして今になって。あの時は、そこまで調子が悪いことはなかったはずなのに。


 セイディがそう思っていると、不意にジャックが手を差し出してくる。それを不思議に思いながらセイディが手を差し出せば、ジャックはセイディの手の上に飴玉のようなものを一つだけ置いてくれた。……これは、何なのだろうか。


「魔力を補充する際に使うサプリメントのようなものだ。……魔法騎士は、基本的にこれを持ち歩いている。気休めにしかならないだろうが、使え」

「……ありがとう、ございます」


 それは、ジャックなりにセイディのことを気遣ってくれた証拠だろう。それに、気休めにしかならないと分かっていても差し出してくれるのは、きっと彼なりの優しさ。そう思いながら、セイディはその飴玉のようなものを口の中に入れる。味はあまり感じないが、仄かに甘い。お菓子ではないので、美味しいわけがない。それでも、食べやすい味だった。


「明日の護衛は、殿下だったな」

「……そうですね」


 セイディの気を逸らそうとしてくれたのか、ジャックはそう声をかけてきた。だからこそ、セイディは端的に言葉を返す。その言葉を聞いたためだろう、ジャックは「……勝手に、何処かに行かないようにくぎだけは刺さないとな」とボソッと零す。……そこまで、ミリウスは信頼がないのか。そんなことを思ってしまうが、実際に彼の行動を見ていると信頼しろという方が無理なのだろう。あんなにも自由奔放で、自分勝手で。それでも、何処となく憎めない。そして、憎めないからこそミリウスは団長で居続けることが出来ている。……その後ろで、アシェルやリオの奮闘もあるのだろうが。


「……そういえば、最終日の護衛ってどうなっているのですか?」


 ジャックの話を聞いていると、ふと一つの疑問がセイディの脳内に浮かび上がってくる。今日の護衛はジャック。明日の護衛はミリウスだと聞いている。しかし、三日目は聞いていない。どちらが護衛してくれるのかは分からないが、どちらでも問題はないと思う。ただ、心の準備が必要なのだ。


「あぁ、半日ずつで交代する予定だが……」

「だが?」

「最悪の場合、俺と殿下、二人ともつくことになるだろうな」


 ……それはそれで、なんというか微妙だ。だって、見た目麗しい男性を侍らせている気分になってしまいそうだから。セイディが高位貴族の令嬢ならば、それを誇りに思うのだろう。でも、実際のセイディはただのメイドであり、元聖女。ついでにいえば、実家の子爵家を勘当された女なのだ。


「なんだ、文句でもあるのか?」


 セイディの態度を見たからか、ジャックは怪訝そうにそう声をかけてくる。そのため、セイディは「……いえ、なんていうか……悪女みたいな?」なんて言葉を返した。


「悪女?」

「ほら、見た目麗しい男性を侍らせる、悪女みたいな感じになりませんかね?」


 ジャックの復唱に、セイディはそう返す。そうすれば、ジャックは「……俺たちは、そんな簡単な奴じゃない」と言ってくる。まぁ、それは知っている。ジャックもミリウスも、そんな簡単な人間じゃない。分かっている。ただの、例え話だ。


「それに、殿下を侍らせられると思うなよ。振り回されるのがオチだ」

「……ですよね」

「あと、俺は利用されるのが大層嫌いだ」

「そうですよね」


 ジャックは公爵家の令息だ。それはつまり、それだけプライドが高いということ。ジャックはそこまでプライドが高そうには見えないが、それでも彼には彼なりのプライドがあるはず。それは、セイディだって知っている。


「まぁ、お前だったら、まだ……その」

「はい?」

「いや、お前ならばまだ、振り回されるのも……と思っただけだ」


 いや、一体どうしてそうなる。そんなことをセイディが考えていれば、ジャックは「忘れろ」とだけ低い声で言ってきた。


(多分、ジャック様はほかの女性に振り回されるくらいならば、私に振り回された方がマシだと思われているのよね)


 多分、そういうことだろう。セイディは一人自己完結しながら、ジャックの言葉に笑ってしまった。

なんとなくですが、ジャックは書きやすいです(n*´ω`*n)

次回更新は日曜日を予定しております。また、火曜日は私の体調不良で急遽お休みさせていただきました。申し訳ございません。


いつもお読みくださり誠にありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします……!

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