後悔するのならば、やってから
「……セイディは、学習能力がないのか? この間、倒れただろう」
セイディの言葉を聞いて、アシェルがそんな言葉を返してくる。だからこそ、セイディは「今度は、大丈夫です」と力強く言った。確かに、倒れてしまう可能性はある。それでも、放っておけないのだ。後悔するのならば、やってからの方が良い。やらない後悔よりも、やった後悔の方が良いに決まっている。もちろん、後悔しないのが一番なのだろうが。
「もしも倒れたとしても、『光の収穫祭』が始まるまでには回復します。もしも目が冷めなかったら、その時はたたき起こしてください」
「……お前」
力強くセイディがそう言っていれば、ジャックの呆れたような視線がセイディに注がれた。それでも、セイディは引かなかった。ただ、力強くジャックやアシェル、ミリウスのことを見据えるだけ。隣にいるルディが何処となく気まずそうな表情をしているのが、分かる。だけど、今はそれを気にしている場合ではない。
「私も、何かがしたい。私のことを、信じてください」
そう言っても、容易く信じてもらえるとは思えない。彼らの間には強い信頼関係があるものの、そこにセイディが入ることは出来ていない。彼らは長い付き合いをしているが、自分はたった数ヶ月の付き合いでしかない。だから、信じてもらえるとは思っていない。
「……そうだな。じゃあ、セイディに任せるか」
が、セイディの力になりたいという気持ちを汲み取ってくれたのか、ミリウスはそう言ってセイディの肩を優しく叩いてくれた。そのため、セイディは一瞬だけ驚くものの顔をぱぁっと明るくし「はい!」と返事をする。もちろん、アシェルは少し不満そうな表情をしているが。きっと、ここまでセイディに頼らなければいけない現状を、苦しく思っているのだろう。
「……魔法石に何か魔法がかかっているのだとすれば、それは大方闇属性の魔法だろうな。……光の魔力で、打ち消すことが出来る」
「分かっています」
ジャックの一応とばかりの説明に、セイディはそう言葉を返す。そうすれば、ジャックは「じゃあ、とりあえずこれだけやってみるか」と言って自分たちの近くにある魔法石を指さした。まずは、一つだけでも回収できれば。そういう考えなのだろう。
(もちろん、一つを回収したところで何かが変わるわけではないかもしれないわ。それでも……きっと、これが帝国へのけん制になる)
多分だが、マギニス帝国はこのリア王国のことを舐めている。リア王国は聖女の数こそ多いものの、その力は微弱なものだ。北に面するヴェリテ公国のように、聖女の力が強いわけではない。
「……いきます」
セイディはそれだけを呟いて、ゆっくりと目を瞑って魔法石に手をかざす。確かに、何か結界のようなものが張ってあり、触れることは出来そうにない。だが、光の魔力をゆっくりと注いでいくと、その結界が脆くなっていく感触があった。それを実感し、セイディはそのまま魔力を注ぎ続ける。
(大丈夫。治癒の時と一緒よ。一点に集中して、魔力を送る。私ならば、ブランクがあっても出来るはず)
ここ数ヶ月、聖女の力を使うことは少なかった。それでも、きっと出来る。そう自らに言い聞かせ、セイディは目をうっすらと開く。そうすれば、結界のようなものに大きくひびが入っていた。……よし、あと少し。
「……あと、少し――」
そうセイディが呟いた時、結界のようなものがパリンと大きな音を立てて、崩れ去っていく。その瞬間、セイディの身体の力が抜け、地面に座り込んでしまいそうになる。それを寸前で支えてくれたのは――ミリウスだった。
「……よくやった。とりあえず、これで回収できる」
ミリウスはそう言って、セイディのことを労ってくれる。その目はいつものものとは違い、何処となく優しそうだった。多分だが、ミリウスも少しずつだがセイディのことを認めてくれているのだろう。聖女としての力は、元々認めてくれていた。それでもきっと、セイディ自身のことは認めていなかったはずだ。
「ジャック、頼むぞ」
「分かっている、殿下」
セイディがその場でゆっくりと呼吸を整えていれば、ジャックがその魔法石を回収する。その魔法石の色は、漆黒色。ところどころに青色の光が煌めいており、見た目だけ見れば幻想的だった。が、醸し出す魔力は恐ろしいほどに不気味なものだ。
「……アシェル。悪いが、セイディのことを頼むぞ」
「おい、団長。どうし――」
そんな時だった。ミリウスは、突然セイディの身体をアシェルに預けると、自身の剣を抜き宙を切る。……その突然の行動にセイディたちが驚いていれば、その瞬間なにやら短剣のようなものが地面に落ちていた。……大方、ミリウスの剣ではじかれたのだろう。
「……そこにいるんだろ? もう、隠れる必要はないぞ」
ミリウスの見つめる視線の先。その先を、セイディやアシェル、ジャックが追えば――そこには、とても美しい一人の青年が、いた。
「おや、見つかってしまったみたいですね。……さすがは王国が誇る最強の騎士団長ですか。……そういえば、貴方は王弟だとか」
「そんな無駄話をしに来たわけじゃないだろ」
「そうですね。俺は、ただ面白いものを探しているだけですから」
かつかつという足音を鳴らしながら、その青年はセイディたちの方に近づいてきた。濃い青色のさらさらとした肩の上までの髪。目の形はたれ目がちであり、その色は黒。その声は何処となく狂気を孕んでおり、うすら寒い雰囲気。……不気味な、青年だった。
「面白いものを探している? 嘘を言うな。……お前、帝国の人間だろ」
「……ククッ、バレていましたか。……そうですね、俺は――」
――アーネスト・イザヤ・ホーエンローエ。そんな名前の、帝国の魔法騎士ですよ。
青年、アーネストはそう言って、不気味なほどに美しい笑みを浮かべた。
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