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落ち着く時間(1)

 それから数日後。セイディは『光の収穫祭』の準備に追われていた。『光の収穫祭』の初日を三日後に控えた今、代表聖女としての仕事は計り知れない。護衛もリオからアシェルに変わり、もうすぐだという実感が湧き出てくる。


(……フレディ、様)


 机の前の椅子に座り、セイディは当日のルートを確認する。しかし、いまいち集中できない。それはきっと、姿を消してしまったフレディに対しての様々な気持ちが交錯するからだろう。


 あの日以来、フレディは姿を消した。騎士がキャロル子爵家を訪れたらしいのだが、キャロル子爵夫妻曰く置き手紙だけを残して姿を消してしまったらしい。王宮にもおらず、まさに行方知れず状態。神官長と同じである。


「セイディ、こっちのルートに変更するか」

「……そう、ですね」


 アシェルが地図を覗き込み、そう言ってくるのでセイディは頷く。ルートの確認と言っても、かなり大雑把なものなのだ。大体のルートは代表聖女が決めることになっているらしい。もちろん、回る神殿は神官長が決めるのだが。この時間にこの神殿に行く。それさえ守れば、ルートは適当で構わないと。その方が、遭遇した時にレアリティが増すとか、なんとか。……今の国王に代替わりをしてから、そうなったそうだ。


「セイディ、集中できていないぞ」


 その言葉にセイディが現実に意識を戻せば、アシェルが自身の顔を覗き込んでいた。そのため、セイディは椅子ごと後ずさってしまう。アシェルの顔はとても綺麗だ。突然見ると心臓に悪い。


「ったく、この調子で出来るのか?」

「……出来、る、と思います。いえ、やります」


 確かに、この調子だと少し難しいかもしれない。集中できていないということは、その分怪我や事故のリスクが増すということだからだ。しかし、いまいち集中できない。神官長のこと、フレディのこと、ジャレッドのこと。考えないようにしても、どうしても考えてしまう。


「やるって決めているのは、偉いな。だが、集中できていないのならば、休憩をしろ。今は、無理をする時じゃない」

「……はい」


 アシェルにそう言われ、セイディはただ頷いた。アシェルは護衛を務めている間も、セイディに様々なことを教えてくれた。ここにいる人たちはみなアシェルのことを買っているらしく、護衛であるアシェルがセイディに話しかけても、特に咎めることはない。やはり、騎士団の副団長という肩書が生きているのだろう。


「……アシェル、様」

「どうした」


 ゆっくりとアシェルの名前を呼べば、アシェルは目を見開きながらもセイディにそう返事をくれた。アシェルは口こそ悪いが、根は優しい。だから、怒られてもそこまで嫌悪感を持たない。……もちろん、苦手意識は別だが。


「いえ……」

「フレディのこと、やっぱり気になるのか?」


 そう問いかけられ、セイディは躊躇ったものの頷いた。フレディが、何かを起こそうとしているのならば。それが、このリア王国にとってメリットがあったとしても、デメリットしかないとしても、止めた方が良いのは間違いない。一人で突っ走るなんて、言語道断なのだ。


「俺も、あいつが何を企んでいるのかは知らない。ただ、何かをやるとすれば『光の収穫祭』の最中だろうな」

「……そう、ですよね」

「だから、俺たちは警護をするだけだ。当日は、セイディの警護は団長と魔法騎士団の方の団長が務めるから、俺たちは一般警護になる」


 アシェルはそう言いながらも、「団長に、振り回されるなよ」と言ってくれた。そう思うのならば、最初から釘をさしておいてくれ。そう思ったが、ミリウスはきっとそれくらいでは堪えないだろう。告げるだけ、体力の無駄なのだ。


「……アーネスト・イザヤ・ホーエンローエという男についても捜しているが、あまり上手くはいっていないな」

「そうなの、ですか」

「あぁ、報告書を見ても特に進展はないと書いてある」


 フレディが告げていた、帝国の魔法騎士の名前。その人物を捜し出せば、なにかが分かるかもしれない。それは分かっているが、どうしても奴は姿を見せない。いや、きっと。彼は今、このリア王国で一般市民に化けて生活をしているのだろう。周囲を欺き、騙しながら。


「まぁ、相手は一人だろうしな。こっちは数の暴力で行くしかない。それに……うちには、最強の団長がいる」

「……ミリウス様のこと、信頼しているのですね」

「最初に言ったけれど、実力だけだがな。私生活のことはこれっぽっちも信頼できない。普通に遅刻してくるし、勝手に狩りに行くし」


 そう言ったアシェルは、額を押さえてしまった。それを見たセイディは、「……あはは」と笑いを零すことしか出来ない。アシェルの苦労は、セイディもよく知っている。というか、騎士団の寄宿舎で生活をしていれば、気にしていなくても知ってしまう。


「メイドを雇うなんて発想を、突拍子もなくするしな」

「……そう、ですね」


 次のアシェルの言葉で、セイディは苦笑を浮かべていた。メイドになれたから、ここでアシェルたちと縁が出来たのだ。もしも、メイドを募集していなかったのならば。自分はきっと――何も知らない、ただの一般人として生活をしていた。


(そっちの方が、考え方によっては幸せなのかもしれない。けど、私は今ここが楽しいの)


 ここで、メイドとして働いた日々はかけがえのないものだ。もしも、この代表聖女として務める日々が終わり、メイドを辞めるとしても。思い出だけは、残る。楽しかった日々は、絶対に忘れたりしない。

ブクマ11900突破誠にありがとうございます(o*。_。)oペコッ(多少の前後はあるでしょうが……)

次回更新は今週の金曜日の予定です。年内最後になります。


また、今回のお話で100話目になります。まさかここまで長くなるとは思っておりませんでしたが、たくさんの方に読んでいただき本当に嬉しいです。


引き続きよろしくお願いいたします……!

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