~過去から現在へ~
私は兵器。神が造りし兵器。私の存在理由は私が落とされた世界にて天秤が傾いた時、その秤を水平に保つためのバランサーとして世界を視る事。私は私の指名を全うするため、私を使うもの使う。
最初の持ち主は大きな猿だった。私を本能の赴くままに振り回し、ありとあらゆる持ち主にとっての敵を屠り続けた。
しかし寿命故かある日突然、呆気なく死んでしまった。
2番目の持ち主は悪魔だった。世界が神の遣いである筈の天使達によって天使の為の世界となり、天使の庇護下に入らないもの、それ以外の全てを根絶せんと動いたために、天使が最も排除したかった悪魔達の1人に使われた。
先にも述べたが、私は神造兵器。神が造りし兵器。勿論神造兵器と言えど、その性能や強さは変わってくる。私は特に神より力を与えられて造られたため、所詮神に遣えてる程度の天使達に遅れをとることはなく、世界を我が物としようとしていた天使達を神達の許へ帰す事に成功した。
しかし、それほど強力な兵器である私を悪魔やそれ以外のもの達が放っておく筈もなく、2番目の持ち主は結局自身以外の全ての自立行動可能なもの全てを滅ぼし、最後には自身の心の臓に私を突き立て死んだ。
3番目の持ち主は天使だった。その天使は、どうやら天使達の間で冷遇されていた者らしく、罠に嵌められこの世界へと堕とされたらしい。そして2番目の持ち主の時の話を思い出し、必死に私を捜して遂に私を見つけたんだと、当時の持ち主は言っていた。
彼がこの世界に堕とされたあと、天使達が再びこの世界へとやって来て、2番目の持ち主の時と同じことを繰り返そうとし始めた。
私を見つけた天使はそれを阻止するため立ち上がり、私を振るって懲りない天使達を神の許へと帰した。
この時、3番目の持ち主は私を持って神達の住まう世界へと赴き、2番目の持ち主の時とこの時の事を神達へと報告した。自らが消される事も覚悟の上で。
天使が神からの命令もなく神達の住まう世界へ入るのは存在を消される事と同義だ。それを知った上で彼は神達の許へ赴いた。
神は彼の勇気ある行動を讃え、彼の存在を1度完全に消したあと、彼の名と同じ神を生み出した。そして私は、神造兵器の1つとしか認識されていなかったが、この時の彼の行動のおかげで『神剣エクスカリバー』の名を神より賜った。
4番目の持ち主は人だった。なんの変哲もない人だった。
4番目の持ち主の時代には、神達が増え過ぎた種族や先の天使達の事を考え導入した、この世界に悪影響を及ぼすものを脅威が無くなるまで減らすための機構『排除システム』と呼ばれるものが生まれて最初の時で、この『排除システム』の終息のために選ばれたのが私だった。
私は人に使われ『排除システム』を終息させた。この時の持ち主はその後、『世界最初の勇者』と人々に讃えられ、私は『勇者の使った聖剣エクスカリバー』と呼ばれる事となり、人々の管理の下崇め奉られる事となった。
5番目の持ち主は、4番目の持ち主の時の事もありまたも人だった。そして今度は男ではなく女だった。
彼女は当時の世界の征服者として君臨していた国の姫だった。しかし、またも性懲りもなくこの世界を手に入れようと動いた馬鹿な天使達により征服者の王は娘を私と共に逃がした。
逃げた持ち主は『排除システム』と協力し、天使達をこの世界から排除した。しかしこの時、天使達の1つの意識が『排除システム』の核に乗り移ったのか『排除システム』は暴走し、『排除システム』の核は自らを『魔王』と名乗って、再び世界を征服しようと動きだした。
5番目の持ち主は再び私を振るい、『排除システム』を停止させた。
しかしその体は全てが終わった時にはボロボロで、少しでも衝撃を与えれば存在ごと消滅しそうなほど衰弱していた。
そんな彼女の前に、今回の事を知った神達の一柱が降臨し、彼女に願いを聞いた。
彼女の願いは、今後もこの世界のため私と共にこの世界の平安を護っていきたいというものだった。
これを聞いた神は、彼女の魂と私を神達の住まう世界へと持ち帰り、私を産み出した神の許へ運んで、私と彼女を融合させた。
この時より私は『神造兵器エクスカリバー』であり、あたしはその『神造兵器エクスカリバー』に憑依した英霊『ミナ』となった。
それから何度も月日は流れ、持ち主も代わり、私は何度も世界をの秤を水平に保つため使い使われた。
だけど、持ち主が変わる度にミナは痛感させられた。
人も神も、天使も悪魔もドラゴンもエルフもドワーフも妖精も精霊もアンデッドも何もかも、全てが全て、等しく醜く、等しく独善的という事を。
こう言えば悪い意味に聞こえるだろうか?他意は無い。『中には良いもの居る』という考えが存在してるけど、それを含めて自立行動の出来る意思有るものというのは、あたしを含めて全て独善的だということ。
私は度重なる『業』のようなものに、心底疲れ果てていた。
あたしが私と融合したから産まれた感情なのか、それとも私のままでも産まれた感情なのか、それはわからない。わからない故、私はあたしを使う者を利己的に決める事にした。
あたしは私を使う者の条件として、表層心理も深層心理も善人と判断出来る者のみに使われるという条件を設けた。
どうせあたしを使うものの本質は全て一緒なんだ。それならまだマシなものに使われた方が私の存在理由を全う出来そうだったから。
そしてまた、私の前に1人の男の子がやってきた。茶髪で異性にモテそうな表情をしていた。彼は今代の勇者としてこの世界にこの世界とは別の世界から喚ばれて来た異世界人らしい。
彼が私に触れる。そこから彼の心理や性格や考え、それからこの世界での潜在能力を視る。
視た結果、彼は駄目だった。彼は、表層心理や他人への見せ方は私の定めた条件と合致した。だけど、深層心理がどうしようもなくドロドロとしたヘドロのように汚かった。穢れていたと表現した方が近かった。
だからあたしは彼の潜在能力の解放だけを行い、彼を追い返した。
それから程なくして、今度は血を連想させるような紅い色のメッシュの入った黒髪の男の子がやって来た。彼が私に触れる。
そこから読み取った情報から、どうやら彼は、茶髪の男の子と何もかもが反対で同じだった。正に『表裏一体』の片割れということがわかった。
彼との出会いが、あたしの終わりだった。
彼はあたしを私が納められている台座から力業で抜くと、何処からか取り出した悪魔を連想させるようなドス黒い色の銃を取り出した。それは、私を産み出した神の別作品だった。
そして、どうやらそちらにもあたしのような意識は存在していたようだけど、そんなことは関係無いとばかりに、あろうことか彼は私達を混ぜた。
そこに、何故か彼の中に複数在った人格の内の1つの一部が捩じ込まれ、それを主人格とされた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
そうして産まれたのが俺様だ。つまり俺様は、神造兵器と神造兵器、そして神をも越える事になった男の人格の一部を埋め込まれて完成された、人類最終兵器って訳だ!
能力も埋め込まれた人格に引っ張られてエクスカリバーの能力と魔銃の能力は副産物の能力となり、血に関する能力が主能力となった。
それから更に月日は流れた。途中、俺様は聖剣だったり魔剣だったり呼ばれた。当然だ。俺様本来の在り方は世界の平安の為で、それが『才能のある弱者の育成』へと歪められても、やることは変わらなかったからな。
ただまぁ、俺様の前身の事を思えば魔剣と呼ばれるのは忍びないが、如何せん俺様の元が血に関する物だったから、剣が血を吸えば魔剣と呼ばれても何も言えないだろうよ。
……………月日は流れた。月日は流れ、何人ものヘタレを育てて、そうして相棒と出会った。
相棒は……、俺様の前身を含めてこれまでの持ち主様の誰よりも弱くて、誰よりも俺様の使い手としては不合格者だった。
何より、歪められた存在理由を考慮しても、相棒はその辺に居る並み以下だったから。
でも、その在り方、その精神は、これまでの誰と比べても見劣りしないもので、ヘタをすれば誰よりも高潔だった。
それなのに報われない。報われないとわかっている。それでも足掻く相棒を視て、俺様は…、本来あってはならない事だが、相棒のために何かしてやりたいと思った。
だから、それが例え相棒にとってどれほど厳しい試練であっても、相棒のためになるならと俺様の持てる全てを使って相棒を育てる事にした。
それで今ぐらい強くなったんだ、感謝してほしいくらいだぜ!キシャシャシャシャ!!
「調子に乗るな馬鹿」
相棒が、人間では考えられないほどの力で俺様の眼を握って来る。
物凄く痛くて、今にも砕けそうだけど、そこまでの力は籠められていない。
慣れた洒落合いだ。もう幾度とやった。俺様と出会った当時は両手で握って顔を真っ赤にしていたのに、今では細枝を梃子の原理で軽く折るかの如く涼しい表情で片手でやりやがる。
その成長が嬉しくあり、当時の相棒をもう見れない事に寂しさを覚える。
ふと、俺様の眼を握る力が弱められ、相棒と目が合う。
相棒はジッと俺様を見つめ、何も言わない。だけど、すぐに鼻で笑い、俺様を寝床の横に置いた。
「馬鹿言ってないで、そんな事を言うならもっと俺を強くしてくれ。それこそ、お前を産み出したっていう神をも越えた男と戦えるほどに」
相棒はそう言うと、目を瞑り、眠りに入った。
此処は大きな木の虚の中。相棒の前の俺様の持ち主が使っていた隠れ家。
此処から、相棒の故郷の外壁が見える。そこは相棒の前の俺様の持ち主が建国した国の王都の外壁で、相棒にとっては復讐の対象である筈の者達が住む場所で、相棒が例え自身が死んでも護りたい場所。
相棒はこれから、アイツとやり合う。アイツに使われる俺様とやり合う。これこそ相棒にとっての俺様から相棒に課す最終試練。
技量。その一点については相棒の方がアイツより上だ。だけど、それすらも嘲笑うほどの圧倒的才能の差でアイツは相棒の上を行く。
だからこそ相棒が心配になる。俺様抜きでも相棒を才能だけで圧倒出来るアイツが、俺様まで使って相棒とやり合う。客観的に見れば相棒に勝ち目は無い。その事が、どうしようもなく
「アスターク」
眠った筈の相棒から声が掛けられる。タイミング的に俺様の心でも読んだのかと疑うほど完璧なタイミングで声が掛けられた。
俺様は一瞬言葉に詰まって返事が出来なかった。だけど相棒は俺様の返事を待っていた訳ではないらしく、続く言葉を吐いた。
「お前が何も心配してるのかは知らない。お前のこれまでを考えると俺はこれまでのお前の持ち主の誰よりも弱いらしいから、その事が心配なのかもしれない。
だけどなアスターク。俺達が出会った頃にも言ったけど、関係無いんだよ。俺は俺の道を征く。俺の目的の為に俺の道を貫く。それを邪魔する奴は、例えなんであろうと死んでも倒す。
だからなアスターク。お前は何も心配なんてしなくて良い。お前は俺を、お前なんて居なくても最強なほどに最強にさせれば良い。
だからアスターク。お前は俺を強くさせる事だけ考えろ」
相棒はそれだけ言うと、今度こそ完全に眠ったのか寝息を立て始めた。
【…………キシャシャ。ホント、出会った頃から変わらないな、相棒…】
相棒の言葉に、相棒のこれからを心配していた自分がアホらしく感じた。相棒は俺様に、全幅の信頼を寄せてくれているらしい。それなのに、相棒の事を相棒と言っている俺様自身が相棒の事を信じていなかったらしい事に気付かされた。
【キシャシャ…】
俺様はもう一度笑い、そして先程までの心配を捨てた。
相棒が俺様を信頼して俺様に全てを投げ渡してくれているのだ、俺様がそれに応えずしてどうする?
【おやすみ相棒。明日からまた強いてやるからな】
俺様は相棒のこれからの強化について考える事に専念することにした。
相棒が目覚めた頃に、アイツも目覚めた気配はしっかりと感じ取っている。だが、何故だか相棒なら乗り越えられるような気がして来た。
だから俺様は、相棒を最強にすることだけを考える事にした。
もう二度と、相棒が何も失くさないようにするために。
唐突に思い付いた、元から有った設定を元に書いた作品です。
衝動的に私の中でアスタークが【俺様が相棒の相棒になったかを読者に自慢したい!キシャシャシャシャ!!】と言って私を血液操作で操り書かされてしまいました。コヤツめ。
こちらではそこまで出来てませんが、別サイトで更新していたもの基準で言いますと、この話は第1部終了と第2部開始のちょうど間。1.5部とも言うべき話です。
公開しているのはなろう様なのに、別サイトの話を持ち出すなって話ですけどね。
って訳で、アスターク外伝でした。
追伸:またアスタークが私の体を操ったら、短編を上げるかもです。