憧れのお姫様?
俺、福富幸大32歳。ひょんな事から異世界イヴァールに転移してしまったんだ。
そして戦闘スキルのない俺がズレーハ村に出没しているゴブリンを倒すはめに。果たしてどうなるのか!
アニメの次回予告調で回想してみました……いや、無事に倒せたんだけどね。
福富幸大、年の離れた妹にお説教されています。しかも正座なんだよね。
「あーにきー。僕の話聞いている?なんで、あんな危ない事したのかな!?自分の運の悪さ自覚してないの!」
陽向ちゃん激おこで、お説教が止まりません。確かに心配は掛けたと思う。
でも、それは陽向を怪我させない為である。何より俺は年長者なんだ。びしっと言ってやる。
「ボウリングみたくゴロゴロ転がっていく予定だったんだって。ちょっと意思疎通が上手くいかなくて……まあ、結果オーライって事で」
これで陽向も納得してくれる筈。立ち上がろうとした瞬間、誰かが俺の頭を抑え込んだ。
「ボウリング!?馬鹿じゃないの?中でガンガン頭ぶつけまくって、大怪我するでしょ!」
昔、見たバラエティーだと上手くいってたんだぞ……余計に怒られるか。
「いや、悪かったって。次からはちゃんと相談するから……可愛い顏が台無しだぞっ」
ブラコン物の漫画やラノベなら“お兄ちゃん、仕方ないな”となる筈……結果、陽向の怒りは倍増。30分たっぷり叱られました。
「陽向ちゃん、その位で許してあげて。幸大さんも反省しているみたいですし……幸大さん、これからどうしますか?」
風野さん、まじ天使。これからか……一番の問題はゴブリンの死体だ。このままにしておけば衛生的に悪いし、下手すりゃ疫病が発生する。
あの村長なら難癖つけてきそうだな。
「アルエットさん、村長にゴブリンを退治した事を伝えて下さい。その時に魔石は自由にして良いって伝えてもらえますか?」
ゴブリンの魔石は100バート。日本に置き換えると道端に百円玉が落ちているのと一緒だ。俺なら絶対に拾う。
なにより魔石はゴブリンを退治した証拠になる。商人にゴブリンはもういませんって伝えられるんだ。ズレーハ村の住民は躍起になって集めるだろう。
「分かったす。でも、良いんすか?ただ働きになるっすよ」
俺は手柄や金よりゴブリンを倒したって実績が欲しいのだ。頼まれた依頼をきちんとこなしたって事実が大事なのである。
「ゴブリンの死体を処分する労力の方が高いですから……アルエットさんに相談があります。俺が強くなるにはどうすれば良いんですか?」
ゴブリン相手でもこんなに苦労したんだ。強くなれるアドバイスが欲しい。
「剣術は素人以下、足運びも全くなってないっすね。何より筋力と体力がショボすぎるっす。実戦で疲れたと言っても、相手は待ってくれないっすよ」
容赦のない駄目出しの嵐です。学生時代は文化部だったし、最近運動って運動してないからな……陽向のシュート練習に付き合って、ラクロスのボールを投げた位だ。
「じ、実戦で戦える様になるには、どうすれば良いですか?」
やはり攻撃魔法を覚えるべきか。問題はどの魔法を覚えるかだ。
「コーダイさんは、機転が利くのが長所っす。それを活かすには、一にも二にも体力……これもなにかの縁っすね。自分が鍛えてあげるっす。まずは領都まで歩いて行くっすよ」
この脳筋娘はなにを言っているんだ?馬車で六時間も掛かる道を歩けと……無理だって。
「僕も賛成!兄貴を鍛えてもらわないと」
陽向ちゃん、やめて。貴女のお兄ちゃん、意外と根性なしなんだよ。
旅の話題で盛り上がる女性陣これは反対出来ない空気だ。……アルエットさんって、王宮騎士さんの婚約者なんだよな。しかもお姫様の幼馴染みだって言ってたし、絶対に良いとこのお嬢様じゃん。
リオンさんやアルエットさんのお父さんから怒られない為にも、変な誤解は避けたい。
「風野さん、ちょっと良い?今、車内に余裕ある?」
女性陣がどんな風に車を使っているか分からない。庶民育ちの陽向より、お嬢様な風野さんの方がアルエットさんと感覚が近いと思う。
「今は大丈夫ですけど、人数が増えたら手狭になるかも知れませんね。長期的に使うとなると、広さは必要だと思います」
車内だから手狭で当たり前……お嬢様に、そんな理屈は通じないか。
今のタマポイントは1005珠。車内拡張をすると、5珠しか残らない。
攻撃魔法は各100珠……どっちを選ぶ?
(そうだ!ゴブリンを殲滅したから、ポイントがもらえる)
スマホを起動してアプリにアクセス。
ミッション達成 ゴブリンを殲滅せよ 90珠
……5珠足りない!
◇
結果、車内拡張を選択しました。100珠位すぐたまるさ……多分。
「兄貴、遅いぞー」
俺は万年運動不足の中年サラリーマン。旅の同行者は体育会の少女達。時間と共に距離が開いていきます。
(傍から見たらハーレムパーティーなんだろうな)
異世界、旅の同行者は全員十代の美少女、男は俺一人。これだけ聞いたら、ラノベかよってなると思う。
でも一人は実妹(気が強い)で、もう一人はイケメンの婚約者がいる(気だけじゃなく、腕力も強い)。
風野さんはフリーらしいけど、年もスペックも違い過ぎて可能性のかの字も感じられない……検証する事自体が、キモいんだろうけど。
「す、少し休まないか?」
歩き始めて三時間、喉はカラカラだし、膝も痛いのです。
絶対に明日は筋肉痛だ。湿布ヒールとかないかな。
「だーめ。次の町まで、まだ距離があるんだよ」
陽向の話では、隣街はまだまだ先との事。街に泊まらず、今日も車中泊でいいじゃん。
「分かったよ。みんなは領都に着いたら、何かしたい事がありますか?」
俺は訓練と買い出しだ。出来れば定宿を確保しておきたい。
「僕は魔法学校に通ってみる。ちゃんと魔法を勉強して強くなるんだ」
陽向のジョブは、マジックシューター。でも今使える魔法はパワーボールの一種類だけだ。
「自分は姫様に、今回の件を報告に行くっす……良かったらコーダイさんも付いてきてもらえるっすか?」
これはありがたい。お姫様の知遇を得られたら、ウォール伯爵に対抗出来る。
何よりリアルお姫様に会ってみたい。きっと純情可憐なお姫様だと思う。
「それなら私もご一緒します。お姫様はどこにおられるんですか?」
これは更に助かる。アルエットさんと二人旅なんて精神的にも体力的にも地獄だ。
姫様はお城、つまり首都にいるんじゃないだろうか?
「姫様はご自分の領地にいるっす。私と一歳しか年が変わらないのに、領地を運営してるんすよ」
まじですか?どんだけ傑物なんだ……まあ、純情可憐はあくまで俺の勝手なイメージなんだし。
十代で領地を運営するお姫様。そして周囲にいるのは、プリンセスガードというエリート集団。ここは風野さんに丸投げしちゃ駄目でしょうか?
◇
今日の晩御飯はホットサンドに決定。市場でチーズを買えたのが大きい。パンは日本から持って来たもの使用。
「ふぉーお、凄いっす。とろけたチーズがハムを包み込んで、ホットサンド最高っす」
アルエットさん、テンション上がりまくりです。なんでもズレーハ村では、カチカチのパンしか食べられなかったそうだ。
「幸大さんのセーフティゾーンって凄いですね。安全ですし、虫が入って来ないのはありがたいです」
いや、戦力としてカウントできないので、何か役立たないと立つ瀬がありません。
「兄貴、ちょっと来て。車の中が広くなってるよ」
てっきりシートが一列増える程度だと思っていたら、車内が二回り位広くなっていた。外から見た感じは変わらないのに、変なとこだけチートだよな。




