第2話 師匠アンジュ
私が高等部入学試験の為に教えを乞うた師であるアンジュ様は、高等部卒業後、街で平民相手に治療院をしていた。…というか、アンジュ様は領主様の娘だった。黒髪のショートボブで色白、身長はやや高めの綺麗系美人。さぞかしモテるんだろうな…という容姿だった。実際は性格と(武力的な)攻撃力の高さのせいで恐れられていたのだが。
師匠は水・光属性に特化しており、それを応用して患者さんの治療にあたっていた。私は中等部1年の時からアンジュ様の弟子となり、高等部入学への実技指導…という名の治療補助をしていた。ちょうど、治療補助スタッフを探していたところだったらしく、大歓迎された。
師匠の指導は私にとって優しかったが、仕事に関しては量がえげつない。患者さんは「ちょっと怖い」お兄さん、「ちょっと怖い」おじ様達が刺傷、火傷、銃創等を負ってよーく来ていた。どうやら大きなヤクザの組織二つがこの街にあるらしく、よくドンパチしているらしい。 でもこの二つの組織があるからこそ、余所者にこの街が荒らされることもないらしいので持ちつ持たれつの関係らしい。
この治療院にもそれぞれの組織から治療を受けに人が来ていたが、この治療院のある場所では争わないというルールが設けられているそうだ。師匠いわく、「そんなことしたら、争いが出来ないようにどちらの組織も消すしかないわよねぇ…」ってことらしい。師匠怖い。
ちなみに、前は4つヤクザの組織があったらしいが、治療院で揉め事を起こした2つの組織が師匠によって壊滅させられたらしい。当時の事を尋ねると、
「ん?治安維持の為、領主である父様にちょーっと協力しただけよ?」
…なんて、小首を傾げて可愛らしく言っていたが、それを私と共に聞いていたヤクザのおじ様が若干怯えた目で師匠を見たのを私は見逃さなかった。師匠は何したんだか…。
******************
中等部3年になる頃には師匠の監視の元で魔術を使用した治療が出来るようになった。初めは「ちょっと怖い」と思ってたお兄さんやおじ様とも、
「また無茶したんですか!」
「よう!愛しのお嬢に会いに来たんや!」
「何言ってるんですか。会いに来るなら傷作って来るんじゃなくて、甘いお菓子作って持ってきて下さい!!これ以上仕事増やさないでー!!勉強しないといけないのにぃぃーーー!」
…と、ブチ切れることが出来るほど、気軽に会話出来るようになっていた。ちなみにキレてからは定期的に私にお菓子を差し入れてくれるようになった。……仕事は減らなかったが。
*********************
さて、高等部入学試験の日がやってきた。
筆記試験と面接は問題無し。普段から色んな患者さん対応してたし、多少圧迫感ある面接でもあのお兄さんやおじ様と比べると可愛いもの。問題は実技試験。
実技試験は『得意な魔術を披露して下さい』との事だったので、良く師匠から「これやれば受かるわよ!」と太鼓判を押されていた魔術を披露した。
光属性を応用して自分の神経を麻痺させ腕をナイフで傷付け、その傷を水属性と光属性を応用して治癒する…という事をやったのだが、数名の審査官は真っ青になって吐きそうになっていた。…血、苦手だったんかな?傷は治ったが、一応心配され医務室へ行くはめになった。大丈夫だと言ったのに。
常連患者その1「アンジュさんのリンちゃんに対する指導って優しい口調だけど、結構無茶多いよなぁ?」
常連患者その2「んだぁ、『銃弾摘出して傷口を魔術で繋げといてー』とか簡単に言っとるが、消毒もせずただ銃弾取り出して傷口塞いだだけじゃ、すぐ化膿しちまうっぺ。それに魔術で消毒ってなると、かなりこまけぇ作業になる…ってこの間、魔術使える友達が言ってたっぺよ。」
常連患者その1「流石、リンちゃんだなぁ…。」
常連患者その2「んだぁ、んだぁ、リンちゃんはすげぇ。」