第16話 実技試験初日③
大体10分おきくらいに、先生が待機室へやって来て毎回6人の生徒を試験会場まで連れていった。
そして、
「では13番から18番までの方、ついてきてください。」
最初の生徒が呼ばれて20分後くらいに、私達の順番がやってきた。先を歩く引率の先生についていくと、グラウンド近くの1階にある教室へ連れてこられた。30名分程度の机が並べられた教室で、教室奥の窓からはグラウンドに直接出られるようになっている。教室1番前の黒板には大きな白い長方形の壁紙のような物が貼られている。
「それぞれの試験会場の準備が出来ましたら、スクリーンに番号が表示されます。該当する出席番号の生徒はここの転移陣の上に立ち、試験会場へ転移して下さい。試験会場は各々違います。何か質問はありますか?」
どうやら、黒板に貼られた白い壁紙はスクリーンらしい。先生に言われて気付いたが、教卓の後ろに転移陣があった。間違えて踏んだらどうなるんだろう?
「ちなみにさっきも質問であったのですが、この転移陣はスクリーンに映された番号と違う番号の人が乗っても作動しませんので。まぁ、監視役の先生もいますし、待機中ウロウロする人はいないと思いますけど。」
どうやら、同じ事を考え質問した生徒がいたらしい。確かにこの部屋の後ろには監視役の先生が椅子に座って私達を監視しているので、誤って転移陣に乗ることも無さそうだ。
「では、質問も無いようですし試験を開始します。」
黒板前のスクリーンに『13番』と写し出される。13番の男子生徒が緊張した面持ちで転移陣の上に乗ったかと思ったら、フッとどこかへ消えてしまった。
その後も続々と私の前の番号の生徒が呼ばれて行き、とうとうスクリーンに『18番』と表示された。私の番だ。
転移陣の上に乗った途端、目の前の景色が歪んだ。咄嗟に目をつぶってしまったが、再び目を空けると目の前は…
…………どこかの野戦病院の様なところだった。私は重症患者が十数名ベッドに寝かされている部屋に転移させられたようだ。どうやら周囲の時間も止まっている。試験開始まで周りの時間は停止させられてるらしい。
それにしても……私、最近ここに来たばかりだぞ?
よく見ると、以前授業の一環として行われた合同訓練の時に、負傷した黒騎士団員を運んだ部屋だ。間違いない。え、私医療科の生徒と試験会場間違われてない?私、実技試験に披露する魔術、『光学迷彩』と『時間加速』にした筈なんだけど。
前者は名前の通り、対象物を透明にする魔術、後者は対象物の動きを加速することが出来る魔術だ。魔術構成が緻密で中々難しいのだが、消費魔力が少なく、危険性が少ないのでこの2つにしてみた。2日間行われる実技試験なので消費魔力が少ないに越したことはない。まぁ、明日は低級レベルの魔物が相手と聞いているから、初日の試験である程度魔力を消費しても大丈夫だとは思うのだが。
「はい!では番号18番ドゥ・リンさん、実技試験を始めます。」
いつの間にか私の後ろにいたのは、何故か始めにいた待機室で監督役となっていたハズのエミリー先生だった。傍には学園長、魔術科学科長までいる。エミリー先生は医療科の学科長だったはず。私の実技試験採点官はかなりの豪華メンバーだ。解せぬ。
私の顔を見て何かを悟ったのか、
「何でこのメンバーかと思っていると思うんだけど、仕方ないのよ?貴女の魔術、私達以外だときちんと評価出来ないのよ。」
そう困ったような顔をして、試験直前にも関わらず話しかけてきた。
「しかし、先生。私が選択したのは『光学迷彩』と『時間加速』ですよ?そこそこ難易度高いとはいえ、毎年1人2人は選択する魔術だと思いますが?」
「え?貴女が選択したのは、『再生』と『時間加速』でしょ?貴女の師匠がわざわざ期限ギリギリに訂正しに来たわよ?『可愛い弟子にお使い頼んでるんだけど、卒業試験でやる魔術名、1つ間違えちゃったみたいで訂正お願いして来て欲しいって頼まれて…』って。」
なんと、敵は身内にいた。この間、試験でやる予定の魔術聞かれた時に、『それだと首席卒業は微妙よぉ?やっぱり、2位と圧倒的な差を付けておかないと…』とか言ってて、何か不服そうだと思ったらこの始末。絶対ワザと変えやがった。私は首席卒業なんぞ狙ってない!!!何で王子であるレオンより目立たないといけないんだ!私は平民らしく、穏やかに生きたいんだ。
「えぇーー!!!!!それ、真に受けちゃったんですか!?私の選択権無いじゃないですか!」
私はエミリー先生達に抗議した。
「真に受けたから私がいるのよ?『再生』は医療科の先生方ですら、私と貴女の師匠くらいしか出来ないわ。魔術科の先生では出来る人居なくて評価も出来ないから。でも魔術科の試験は『自分の得意な魔術』でしょ?ルールで言えば、別に医療系魔術もアリなのよ。選ぶ人はほとんど居ないけど……あぁ、強いて言うなら貴女の師匠くらいかしら。」
「それで、ドゥ・リンよ。そなたは結局『再生』は使えるのかい?そなたの師匠は破天荒な子だが、弟子に出来ないことを出来ると嘘をつくような子では無いと思うんだが。」
そういうのは、学園長。学園全体の長である彼は長く伸ばした白い髭がチャームポイントで、黒いローブに黒いつば付きのとんがり帽子を被っている。身長は私と同じくらいで男性にしては小柄だが、穏やかな先生で女子生徒には『可愛いおじいちゃん先生』と言われ慕われている。ちなみに名前は何故か秘匿されている為、生徒全員知らない。
「一応、出来ます。ただ、魔力消費を結構するので、明日の試験が不安で…。」
「それについては大丈夫だ。魔力消費が馬鹿みたいに大きい魔術を使う場合、後で医務室へ行けば魔力回復薬を渡して次の日に支障ないようにしてやる。それより、時間が押してる。出来るなら早くやるぞ。」
そう言うのは魔術科学科長のロゼ先生。ぶっきらぼうな話し方で黒髪ショートカットの為、若い男性っぽく見えるが、よく見ると顔立ちはかなり整っているクール系美人である。前年度の魔術科学科長が定年退職され、弟子の中で何だかんだ一番真面目だった彼女が学科長を任されたらしい。厨二病っぽい服装をしており、痛い人かと思いきや…人は見かけによらない。ちなみについ最近結婚したと聞いている。相手は分からないが。
「わかりました。それでは『再生』と『クイック』でお願いします。見たところ、ここにいる患者さんを治せば良いと言うことでしょうか?」
私は3人の先生に向かってそう問いかけた。
「そうね。出来る限りで良いわ。時間も特別に1時間あげるから無理しなくて良いわよ?ただ、魔力回復薬は医務室にいかないと無いから、魔力は必要最低限残しておいてね。」
そう答えるエミリー先生。まぁ、これくらいなら、大丈夫だろう。
「分かりました。予め知らせていない魔術を使うのはアリですか?」
「もちろんアリだけど、採点の対象には入らない。魔力切れに注意しろよ。魔力切れなんて起こしたら大減点だからな。」
そう無愛想に答えるロゼ先生。決して機嫌が悪い訳でなく、これが彼女の通常運転だ。
「分かりました。」
「それでは、準備も出来たようだし、始めるとするかな。はい、試験開始。」
学園長の少し気の抜けた合図で周りの時間が動き出した。私は意識を集中させ、魔術構築を開始した。