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内通者

(……お父様後、お義母様が?)


 ミリウスの言葉を、セイディはすぐに信じることが出来なかった。


 セイディの父であるオフラハティ子爵は、比較的気弱……どちらかと言えば、ジャレッドのようなタイプだ。そして、セイディの継母である妻の言いなり。だからこそ、父が独断でそんなことをするとはあまり考えられない。……継母に指示されていたのならば、分からなくもないのだが。


「……そもそも、オフラハティ子爵家は先代の当主が発展させた家だ。……今の当主は、いわばお飾りだろ?」

「それは、そうですけれど……」


 それくらい、セイディにだって分かっている。父に貴族としての才がないことも、人の上に立つ才がないことも。セイディから見て祖父が発展させてきた事業を、父がいくつも潰していたことも。それらは紛れもない真実ではあるし、それを否定することはない。


「それに、先代の当主夫妻はすでに亡くなっている。……だったら、誰があの夫妻を止める」


 ミリウスのその言葉に、セイディはある程度納得することが出来た。


 セイディがまだ幼かった頃の、おぼろげな記憶。セイディは、祖父母に愛されていた。彼らはセイディを愛し、必死に育ててくれていた。それでも年には勝てず。年老いた身体に病がたたり、あっさりと二人は亡くなってしまった。それ以来、継母はストッパーがなくなったかのように横暴になった。セイディのことを虐げ、レイラのことを溺愛した。……間違いなく、あの二人が生きていれば自分は勘当されなかっただろう。


「まぁ、この情報は不確定なものだからな。だから、まだ周りには言うなよ」

「はい」

「ついでに言うのならば、『光の収穫祭』の開催期間は絶対に悟られるな。……内通者の可能性がある夫妻の娘が代表聖女に選ばれたなど、バレたら面倒だ。俺は、面倒ごとが大嫌いだ」


 それだけを言って、ミリウスはさっさとこの場を離れようとする。


 ミリウスの言葉は、正しい。不確定なことを周囲に漏らさないのは重要だ。でも、ならば。……何故、彼はセイディにその情報を教えたのだろうか? 黙っていた方が、都合がよかったはずなのに。


「あ、あのっ!」


 ミリウスの背中に声をかければ、彼はゆっくりと振り向いた。その際に、一つに束ねられた長い金色の髪が揺れる。……とても、綺麗だった。


「でしたら、どうしてそのことを私に教えてくださったのですか? 黙っていた方が……その、いろいろと都合がいいかと、思いまして」


 ゆっくりとそんな言葉を紡げっば、ミリウスは「あ~」と言いながら天井を見上げた。……まさかではあるが、何も考えていなかったのではないだろうか? そんなことをセイディが思っていれば、ミリウスは「……直感?」なんてことを告げてくる。


「このことを、セイディには伝えておいた方が良い。そんなことを、突然思い立ってな」

「……それって、理由になっていますか?」

「なっていないな。……まぁ、俺はお前があの夫妻に協力しているとは考えていないわけだしな」


 にやりと口元を上げ、ミリウスはそう言う。その後、彼は「じゃあ、また明日な」と言って手をひらひらと振って歩いていく。……大方、自室に戻るのだろう。


「……というか、いきなりあんなことを言われても」


 父のことも、継母のことも、レイラのことも、信じてなどいない。好いてもいない。だから、彼らがどうなろうが関係ないし、興味もない……と言えば、薄情だと言われるかもしれない。それでも、自分を虐げてきた人たちを心配しろ、愛せと言う方が酷だ。そう、セイディは思っていた。


「……はぁ、なんていうかなぁ」


 ミリウスの言ったことは、知らない方がよかったかもしれない。一瞬だけそう思ったが、知っていて損はない情報だろうと思い直す。自分の元家族が帝国の内通者など、考えたくもないが。あの二人が、そこまで落ちていたとも思いたくもない。それでも、もしもそれが真実ならば――自分が、出来ることは。


「……お父様とお義母様を、止めること、よね」


 きっと、それが出来ていたら苦労はないのだろうが。そんな自虐的なことを考えながら、セイディは大きく伸びをした後寝台の方に近づいていく。明日からは忙しい。ならば、今日はぐっすりと眠っておくに限るだろう。そう、思ったのだ。


 でも、それよりも。


「お母様。お母様って……一体、どんなお方だったの?」


 祖父母も亡くなっているし、実母の出自を知る術はほとんど絶たれている。だけど、もしかしたら。自分が生きていれば、いつかは実母の出自にたどり着けるのではないだろうか。そう、思ってしまうのだ。


「私、いつかお母様のことを知りたいの。……だから、私のことを守ってね」


 夜空に向かってそう伝えても、実母に伝わっているかどうかは分からない。だけど。そう思いながら、セイディは寝台に上がり毛布にくるまった。最近は肌寒くなってきており、冬が近づいてきているのが分かる。夏も終わり、今は秋。そして冬が終われば、春が来る。……それでも、その時まで。次の春まで。……自分は、ここにいることが出来るだろうか? そんなことを、一瞬だけ考えてしまった。まぁ、今はそんなことを考えても無駄なだけなのだろうが。


(明日からは、もっと頑張るわ)


 いろいろと不安は尽きないが、それでも役に立つしかないのだ。だってここには――セイディにとって、大切な人たちがいるのだから。

ちょっといろいろと手間取っておりまして、更新が遅くなってしまいました……。次回更新は金曜日を予定しております(o*。_。)oペコッ


また、本日手元でちまちまと書いていたこちらと同一世界観のお話

狂愛劣情~元護衛騎士への恋心を忘れるためにお見合いをしたのですが~

というものを掲載開始しました。

舞台はマギニス帝国。本編とは特に関わりはありませんが、よろしければよろしくお願いいたします……!


いつもお読みくださり、誠にありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします……!

(書籍版も、よろしければぜひ)

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