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落ち着く時間(3)

「根になんて、持っていないですよ」


 アシェルの言葉に、セイディがそう返せば彼は「どうだか」なんて言いながら笑う。そして、自身もクッキーを一枚手に取っていた。その仕草はやはりとても綺麗であり、彼が伯爵家の令息であるということを嫌と言うほど思い知らされる。多分だが、騎士たちの中で最も動きが綺麗なのではないだろうか。


「……アシェル様は、どうして騎士になられたのですか?」


 そんな時、不意にセイディはそう問いかけた。以前、ぼんやりとだが理由を教えてもらったことはある。それでも、はっきりとした理由は聞いていない。それに、今とても話題に困っている。だからこそ、そんなことを問いかけていた。


「そうだな……強くなりたかったからっていうのは、無難な回答過ぎるか」


 セイディの問いかけを聞いて、アシェルはそんなことをぼやき、クッキーを口に放り込む。その後「……俺は、フェアファクス伯爵家の令息だ」と続ける。


「フェアファクス伯爵家は、美貌の一族だ。だから、いろいろなことがある。俺も、幼い頃に誘拐されてな」

「……え?」

「その時に、騎士に助けてもらったんだ。それで、俺も騎士を志すようになった」


 そう言って、アシェルは笑う。それに、セイディはなんと返せばいいかが分からなくなってしまった。アシェルに誘拐された過去があるなんて、なんというか想像できない。それはきっと、今の強い彼しか知らないからだろうが。それは、すぐに分かった。


「……反対は、されなかったのですか?」

「されていないな。むしろ、賛成された」


 アシェルはそう言いながら、過去のことを思い出したのか口元を緩めていた。それをセイディが怪訝に思っていれば、アシェルは「……俺の、強くなりたいという気持ちを汲み取ってくれたんだろ」と言う。


「セイディは、どうして聖女を続けていた?」

「……私、は」


 その問いかけに、セイディは口ごもる。聖女は基本的には光の魔力を持っている女性ならば、誰でもなれる職業だ。他国ではそんな女性は少ないものの、このリア王国ではかなり多い。だからこそ、光の魔力を持っていても、聖女としての従事期間を最小限で終わらせる女性も一定数いる。それでも、セイディは聖女としてヤーノルド神殿で従事を続けていた。……訳など、はっきりとしていないのだが。


「私、十歳の時に光の魔力に目覚めました。それで、実父に言われるがまま神殿に属して、そのまま成り行きで続けていた感じ……です、かね」


 確かに、成り行きで続けていた部分もある。それでも、聖女として人々に感謝されるのは、やりがいになっていた。きっと、それがあったからこそ続けることが出来たのだろう。セイディが聖女を辞めたいと思ったことは、あまりない。もちろん、一度や二度、三度くらいはあるのだが。


「……お父様は、私の力を忌々しく思っていたようですけれどね」


 そして、そう言葉を続ける。セイディの実父は、セイディの聖女の力を何処か疎ましく思っていた。それは多分だが実母のことがあるからだろう。セイディの実母も、きっと強い聖女の力を持っていたはずだ。なんといっても、聖女の力は遺伝しやすいのだ。


「……そうか」


 そんな風に、他愛もない会話を二人で続ける。聖女として従事していた頃は、まさか自分がこんな風になるなんて思いもしていなかった。自分の聖女の力が、強すぎることも知らなかった。ただ、無知だった。それは……まともな教育を、受けていないからだったのだろう。


「私、何度も言いますが自分の境遇を悲観したりはしません。私の味方をしてくれていた、使用人たちがいましたから」


 そう言って思い出すのは、オフラハティ子爵家にいた使用人たちのこと。特に、実母の専属侍女だった女性や、執事はセイディのことをよく庇ってくれていた。それを拒否していたのは、セイディ自身なのだ。


「けど……時折、思うことはありました。……私、何のために生まれてきたのかな……って」


 少し気持ちが落ち込むと、そう思ってしまうことがあった。いくらメンタルが強いと言っても、時折は挫けそうになる。ずっと挫けない人間なんて、きっとこの世に存在しないだろう。


「……セイディ」

「なんて、私らしくないですよね。申し訳ございません。……アシェル様の前だと、ついつい弱音を零してしまって」


 苦笑を浮かべながら、セイディはそう告げる。アシェルのことは少しだけ苦手かもしれない。それでも、アシェルとの時間は何処となく落ち着くのだ。


「……いや、弱音を零してもらっても構わない。むしろ、ずっと気丈に振る舞われると心配だしな」

「アシェル様って、心配性だと言われませんか?」

「よく言われる。まぁ、団長があんな感じだからバランスが取れていていいだろ」


 それは、そうかもしれないな。ミリウスはどちらかと言えば適当な雰囲気だ。そのため、真面目で世話好きなアシェルとのバランスが良いのかもしれない。そんなことを、セイディは考えてしまう。


「じゃあ、そろそろ確認に戻る――」


 その後、しばらくしてアシェルがそんなことを言ったときだった。部屋の扉が、ノックもなしに開け放たれる。それに驚き二人が視線をそちらに向ければ、そこにいたのは息を切らしたルディだった。


「副団長! セイディさん!」

「……ルディ、どうした」


 慌てふためくルディを見て、アシェルは眉をひそめながらそう問いかける。そうすれば、ルディは「だ、団長から、伝言です!」と言って部屋の中に転がり込むように入ってきた。

次回更新は今週の金曜日を予定しております(o*。_。)oペコッ

また、年が明けましたので更新曜日に日曜日も追加し、週三回更新になります(一応3月の末頃までこのペースで行こうと思っております)


いつもお読みくださり誠にありがとうございます。今年もどうぞよろしくお願いいたします……!

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