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第3話 とある試験官の話

ドーベル国魔術攻撃部隊副団長のドゥ・リンは高等部入学試験から異才を放っていた。


彼女の出願書類では家は平民だが、高等部推薦者欄にこの街の領主様の名前が記載されていた。それだけでなく、どうやら変わり者で有名な才女アンジェリーナ様が師匠らしい。


*************


アンジェリーナ様はこの高等部では伝説級の有名人だ。貴族であるにも関わらず、平民と一緒に初等部・中等部へ通い、その上高等部では首席入学。高等部内での成績も常にトップクラス。もちろん貴族から妬みもあったが、それを話し合い(という名の武力)で制圧。容姿は黒髪色白綺麗系美人であり、平民からは憧れ、一部の女性からは「お姉様」、一部の男性からは「あのお方に踏まれたい」とまで言われた人だった。何もかも規格外で、卒業後はドーベル国の軍に入団する……かと思いきや、街に治療院を開業すると。もちろん、高等部の講師陣は全力で軍への入団を勧めたが、本人には笑顔を浮かべつつ全力で逃げられた。当時、俺も本人を説得した側の人間だが、


「先生が私と結婚してくれるなら考えるかも…」


と、冗談を言われ、やはり全力で逃げられた。卒業式の時ですら、


「先生は私と結婚しなくて良いんですか?一生独身かもしれませんよ?フフフ…」


と、笑いながら言われた。新米教師だったのもあり、気安かったのだろう…と思うようにしてる。決して馬鹿にした訳じゃないと信じている。まだ独身だけど。彼女もいないけど。


今は「アンジュ」という愛称で街の人達(主にヤクザ)から慕われており、この街の裏を支配していると噂で聞いている。実際、領主様も手を焼いていた2つのヤクザの組織を彼女が潰したと聞いた。


実際、それぞれの組織があった所は彼女が得意としていた光属性の魔術でクレーターが出来ていたので、多分、本当のことだろうと思っている。


**************


そんな師匠を持つドゥ・リンに試験官皆、注目した。


案の定、筆記試験の成績はトップクラス。


面接試験も、とある試験官が圧迫面接をしたが、難なくかわされ逆に試験官側が威圧される始末。ちなみにこの試験官は貴族で、平民に面接試験する時は圧迫面接をすることで有名だった。まぁ、今回からこいつの言動を監視する為に、毎回面接試験をこっそり録音することになったらしく、ドゥ・リンの面接試験内容の録音を後で聞いた学長にこってり叱られ、二度と試験官にしないと言われていたが。懲りてくれるといいけど。


事件が起きたのは実技試験だった。実技試験は本人の魔力の有無と、魔術に対する資質を見るだけなので、正直なところ、得意な属性の魔術を披露するだけで合格ラインの点数が貰える。彼女は火、風、水、光属性が得意と聞いているので、例えば魔術で火や光を何かに灯したり、そよ風を起こしたり、コップに水を注いだりするだけで良かった。


しかし、彼女がやってのけたのは光属性の魔術で自身の神経を麻痺させるという緻密なコントロールだけでなく、腕を切りつける前後で水属性の魔術で消毒、火、水、光属性で失った血液の補充と細胞を活性化させ傷口を傷跡も残さず治癒したのである。それも腕を切りつけた際、骨が見える程深く傷つけており、それを見た他の試験管はグロテスクさと魔術コントロールの凄さ、二重の意味で真っ青になっていた。こんな魔術使える人が講師陣にもいるかどうか…というレベルなので当たり前か。


一応試験後は医務室送りにさせてもらった。大丈夫だとは思うけど。


**************


その後、成績順位をつける際、講師の間でかなり揉めた。基本的に王族が入学する年はその王族が首席合格を果たすことが多いのだが、今回は王族である第三王子レオンハルト様と平民であるドゥ・リンが同じ点数。むしろ実技試験の成績を鑑みるにドゥ・リンの方に軍配が上がってしまう。ただ、そうなると王族・貴族のメンツが丸潰れとなり、あとあと厄介な事になる…と、悩みに悩んだ講師陣は、面接試験の配点を今年だけ増やし、無理やり第三王子を首席にすることにした。もちろん、この事は国王様も了承済みである。


ドゥ・リンを首席にして王族・貴族から妬まれ虐められでもしたら、師匠と共に他の国へ行ってしまうか、最悪国を滅ぼされかねないとでも思ったのだろう。ドゥ・リンの師匠であるアンジェリーナの話は国王様もよくご存知だから。あの人は暴走すると手が付けられない。今はマシなのかもしれないが。


あとは実技試験の件を噂で聞いた医療科の講師陣からも「ドゥ・リンさんの才能は医療科で発揮されるべき」と抗議を入れられた。本人が入学希望だったのが魔術科であるという理由で即却下したが。


今年の入団試験は本当に面倒だった…たった一人の女子のおかげで。


師匠が師匠なら弟子も弟子か…なんて遠い目をしながら思ったのは俺だけじゃないと思う。絶対。


アンジュ「私は本気だったのですけどねぇ……」


リン「師匠、誰に向かって言ってるの?」


アンジュ「いえ、別に?久しぶりに母校に行くのも良いかと思って。」


リン「?」


某試験官「(ゾクッ…)」

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