第9話 怪我人救出
「おい…俺を置いていくな…。魔力無しの俺が空を飛べる訳ないだろが。」
若干肩で息をしながらそう言う黒騎士、オルソさん。すみません、空飛べなかったんですね。
「探索」が指し示す方向へ急ぐあまり、我がチーム担当の黒騎士を置いてきてしまうというアクシデントが起きたが、どうにか味方がやられる前に到着出来た私達。周りを見ると他の黒騎士もちらほら見られる。どうやら、緊急要請を受けて、私達と同時刻くらいに到着したようだ。
現れた赤竜は体長5m程で、この種は最大10m近く成長する事を考えるとあまり大きくない。まだ子供なんだろうか?
そして実際に赤竜と戦っているのは…ユートロ団長だった。どうやら、一人団員を庇いつつ戦っている。庇われている団員は、足や腕が鎧ごとざっくり切れており、動脈を傷付けたのか、それらからかなりの血が滴っている。顔も真っ青でかなり危ないが、足を傷付けられているので逃げられない。ユートロ団長も逃がす余裕が無さそうだ。
「オルソ!ちょっとこのトカゲの気を引き付けている間に、こいつ本部に連れて行ってくれ!リンはそのサポート!……あと、ユーリ!てめぇ、何やってんだ!?女ナンパしてねぇでこっち手伝えや!子供の赤竜とはいえ、1人じゃキツイんだよ!!」
そう怒鳴りながらも、器用に赤竜が放つ炎のブレスを避けるユートロ団長。
ふとユートロ団長の視線の先を見ると、1人の犬系獣人の男性が救助されたであろう女子学生に話しかけている。どうやら武術家の学生みたいだけど、ユートロ団長の知り合いかな?相手の女子学生は医療科の子っぽいな。かなり迷惑そう。
風魔術で話し声を拾うと…「この後どこかでお茶しない?」……あーあ、確かにナンパしてる。
周りにいる黒騎士で魔力があるものは、赤竜が放つブレスが森に引火しないように、水属性の魔術で対抗している。しかし、魔力持ちが少ない黒騎士団にとってはかなりギリギリの状態。そんな中でのナンパ………アイツ、後で殺されるな。
すると、他の騎士団員がユーリとかいう人の頭にゲンコツを落とした後、女子学生を本部の方へ連れていった。女子学生はホッとしたようだ。ナンパ野郎はゲンコツがよっぽど痛かったのか、頭を押さえてうずくまっている。ざまぁ。
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「さて、私は自分の仕事をするかな。…オルソさん!援助します!」
私はナンパ野郎から視線を外し、オルソさんへ合図した。そして光属性の魔術で私とオルソさんの気配を薄くし、赤竜に気付かれ無いようサポートする。一応おまけして、オルソさんの俊敏性と防御力も上げておく。
本当は怪我人の状態を考えるとすぐにでも私が治療出来れば良いのだが、あそこまでパックリ切れて出血していると、さすがに直接患部に触れる必要がある。今の私には離れた距離からの治療は不可能だ。
「遠隔で治療出来るようになった方が便利だよなぁ。医療科の人で何人か出来る人がいるらしいし、一度やり方聞いてみようかな。」
そう考えている間に、オルソさんがユートロ団長の背後にいる怪我人を救出出来たようだ。
「救出出来たぞ。本部へ急ごう。気を失っててマズい。」
救出された騎士団の方は気を失っており、出血しすぎで顔が青白い。本当に危険な状態だった。
「この状態で本部までもつかどうか分かりませんから。私が応急処置します。」
「え?魔術科の君では無理だろ?医療科でないと。」
「大丈夫ですよ。こんな患者さん何人も師匠の所で見てきましたから。」
そう言いながら、私は治療に入った。
オルソ「(ドゥ・リンの師匠の治療院ってどんな野戦病院だったんだ…?)」
ところ変わって…
某師匠「くしゅん!」
患者「おや、どうした?先生。風邪か?向こうで休んだ方がいいんじゃないか?」
某師匠「花粉症かもしれないですけど大丈夫ですよ。それよりさっさとそのお腹の刺傷縫っちゃうんで、諦めてさっさとお腹出してくださいな!私の言いつけ無視してここで喧嘩して開いた傷口なので麻酔なしですよぉー。はい、一応猿轡噛ませときますねー。」
患者「うぅーーーー!!!(鬼ーー!!!)」