第5話 第三王子の婚約者
高等部魔術科は、初め平民同士、貴族同士で固まって行動していたが、第三王子であるレオンが平民のクラスメイトとも気さくに話をしたり遊びに行ったりするので段々貴族と平民といった垣根は無くなっていったように思う。
私も初めは数々のご令嬢から睨まれていたが、ある日一人の貴族のご令嬢と魔術戦闘訓練の授業でペアを組まされた。正直、めちゃくちゃ面倒だなぁと思っていた。相手がただのご令嬢だったらまだ良かったけど、なんとレオンの婚約者ダン・ジュリエット。入学時に殺意を飛ばしてきたご令嬢とは違って、流石王族の婚約者、変に関わってこようともしない上、心が全然読めないので苦手だった。
「胸を借りるつもりでいきますね。宜しくお願いします。」
「こちらこそ、宜しくお願い致します、ジュリエット様。」
内心、『その豊かな胸を借りたいのは私です…』と言いたいのを我慢した。彼女の胸の大きさは大きさメロン、触り心地は絶対マシュマロだと思う。レオンが羨ましい…。
さて、そんな妄想を抱いてる間に戦闘訓練開始の合図がなされた。大人しそうな顔してジュリエット様が得意なのはバリバリの火属性。さらに風属性にも特化しているらしく、高威力の炎嵐炎嵐を展開してきた。こちらも得意の水属性で水壁水壁を展開したが、蒸発されかねん勢いだったので即上空に逃げた。風属性の魔術を使えば、短時間だが、空も簡単に飛べる。何故か誰もやらんけど。
空へ逃げた事に私に気付かない様子彼女に、水属性の魔術で攻撃し、あっさり決着がついた。試合直後、ずぶ濡れ状態で興奮した姿の彼女が私の所へ向かって来たので、『やべ、服まで濡らしたから怒らせたか…?』と思い、そっと逃げようとしたところ、
「まさか、優秀だと聞いてはいましたが、空も飛べるなんて思っても見ませんでしたわ!!良かったらどうやってやったのか教えて下さらない?風属性の魔術は得意ですが仕組みが分からなくて…。せめてもう一度見せて下さらないかしら?さぁ!!」
…と、キラキラした目をして言われたので、若干その勢いに引きつつもこっそりと、
「教えるのはいいけど、まずはその服装着替えて来た方が良いと思いますよ?ほら、少し服が濡れて透けちゃってますし…」
「あらまぁ……!」
……ほら、婚約者殿もやって来たようですよ?おやまぁ…、レオン、顔が少し赤い様ですわよ?ニヤニヤ。
「ほら、ジュリア?私の上着を羽織ってそのまま医務室で手当を受けて着替えておいで。私も一緒に行くから。」
「レオン!ありがとうございます。有難く上着をお借りしますね。リンさん!後で必ず教えて下さいね!?絶対ですよ!?」
「もちろんです。ジュリエット様。」
「そんな、『ジュリエット様』なんて!ジュリアと呼んで!様付けも無しよ?ただのジュリアで良いわ!もう私達お友達なんですから。」
「分かりました、ジュリア。それではまた後で。」
私はジュリアが医務室の方へ行くのを見送っていたが、ちょうど、授業終了の鐘が鳴った為、急いで次の授業が行われる教室へ向かった。
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後々聞いた話だが、ジュリアは魔術が大好きで、平民の中でも優秀だと噂されている私と話をしてみたくてうずうずしていたらしい。しかし、取り巻きのご令嬢が私を毛嫌いするものだから、迷惑にならないよう取り巻きの暴走を抑えたり、私に話しかけないよう努力していたそうだ。今回の件でその努力が無になった訳だが。
ただ、私の使った魔術について興味を持ったのはジュリアだけでなく、取り巻き達もだったらしく、放課後ジュリアと共に質問攻めにされた。特に取り巻きの一人である金髪縦ロールちゃんは、入学の際、あんだけ殺意を向けてきたのに、
「ジュリアの友達は私の友達ですわ!「特別に」私をローラと呼ぶ事を許してさしあげますわ!!」
…と、ツンツンしてきたので、少し意地悪したくなって、
「いや、ローラ様、そんな無理しなくて結構ですよ?別にローラ様にわざわざ友達になって欲しいとか、そんな恐れ多いことこれっぽっちも思ってませんし。」
…と、返したら半泣きで当時の事を謝罪された。どうやら、大好きな友達であるジュリアの婚約者が私に盗られるんじゃないかと思ってジュリアの代わりに警戒していたらしい。別に謝られるような事でも無かったのだけど、謝罪を受け入れて仲良くなった。
これをきっかけに私達の学年の魔術科は貴族、平民関係無く仲良くなれた…と思う。まぁ、貴族なんて心の底はどう思ってるか分かんないから分かんないけどさ。
そうそう、空を飛ぶ魔術は残念ながら今のジュリアには使えなかった。リム先生いわく、空を飛ぶためには綿密な魔力コントロールが必要になるらしい。綿密な魔力コントロールが出来るようになれば、空も飛べると言われたジュリアとその取り巻き達は目をキラキラさせてより一層、勉学に励むようになったとか。
私は切断された腕を繋げるより、空を飛ぶ方が簡単だと思うんだけどなぁ…。
レオン「ジュリア、空を飛ぶなんて高等部の生徒の中ではリンにしか出来ないことだからね?」
ジュリア「そうですの?リンは切断された腕をくっつける方が難しいと言っていたわ?」
レオン「切断された腕を元のようにくっつけるなんて事が出来るのはこの国にも数人いるかどうか…というレベルの魔術だよ?他の人にはあまり言わないでね?他の国にリンを取られてしまうから。」
ジュリア「あらあら…そうなんですの。本人が無自覚なのは問題ですわねぇ…。」
レオン「本当に…困ったもんだ。」