モブリーマンとポイント
動かない。俺の愛車がピクリとも動かないのだ。エンジンは動くんだけども、いくらアクセルを踏んでも一ミリも動かないのである。
(……ある意味快適なセーフティゾーンじゃないか。車の中なら虫にも刺されないし)
運転は諦めよう。車を呼び出せるスペースがなかったから城内では召喚が無理だったんだ。
気を取り直して、違うスキルを検証してみる。
まずは調味料召喚。
塩……コマンドを選ぶと塩と表示された。
これって、塩の事だよな。まさか、塩しか召喚出来ないの?
とりあえず塩を選択してみる。
一摘まみ 小匙 大匙
ここまで細かいのかよ。さらに召喚するには、魔力を使うらしい。試しに小匙を召喚してみる。空中から塩が現れ、地面に落ちる……そして十秒位経ったら、消えてしまった。
鑑定 調味料召喚
調理に必要な分の調味料を召喚出来ます。調理をしないと、定時間で消滅する。タマポイントで種類を増やせます。
商売出来ないじゃん。まさかスキル選びまで、運の悪さが影響してくるとは。
(とりあえずタマポイント確認してみるか)
タマポイントを使えば、召喚出来る調味料が増やせるらしい。
スマホのアプリを起動……バッテリーなくなったら、どうしよう。
ログインボーナス 地図アプリ 100珠
保有タマポイント100珠
獲得可能スキル等一覧
調味料増加 500珠
車内拡張 1000珠
車内装備 100から800珠
収納ケース拡張 1000珠
ファイヤーボール 500珠
アイスボール 500珠
ウインドボール 500珠
ロックボール 500珠
アイスボール 500珠
マジックキャンセル 500珠
日本転移 10万珠
日本転移が遠い。最初に取るとすれば、攻撃魔法と思われるボール系か。ちなみにマジックキャンセルは、自分の使った魔法の効果を消す魔法との事……使い道あるのか?
車内でくつろいでいると、リオンさんの声がした。どうやら俺を探しているらしい。
かなり分かりやすい場所に停めたし。異世界で車なんて目立つ筈なんだけど。
セーフティゾーンを鑑定。
鑑定結果 セーフティゾーン・車の周囲三メートルに結界を張れる。次元を遮断しており、登録した者以外は入れないし見る事も出来ない。
……無駄に高性能だ。もしかしてセーフティゾーンを高性能にし過ぎて、車召喚や収納魔法とまとめられてしまったんじゃないか?
リオンさんは良い人だ。でも、今までの流れをみる限り、セキュリアとウォール伯爵は信用出来ない。
セーフティゾーンの事は内緒にしておいた方が良いと思う。
「もしかして、パーティーの時間になりましたか?」
わざと遠回してリオンさんに近付く。
「良かった。城の外に出てしまったのかと思いましたよ」
リオンさんはそう言うと胸を撫で下ろした。外には何があるんでしょうか?
「金も武器もないのに、外には出ませんよ」
少しだけ鎌をかけてみる。日本で同じ事を言ったら変な目で見られるだろう。
「異世界の人間は平和ボケしていると聞いて心配しましたが、杞憂だった様ですね」
やっぱり外には危険があるらしい。いや帯剣した兵士がいる時点で確定なんだけど。
……なんで異世界の人間が杞憂なんて言葉を知っているんだ?
これ以上詮索して警戒される事だけは防ぎたい。だって、かなり怪しいけど、現状は城に庇護してもらうのが一番だと思う。
「パーティーと仰いましたが、最低限守った方が良いマナーはありますか?こちらの世界の事は何も分からないので、よろしかったら教えていただけませんか?」
マナー講師が作ったオリジナルマナーには興味はないけど、お偉い人と接する時に守らなくてはいけないマナーはある筈。
陽向の前で恥をかきたくないのです。
「今回は気にしなくて大丈夫ですよ」
リオンさんはそう言って微笑むが、気が気じゃない。こっそりイヴァール基礎知識にアクセス。
そうしたら、細かい決まり事が沢山出て来た〝食事中に物音を立ててはいけない〟これは言われなくても分かる。調べてみたら食べ終えた後のスプーンを置く位置まで決められているとの事。しかもパーティー主催者との関係や、料理によって変えなくてはいけないらしい。
◇
一番高いスーツを着て来て良かった。俺以外全員セキュリアが準備した服を着ているんだもん。男性は燕尾服で、女性はロングドレスという社交界仕様。
「皆様の為に心ばかりのおもてなしをご用意しました。お口に合うか分かりませんが、ごゆっくり味わって下さいね」
シックルさんの言葉に合わせ様々な料理が運ばれてくる。スープにサラダ、鶏の丸焼き、正体不明のお酒……さっき調べた時は一品ずつ出されるって書いてたんだけど。
心配だから念の為、鑑定。
鑑定結果 フリード・蒸留酒 アルコール度70% 口当たりが良く、飲みやすいがアルコール度数が高いので注意。
鑑定結果 スープ・コンソメスープ(催淫剤入り)
アウト過ぎる結果が出てしまいました。鑑定してみると、男性陣のスープには催淫剤が入っており、女性陣のスープには惚れ薬が入っていた。
どれに薬が入っているか分からなくする為に、料理を一斉に出したのか。どうする。スープだけ残したら絶対に怪しまれるよな。
とりあえず安全な物をつまんでいく。どれも絶品の味付けなのでスープが飲めないのが悔しい。
(シックルさん、随分動きがぎこちないな)
ふと、シックルさんを見ると動きがぎこちない。動作を確認しながら食べている感じだ。
「フクトミさん、顔色が良くありませんね。どうしました」
リオンさんが心配そうに聞いてくるけど、言える訳がない……問題はどうやって陽向を助けるかだ。
「すいません。こちらのスープ虫が入っていますので、取り換えて頂けませんか?女子の皆さん、お口をつけない方が良いですわよ」
大和撫子少女がやんわりと交換して欲しいと言った。あの子も鑑定を持っているんだろうか?
でも、ナイス。陽向と風野さんはまだスープに手を付けていない。
「私のスープも変えてもらえるかしら?これ、有罪よ」
続いて委員長風少女も拒否。まあ、惚れ薬なんて混入したら罪になるよね。
そしてざわつく室内。そりゃそうだ。企みがばれかけているんだし。
「すみません。私が担当しているフクトミ様がお疲れの様なので退席させて頂いてもよろしいでしょうか?」
リオンさんが大きな声で提案した。いや、俺疲れたなんて一言も言ってないんですが。
「今確認させましたら、入っていたのは豆の殻でした。食べても害はありませんが、スープは交換させて頂きますね……確かフクトミ様は野営をされているとお伺いしましたが、大丈夫でしょうか?」
シックルさんが心配そうに俺を見てくる。ここにいるよりは安全だと思います。
(コンソメに豆使わないと思ったんだけど……まだ敵対するのは早いな)
「シックル様、ご心配をお掛けして申し訳ございません。どうやら転移の影響で疲れがでた様です。野営に関してはお城の片隅をお借り出来ましたので、大丈夫ですよ」
目線を伏せシックルさんを直視しない様に気を付ける。そのまま一礼して席をたつ。
これがセキュリアの公式マナーらしい。俺はトラブルに巻き込まれ体質である。だから、出来るだけ下調べや下準備を怠らないのだ。
「兄貴、僕も一緒に行って良いかな?愛も疲れているみたいだし」
お兄ちゃんだから分かった。陽向は何かに怯えている。
「シックル様、この娘は私の妹でございます。妹は昔から寂しがり屋でして……違う世界に来たばかりですし、一人で寝る事が不安なんだと思います。私達がいる場所は執事さんにお伝えしていますので、申し訳ございませんが退席させて頂きます」
こういう時は早口で言うのがコツだ……あれ、なんで風野さんも付いて来てるの?
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