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寄宿舎の騎士たち


 その後、セイディがアシェルに連れられ食堂に向かえば、すぐにリオが出迎えてくれた。リオは柔和な笑みを浮かべ「いらっしゃい」とセイディに言ってくれる。食堂の中はワイワイガヤガヤとしており、セイディの気分を明るくする。


「セイディ、緊張していない?」

「いいえ、全く」

「……図太いね、見た目によらず」


 セイディの言葉を聞いて、アシェルは苦笑を浮かべ「ほら、行くよ」と言ってセイディを一つの椅子に案内してくれた。食堂の中でも端の方にあるその椅子は、どこか特別な雰囲気もする。


「ここは騎士団の本部の人間、つまりは上の方の人間が使う席だけれど、セイディは特別に使っていいから」

「……別に私、特別扱いなんて……」

「いいのよ。副団長の好意、素直に受け取っておきなさいってば!」


 アシェルの言葉に、セイディが躊躇っているとリオがそう言ってセイディの身体を、半ば無理やり椅子に座らせる。その後、リオはセイディのすぐ隣に腰かける。リオは団長と副団長の補佐役ということもあり、本部の人間のようだ。


「本部の人間は俺と団長、あとリオの三人だから。他の奴らは下っ端だと思っておいてくれたら」

「……そうなんですか」

「そうそう。とりあえず、何を食べるか決めましょう!」


 リオはアシェルの言葉に同意すると、何やらメニュー表のようなものを取り出してくる。どうやら、ここはレストラン形式のようだ。そう思いながら、セイディがメニューを見つめると結構がっつりと行くものばかりだった。それにセイディが戸惑えば、アシェルは「残したら、リオが食べてくれるから」という。


「……まぁ、私に食べろって言うの?」

「当たり前でしょう。お前、滅茶苦茶食うじゃん」

「……そうなんだけれどぉ~」


 そんなリオとアシェルの言葉に、セイディは久々に声を上げて笑ってしまった。そして、シンプルに日替わりだというメニューを注文する。ちなみに、寄宿舎の食事は無料らしい。騎士たちは貴族が多いものの、それでも中には平民もいる。その人たちに配慮し、平等に無料だとアシェルはセイディに教えてくれた。


「副団長~。その人、新しいメイド希望者の人ですか~?」

「すっごく綺麗な人なので、気になっていたんですよ~」


 その後、しばらくして数人の若い騎士たちがセイディたちの方に近づいてくる。その顔立ちはどこか幼く、青年というよりは少年という言葉が似合いそうな騎士たちだった。


「そう。後で紹介するけれど、セイディっていうの。新しいメイド候補」


 少年騎士たちの問いかけに、アシェルは適当に返すと「さぁ、散った散った」とでも言いたげに手を振る。それを見てか、少年騎士たちは「では、後で~」とセイディに声をかけて去っていくが、たった一人だけセイディのことを未だに凝視して動かない。その少年騎士の髪色は濃い赤色であり、瞳の色も赤。どこか品のある雰囲気であり、セイディを見て視線を逸らすことを繰り返す。


「……えっと」


 だから、セイディはその少年騎士に自ら声をかけた。そうすれば、少年騎士は「……い、いえ」と言ってその場を立ち去ろうとする。だが、それをほかでもないアシェルが止めていた。それから「……自己紹介ぐらい、すれば?」とその少年騎士に声をかける。


「……僕は、クリストファー・リーコックと言います」


 そのためだろう、その少年騎士――クリストファーはセイディから視線を逸らしながら、そう自己紹介をしてくれた。それを聞いて、セイディはふと思う。


(……リーコックって、王国でも名門の侯爵家……じゃない!)


 リーコック侯爵家と言えば、一部の公爵家よりも権力を持っているとも言われている名家だ。そんなところの令息が、騎士などやっているのか。そう思うが、このリア王国では騎士という職業は花形職種である。貴族の令息も、婚姻するまで騎士をすることは多い。高位貴族であろうと、それは変わりない。


「初めまして、セイディと申します」


 そのため、セイディは出来る限りにっこりと笑ってクリストファーに声をかける。そうすれば、クリストファーは顔を真っ赤にして「……失礼いたします!」と言って早足で去っていく。それを見たセイディは「怖かったかしら?」なんて零していた。自分の容姿は何処か迫力があるらしく、可愛らしいとは似ても似つかない。そう、セイディはいつも思っていた。


「……クリストファーに、後で注意しておかなくちゃね。リオ、頼める?」

「は~い」

「あと、セイディの世話役もしばらくリオにお願いするから。……俺も、自分の仕事を片付けなくちゃ」

「そう言うことだから、セイディ、よろしくね」


 リオにそう言われ、手を差し出されたのでセイディはその手に自分の手を重ね「はい」と返事をした。リオの手は、とてもがっしりとしておりやはり騎士なのだと思わせてくる。どこか女性らしい言葉遣いだが、リオもきっちりとした騎士なのだ。それを、セイディは実感した。


(ここで、上手くやって行かなくちゃね)


 そして、セイディはそう思い直す。まずは、先ほどのクリストファーを含め騎士たちと打ち解けるところから始めたい。そう、思っていた。

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