手伝え
「えっと……助けてくださり、ありがとうございました」
とりあえず、お礼だけは言わなくては。そう考え、セイディは軽く頭を下げてそう告げる。そうすれば、ジャックは口元を片手で押さえながら「……あ、あぁ」と時間差で返してきた。その顔は何処となく真っ赤であり、照れているのは一目瞭然だった。
「あ、あの……」
でも、そこまで硬直しなくてもいいだろう。そう思いセイディが手を伸ばそうとすれば、ジャックは「い、行くぞ!」と誤魔化すように言う。そして、そのまま歩きだしてしまった。……これは、深入りしない方が良いだろう。そう考え、セイディは「はい」と端的に返事をし、ゆっくりとジャックについて歩き出す。
(っていうか、何もそこまで慌てふためかなくても……)
そんな風に思ってしまうが、ジャックだから仕方がないだろうと思う気持ちも、ある。それに、まだあれでもマシな反応だと思う。セイディ以外の女性だったら、もっと悲惨なことになっていたはずだから。それは、喜ぶべきことなのか悲しむべきことなのかは分からない。それでも、彼がこのままでいいわけがないだろう。
「……あの、ジャック様」
ジャックの隣に並び、彼の顔を見上げながら名前を呼べば、ジャックは「ど、ど、どうした!」と半ば叫ぶように言ってくる。……そこまで気にされると、こっちも恥ずかしくなってしまうじゃないか。どうせならば、気にしていないフリをしてほしい。ついでに言うのならば、忘れてほしい。
「ジャック様、もう少し、女性に対して免疫を付けた方が良いかと思います」
これは、余計なお世話に間違いないだろうな。それは分かっている。だが、誰かが言ってあげないとダメだろう。一番言える立場なのはミリウスだが、彼はジャックのこの現状を面白がっている。だから、絶対に言わないだろうな。それは、容易に想像が出来た。
「……余計な、お世話だ」
やはり、そう返してきたか。そう思いながら、セイディは「……ですが、その態度ですと相手の女性に失礼ですよ」と静かな声で告げる。
貴族の女性は、プライドの高い人が多い。そういう人たちの中には、こういう態度を取られれば怒られる女性も一定数いる。きっと、ジャックが今までお見合いに失敗したのはこういう態度が一番の要因なのだろうな。まぁ、それは以前から分かっていたことであり、誰もが分かることなのだろうが。
「……分かっている。分かっているが……簡単に、治るわけがないだろ!」
「それは、そうですけれど……」
セイディだって、男慣れしているとは言えない。だから、もう言わない方が良いかな。そう判断し、セイディが押し黙れば、ジャックは「……だから、その……お前が、手伝え」と小さな声で言ってきた。
「わ、私、ですか……?」
「あぁ、お前ならばまだ、まだ、マシだ。だから……お前に手伝ってもらうのが、手っ取り早い」
それは確かに、そうかもしれないが。そんなことを思いながらセイディが眉を下げていれば、ジャックは「それとも、嫌か?」と問いかけてきた。別に、嫌というわけではない。ただ、驚いてしまっただけだ。
「いえ、嫌ではありませんよ。ただ、私は世間一般の普通の女性ではないので、私に慣れたからと言って、ほかの女性に対しても普通に接することが出来るかと言えば……別問題かと」
「それも、そうか」
いや、そこは納得してほしくなかったな。心の中でそう思いながら、セイディは「ですが、私でよければ手伝いますよ」と言う。ついでに、にっこりと笑った。
自分がジャックの役に立てるかどうかは、分からない。それでも、少しでも役に立ちたいのだ。ジャックが悪い人ではないのは、分かっている。そんな彼に、幸せになってほしいと思うのは当然なのだ。……上から目線だと言われるかもしれないが。
「……そうか。それは、その、助かる」
セイディの目を見て、ジャックはそう言ってくれた。その表情が何処となく可愛らしく、そして面白くも見えてしまうのは、セイディがジャックのことをそこまで嫌悪していないからだろうか。多分だが、アシェルにこのことを伝えれば「大物」と言われるだろう。
「さて、話は変わるが相変わらず殿下は行方不明中だ」
「……ちょっと待ってください。それ、重要案件ですよね?」
「まぁな。まぁ、今日は俺が護衛だから良いだろう。放っておくぞ。……ほら、行くぞ、セイディ」
あ、今、名前で呼んでくれた。心の中でそう思うものの、セイディは指摘しない。ここで指摘をすると、彼の性格上絶対に慌てふためく。ついでに言えば、面倒なことになる。それが分かっていたので、セイディは気が付いていないフリをした。もちろん、心の中では「言った方が面白いだろうなぁ」とは、思っているが。言わないが。絶対に、言わないが。
そして、セイディはゆっくりと王宮の入り口に立つ。ここを出れば、自分は今からこの『光の収穫祭』の主役と言っても過言ではない存在になる。……アーネストのことを考えると、自分は堂々とするべきだ。そう思いながら、セイディはゆっくりと深呼吸をした。
「……行きます」
その後、そう呟いて一旦目を瞑る。今まで、いろいろなことがあった。それでも、もう自分は――怯まない。そう心に誓って、目を開いた。
次回更新は金曜日を予定しております(o*。_。)oペコッ
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