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第17話 実技試験初日④

周りの時間が動き出した途端、周りのベッドから呻き声があちらこちらから聞こえた。ベッドには身体のあちらこちらが欠損している患者ばかり。普通の学生なら恐怖で慄いてしまうだろう。まぁ、私は関係ない。師匠の治療院ではこんな患者、ほぼ毎日の様に来る。中には腹部を斬られ、チラッと腸が見える患者もいる。



「さてと、まずはこれが先だな。まぁ、先生方にも協力してもらおう。」



そう呟き展開したのは、「魔力吸収」の魔術。普通は指定した一つの対象に対してのみ行使される魔術ではあるが、これはアンジュ師匠が編み出した広域に作用する「魔力吸収」である。こちらが指定した空間の魔力を少しずつ吸収し、術者に供給してくれる。その空間の空中に漂う魔力はもちろんのこと、その空間に魔力を持つ人がいた場合、その人からも吸収することが出来る。吸収する量はこちらで指定出来るので、健康に害を与えない程度に吸収させて貰うことにする。勿論、患者は魔術の範囲外だ。ちらっと学園長達を見ると、



「おやおや、面白いのぉ。」


「あらあら~。ちゃっかりしてるわねぇ。」


「いい度胸だな…まぁ、これくらいなら別に良いが。」



順に学園長、エミリー先生、ロゼ先生がそう感心した様子で頷いている。怒られなくて良かった。


次は患者がいる空間全域に滅菌空間を魔術で展開。この空間内にいる対象物の表面にある有害な微生物は綺麗に滅菌されるというとても便利な魔術だ。体内まで作用してしまうと、腸内環境が狂ってしまい、体内免疫にまで影響を及ぼしてしまうので、表面だけというのがポイントだ。


「魔力吸収」の魔術により、自動で魔力供給を受けているとはいえ、ここまでで自身の持つ魔力の過半数は奪われた。



「やっぱり、ちょっとキツいなぁ。でもあと少しだ。患者さんの人数は…13人か。ギリギリいけるかな。」



私は13名をざっと見回し、重症度が高く一刻を争う患者について優先順位をつけ、優先順位が高い人から順に治療を開始した。



*********


「まさかここまでなんて…」


私は彼女の治療の手際を見て呆然としてしまった。いきなり戦場の最前線に連れてこられ、悲惨な患者を目の当たりにしたのにも関わらず、彼女は決してしり込みすることなく堂々としている。その上、「魔力吸収」の魔術できちんと魔力不足に対する予防策を取った後、滅菌環境を整え、優先順位をつけ、優先順位が高い人から順に治療に当たっている。こんな流れるような対応、普通の医療科を卒業した者でも出来るか分からない。


実は今回のこの試験、元々彼女の師匠がねじ込んだのに加え、彼女の才能を見たい()()()関わっていた。その為、今回は一番過酷な魔物討伐最前線の救護室での試験となっている。医療科の卒業試験ですら、こんな環境下での試験は行われたことがない。彼女は知らないだろうが。


「んー、若いとは素晴らしいのぉ。長生きするもんじゃ。ほほほ。」



「学園長、若さの問題では無いですよ、これは。」



学園長と魔術科学科長のロゼもドゥ・リンの流れるような治療を見て呆然としている。これはちょっとやそっとで培われたものでは無い。長い間、実戦を繰り返して培われた経験によるものだ。



「魔力吸収」の魔術を改良している所は彼女の師匠もしていたので、特に大きな驚きはなかったが、滅菌空間の展開、優先順位を付ける.....というのは、医療者皆が疎かにしてしまう点である。若いスタッフ程、とりあえず目の前の人を治そうとするが、それではこの様な場所の場合、多くの人は救えない。小さな傷から菌が入り込み、致命傷となってしまうことだってある。あまり、重症そうに見えなくても、処置をしなければ一刻を争うという場合もあるのだ。



『再生』の魔術も本来発動してから欠損した部位が再生するまで時間が掛かるのがネックなのだが、彼女はそれをカバーする為に、『時間加速(クイック)』の魔術を使用し、魔術が発動してから欠損部位が再生するまでの時間を早めているようだった。


試験が開始されまだ10分にも満たないが、もう一番重症だった患者の治療を終えてしまった。



試験としては一人治せれば十分だったので、「もう試験は終了です」と声をかけようとしたが、



「エミリー先生、もう少し様子を見ようじゃないか。」



そう学園長に声をかけられ、学園長の方を見ると何やら面白そうな顔をしてドゥ・リンの治療を見ている。それはまるで子供が面白いおもちゃを与えられた表情に似ていた。



「確かに、生徒の成長を評価するのも大切だな。」



そうポツリと呟いたのは、魔術科学科長のロゼ。彼女も教え子の洗練された魔術とその可能性に興味津々のようだった。


確かにそうかもしれない。そう思った私はドゥ・リンの試験を終了するのをやめ、制限時間ギリギリまで彼女を見守ることにしたのだった。


ノーチ先生「なぁ、俺達が結婚した事、いつ生徒達に言うんだ?」


ロゼ先生「.......恥ずかしいから辞めてくれ。」


ノーチ先生「どういう意味だ!?俺はこんなにも奥さんを愛しているのに!およよ。」


ロゼ先生「お前、ワザと言ってるだろう!お前のそんな所が大嫌いだ!」


※実は恥ずかしがり屋のロゼ先生の希望で生徒達はロゼ先生の結婚相手を知りません。


ノーチ先生(闇魔術指導講師)とロゼ先生(魔術科学科長)馴れ初めを知りたい人は「チートな弟子の師匠、唯一の後悔」をお読み下さい。

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