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『光の収穫祭』開始(1)

 その後始まった『光の収穫祭』は例年通り大盛況だった。街にはたくさんの露店が並び、民たちが笑みを浮かべている。街のところどころには王都務めの聖女がおり、彼女たちは彼女たちでそれぞれ活動をしているようだった。


 民たちに愛想を振りまきながら馬車に乗り込んだセイディは、目の前に座るジャックを見据える。彼は何処となく面白くなさそうな表情をしており、いつもよりも眉間にしわが寄っているようにも見えた。……まぁ、理由は大体予想が出来る。護衛なのに、たくさんの女性に声をかけられたためだろう。


(やっぱり、ジャック様ってモテるのよね……)


 そんなことを、再認識した。


 対面にいるジャックは露骨に「はぁ」とため息をつく。馬車の窓にはカーテンがかけられており、この移動時間だけは休憩時間となる。そのため、今だけはくつろげる。そう考え、セイディも「ふぅ」と息を吐いた。


(……なんていうか、頭が痛い)


 何故かずきずきと痛む頭を押さえながら、セイディは一旦水分補給をする。秋になったとはいえ、まだ少し暑い。脱水症状を起こさないためには、移動時間のうちに水分補給をしておかなくてはならない。そう、思ったのだ。


「おい」


 そんなことをセイディが考えていれば、不意に目の前のジャックに声をかけられる。だからこそ、セイディは「どうかなさいましたか?」と問いかけた。


「……いや、お前、本当に外面は良いなぁと思ってな」


 ……なんだ、それは。


 そう思いセイディが顔をしかめれば、ジャックは「悪い意味じゃない」と付け足してきた。いや、外面は良いなんて絶対に悪口だ。そう考えてセイディが「……悪かったですね」と返せば、ジャックは少し頭を掻きながら「だから、悪い意味じゃない」と言ってきた。


「聖女としてのお前は、本当に外面が良いなぁと思っただけだ。……メイドの時とは、違う」

「当り前ですよ。聖女は民たちにとって憧れの存在でもあるのですから。それに、代表聖女は特にそうです」


 ヤーノルド神殿に従事していた頃から、『光の収穫祭』には聖女として参加していた。とはいっても、代表聖女以外は基本的には交代制なので、楽しむ時間はまだそこそこあった。まぁ、セイディが例年の『光の収穫祭』を楽しんでいたかと言うのは、また別問題だが。


「代表聖女は王国の繁栄の証。……そう、習いましたから」

「そうか」


 馬車に軽く揺られながら、セイディはジャックのことをまた見据えた。……しかし、なにを話せばいいかが全く分からない。彼も彼で、この場を気まずく思っているのだろう。


 ……ちょっと、からかってみたいかも。一瞬そんな邪な感情がセイディの頭の中に生まれるが、その感情にはぐっとふたをした。……うん、やはりダメだ。ジャックに冗談はあまり通じないのだから。


「ところで、お前」

「はい」


 が、いつまでお前呼ばわりを続けるのだろうか。セイディは良いとしても、普通の女性がお前呼ばわりをされたらどう思うだろうか。そういうところも直さないと、いつまで経っても婚姻できないぞ。余計なお世話だろうが。


「お前は……その」


 絶対に、話題を決めていなかったな。ただ、気まずいから声をかけただけだろうな。それはセイディにも容易に想像が出来たので、セイディは「私から一つ、よろしいでしょうか?」と小さく手を挙げて問いかける。そうすれば、ジャックは「あぁ」と返事をくれた。


「私は別にお前と呼ばれても怒ったりはしませんが、普通の女性は怒りますからね」

「……そうか。ところで、どうしてお前は怒らない」

「もう、諦めました」


 当初はジャックに名前で呼んでくれと確かに言っていた。でも、どうやら彼のお前呼ばわりは癖のようなものみたいなので、直らないと早々に判断を下した。だから、もう何かを言うつもりはない。自分に関しては、だが。


「潔いな」

「そりゃあ、無駄なことは嫌いですから」


 時は金なり。時間は有限である。無限ではない。ならば、無駄なことは容赦なく切り捨てていくのが正しい。セイディは、常日頃からそう思っている。時間をお金換算することは良いことなのかは分からないが、無駄なことをするくらいならばお金を稼いでいたいのだ。


「……善処する」


 それはつまり、無理かもしれないということか。そう考えたものの、セイディは「頑張ってくださいね」とだけ言っておいた。ジャックの婚活に口を出すつもりはないが、せめて彼が幸せになれることを望むしかない。なんだかんだ言っても、悪い人ではないのだ。堅物で、無愛想で、仕事人間で、女性が苦手で。そういう点を除けば、彼は超がつく優良物件。……多分。


「ところで、だが」

「どうかなさいましたか?」


 それからまたしばらくして、ジャックが声をかけてくる。そのため、セイディがジャックに視線を戻しそう返事をすれば、彼は「……調子、あまりよくないだろ」と言ってきた。


「いつものような覇気がない。……この間、魔力を使いすぎたんだろう」


 ジャックはそんなことを言って、「無理だけは、するなよ」と続けてくれた。


 ……やはり、彼はなんだかんだ言っても優しい人なのだ。それを実感しながら、セイディは「分かっています」と言って微笑んだ。その際に、ジャックが視線を露骨に逸らしたのにはもう――突っ込まない。

次回更新は日曜日を予定しているのですが、そろそろ一旦お休みをいただきたいのでちょっと不明です。お休みする際は活動報告に書かせていただきます。


いつも読みくださり誠にありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします……!

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