第36話 師団長の幼馴染
今までの話、辻褄が合わなかったり、おまけの話が同じ話になってたりしたので少し訂正してます…。話の内容に大きく変更は無いのでご安心を…m(_ _)m
「私達もお嬢様をお止めしたさ。でも無理だったんだ…。」
「いやいや、何のための護衛だよ!止めろよ!」
赤髪の護衛が遠い目をしながらボソリと言うと、それを聞いた師団長は舌打ちをしつつ抗議を続けている。私達がその光景をぽかんと眺めていると、エメ様がそっと近寄ってきた。
「急に騒がしくしてしまってごめんなさいね。私の後ろに控えているのは私の護衛なの。護衛のリーダーのマルクはラルドの幼馴染みで仲が良いのよ。」
エメ様は貴族にも関わらず、平民の私にも気さくに声を掛けてくれた。悪い人では無さそうだ。しかしまだ二人は言い争ってる様子…と言っても、怒っているのは師団長だけの様だが。
「お前、このお転婆娘を止められなかったら、主に怒られるんじゃないのか?」
「その点は問題無い。ここで事が起きてもお前に責任を押し付ければいいだけだからな。」
「おい、待て。それだけはやめろ。俺はあまりあの方に会いたくないんだよ…。ただでさえ、身内の集まりの時に毎回嫌味言われたり、無理難題吹っかけられるんだぞ?それであの方の娘であるエメが俺の目の前で怪我してみろ…今度は殺されるわ!」
「ははは!主様はお前が娘に気に入られてるのが気に入らんだけだ。安心しろ。最後はエメ様が助けてくれるさ。」
「そんな情けないことあってたまるか!」
師団長とマルクさんの会話はまるで漫才のようにテンポが良く、また師団長の顔色が赤くなったり、青くなったりころころ変わるので見てて結構面白かった。実際隣でエメ様もクスクス笑っている。しかし、諸悪の根源はこの人だったような…?
「おいエメ!お前笑ってんじゃねぇよ!お前が俺の目の前でゾンビになったら今度はお前の親父に俺が殺されるんだぞ!?」
「あら、でももう治ってますわよ?肌の色も綺麗ですし、気を失っているようですが、呼吸は穏やかですわ。」
「万が一ということがあるだろうが!それ以上近寄るなよ。
…ほら、こいつが触っちまう前に、お前らとっととこいつらを救護室へ連れて行け!」
師団長の背後にいた人達が師団長の言葉を受け、手際良く担架に先輩方を乗せ、魔術で担架を浮かせながら救護室へ運んで行った。
「……ったく!エメとマルク!お前らはさっさと放送席戻れ。」
「あら!家に帰れと言われると思いましたわ。」
「お前に帰れと言って素直に帰ったことがあったか?変な所から覗き見されるくらいなら俺の目の届く範囲にいてもらった方がマシだ。ほら、行った行った!」
そういって、エメ様とマルクさんに背中を向け、手だけあっち行けと合図している。
「ふふふ。相変わらず優しいこと。では、マルク、行きましょう。リンさん達もお疲れ様。また今度ゆっくりお話しましょうね。」
そう言ってエメ様とマルクさん含めた護衛の人達は、放送席に戻って行った………師団長も連れていくのを忘れずに。
「ちょい、待てや。何で俺も一緒に行かないといけないんだ!?」
「ほら。だって、『俺の目の届く範囲』に私が居ないといけないのでしょう?」
「いや、下からでも見れるから。おい!他の護衛の奴らもエメの命令なんて真面目に聞かずに離せ!…てか、マルク!どさくさに紛れてなんで魔封じの魔道具俺に付けてるんだ!やめろ!外せ!!」
師団長は魔封じの魔道具を付けられた上、縄で手足を固定された状態でマルクさんに抱えられ、放送席へと戻っていった。放送席へ着くまでしばらく師団長は芋虫のように身を捩り抵抗していたが、それ鬱陶しく思ったのか、マルクさんが師団長の鳩尾を殴って大人しくさせていた。エメ様は後ろ姿からも機嫌が良いのがよく分かる。
しばらく、その光景をボーッと見ていた私達だったが、師団長達が去ってすぐ、駆け足でやって来た先輩達に観客席へと誘導されたのだった。