第12話 魔物討伐後(ユーリ視線)
一方、ユーリは…
「待たせてごめん!!」
「…私、次待たせたらもう二度とデートしないって言ったわよね?せめて連絡寄越すとか出来ないわけ?何で1時間以上待たすのよ!!!くたばれ!」
街の中央にある噴水の前で1時間半待ちぼうけを食らっていた彼女は駆け足でやって来たユーリに鬼の形相でそう言ったかと思うと、思いっきりユーリの顔を拳で一発殴りつけ、そのままよろけて倒れるユーリの事を一度も振り返らず立ち去っていった。
「やっぱりダメか…やっぱり運命の人じゃないとダメなんかなぁ。」
何事も無かったかのように立ち上がるとユーリは一人呟いた。ユーリが伯父さんからの要請で彼女のデートをすっぽかし、振られた回数はもう57回にものぼる。毎回彼女達には殴られたり、罵倒されたり散々な振られ方をすることが多いが、ユーリはそれを甘んじて受けた。殴られても受け身を取ったり、身体強化魔術を使うことも無かった。彼女達を傷付けた自分が悪いから。
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そんな彼にも母方の祖父が教えてくれた、信じている一つの伝承がある。それは獣人には運命の人…つまり、神に定められし異性がいるというものだ。
ユーリの母方の祖父はユーリに対して色々な話をしてくれた。冒険譚、歴史、物語に至るまで。そんな祖父が語ってくれる話がユーリは大好きで、よく祖父に話をねだった。
その中の話の一つに一人の獣人族の男が運命の人と出逢い、色々な困難を経て最終的に結ばれる…という話があった。
「……これで話はお終いだが…ユーリ、お前は先祖返りで獣人族の血が濃いから『運命の人』に巡り会えるかもしれんぞ?」
「運命の人?それって作り話じゃないの?」
「この話は作り話かもしれんが、獣人族にとって『運命の人』はいるぞ?『運命の人』は同じ時代に一人しかおらん。もちろん、他の人とも恋して結婚することは出来るが、『運命の人』と出逢うとその人しか目に入らなくなるし、離したく無くなる。」
「おじいちゃん、それ、何か怖くない?ただの呪いだよ…」
「ハッハッハ。そうだな。一種の呪いのようなものだ。しかしだな、獣人はその『運命の人』とやらに出逢い結婚すると幸せになれると言われているんだよ?」
「…僕でも?」
ユーリは小さい頃から自分が母親と共に周りから疎まれ、暗殺者を差し向けられていることを知っていた。小さいながらに、自分は幸せにはなれないと諦めていたのだった。
「もちろんだとも!!だから、もしユーリが自分の『運命の人』と出逢えたら絶対大切にしなさい。出逢える事自体奇跡なんだからね。」
そういって祖父はニコリと微笑みながらユーリの髪を優しく撫でる。可愛い孫に幸せが訪れんことを祈りながら。
祖父いわく、運命の人は同じ時代に一人しかいないと言われており、そして獣人側は会った瞬間にその人が運命の人だと分かると言われているので、運命の人に会うべく、何人もの女性と遊んできたが、それらしい人に出会ったことは無い。
「そう言えば、あの赤竜と戦ってる途中で甘い匂いがしたんだよな……誰か甘いものでもこっそり食べてたか?」
ユーリは知らない。獣人族がいう「運命の人」の特徴の一つが、相手が放つ自分好みの香りであることを。そう、今はまだ知らない。
オルソ妹「毎回毎回遅刻して来やがって.......もう知らん!!何が『魔物討伐のバイトに駆り出されて....』だ!子供がそんなバイト出来るわけねーだろ!私が騙されると思うなよ!次良い人見つけてやる!!」
オルソ「おい.......妹よ?何があったかしらんが、枕を八つ裂きにするのは良くないぞ?そもそも誰と付き合ってたんだ!?お兄ちゃん、聞いてないよ!?.......黒騎士団に出入りしてる誰かなら八つ裂きに.......」
オルソ妹「お兄ちゃんは黙ってて!もうあんなやつの名前忘れたの!思い出したくもないの!」
オルソ「うぅ!.......流石に目覚まし時計を投げつけるのは辞めてくれ.......まじ痛い...。」