まさかの二人旅?
この二人は何しに来るんだ?俺はタマポイントを稼ぎたいし、リオンさんのアドバイスがあったからゴブリン退治に行くのだ。
思わず、陽向達に視線が釘付けになってしまう。
「兄貴、僕やるからね。ぜったいに強くなって、あの女を見返してやるんだから!」
陽向は、拳を高く掲げ力強く宣言した。うん、かなり燃えてますね。漫画なら背景に揺らめく炎が描かれていると思う。
「この国に薙刀はないそうなので、指南を受けられないと思うんです。それより実戦を経験した方が良いかと思いまして……それに野営したくないですし」
俺達以外のパーティーで、風野さんが参加するとなれば光君のところか竜造寺さんのところだと思う。
光君のところは修行がメインだから、人里から離れた所にも行く筈。竜造寺さんは植物観察が目的だから森の奥深くまで行くだろう。
消去法で俺になったのか。
日向も風野さんも戦闘職だ。どう考えても、俺が足引っ張りである。
情けない話だけど、女子高生に守られるおじさんなのだ。
でも、俺にはやらなきゃいけない事がある。二人より先にゴブリンを殺す。
命を奪うという罪は、年長者である俺が先に背負うんだ。
「それじゃ2人とも、改めてよろしく。もう少し、詳しい話を聞きたいんだけどな」
依頼して来たのはシックルさんだけど、流石に直接聞くのはまずい。リオンさんに聞くのが一番だけど、姿が見えないのだ。
「パーティーでズレーハ村の事を聞くしかないよね……でも、ナビフェアリーの言う通りになっちゃったな」
そういや、他の人のナビフェアリーってどんな感じだったんだろ?
「陽向のナビフェアリーは、どんな感じだったんだ?」
お兄ちゃんのナビフェアリーは、似非関西弁を喋るメタボ猫でした。
「金髪の可愛い女の子だったよ〝すぐにお城とバイバイするの。不安でも大丈夫だよ。頼りになる人達と一緒なの〟って言ってた。それと魔法の使い方を教えてくれたよ」
陽向が今使える攻撃魔法はマジックボールというそうだ。基礎魔法なので詠唱は必要ないとの事……俺と違ってきちんとナビされてんじゃん。
「私は黒髪の大人しそうな女の子でした〝信頼出来る人とパーティーを組みなさい。そう神様が言ってます〟と言ってました。後は私が選んだスキルの使い方を教えてくれました」
二人の話によると、魔物を倒すと強くなれるそうだ。そしてスキルもパワーアップしていくらしい。新しいスキルも覚えられるが、法則は分かっていないそうだ。
選択肢のある俺は恵まれているんだろうか?
「風野さんは、どんなスキルを選んだんですか?」
風野さんはゲームとかやった事なさそうなので、どんなスキルを選んだのか興味がある。
「私が選んだスキルは足場確保・研ぎ師・騎乗・回復魔法・気配察知の五つです。お兄さんのナビフェアリーはどんな娘だったんですか?」
前言撤回、かなり実戦的なスキルを選んでいらっしゃる。薙刀は元々使えるから選ばなかったとの事。持って来た薙刀も家にあった本物らしい。
「エセ関西弁を喋るメタボな雄猫ですよ。スマホで連絡取れるらしいんですけども、充電池がなくなったら困りますね」
車で充電できるけど、いつまで持つか不安だ。
転移前にガソリンを満タンにしておいたし、バッテリーも新品の物に変えた。でも、この世界には車屋どころかガソリンスタンドもない。
「充電なら僕が出来るよ。スマホに関する事なら何でも出来るみたい」
まじか。それならログインボーナスをもらい忘れる心配もない。流石はマイシスター、出来る子です。
陽向の頭を撫でてやろうとしていたら、風野さんが誰かに向かって深々と頭を下げていた。
「皆様、お話中すみません。ズレーハ村の事でお伝えしたい事がありまして」
近付いて来たのはシックルさんだった。いや、有り難いけど気さく過ぎません?
「シックル様、自ら来て下さるとは光栄至極でございます。どの様に動けば良いか、三人で相談をしていたところなんです」
すぐさま社会人モードにチェンジ。仕事って仮面があれば人と話すも苦じゃない。
「あの大変申し訳ないのですが、もう少ししたらズレーハ行きの馬車が出ますので、それに乗って行って頂けますか?突然で申し訳ございません。なにぶん急ぐ話でして……」
そう言って深々と頭を下げるシックルさん……なんでズレーハ村の為に、そこまでするんだ?
思い出の地だとか……それなら騎士を派遣しているか。
「分かりました。しかし、これからパーティーもあります。先に私が一人で向かっても構いませんか?陽向、情報収集を頼むぞ」
ズレーハ村に行ったからといって、即ゴブリン退治は無茶振り過ぎる。陽向達が来る前に情報を集めておきたい。
陽向は光君と話をしたい筈、兄貴の余計なお節介なのだ。
「分かった……兄貴、絶対に無茶しちゃ駄目だよ」
大丈夫、君のお兄ちゃんは、かなりのビビりなんだよ。
「陽向ちゃん、安心して下さい。お兄さんは私が守りますから」
振り返ってみると、安心してとばかりに胸を叩く風野さんがいた。攻撃スキルを持っていないから、頼もしいけどさ……頑張れ、俺の自制心。
◇
ますますおかしい。俺達が乗って行く馬車は大量の食糧が積みこまれていた。
「うわぁ、一度麦藁の中で寝てみたかったんです」
食糧がスペースを圧迫しており、俺達が寝るのはうず高く積まれた麦藁の中である。よく漫画で追っ手から隠れる時に潜む奴だ……痒くならないか心配です。
「とりあず、潜り込んで寝ますか」
風野さんの手には煌めく薙刀が握られており、俺の自制心を強化してくれる。
「お兄さん、シックル様とお話している時、釈然としない顔をされていましたが、なにかあったのですか?」
顔に出てたのか。気を付けないと……そして風野さんの仕草を見て、俺の抱えていた疑問が氷解した。
「これは俺の予想ですし、聞かれたらまずいので今度話しますよ」
でも、俺の考えだと辻褄が合う。
「近くに人の気配がないから大丈夫ですよ。でも、安全を考えて藁の中でお話しませんか?」
藁の中で話すという事は、顔を近づけなきゃいけない訳で……今の前に風野さんの顔がある。いわゆる息がかかる距離ってやつだ。
「シックル様の仕草にぎこちなさを覚えたんですよ。付け焼き刃な作法って感じがしたんです」
そして風野さんの仕草を見て確信した。あれは最近身に着けた作法だ。風野さんみたく仕草に溶け込んだものではない。
「どういう事ですか?」
そう言って小首を傾げる風野さん。クールビューティな娘が、無邪気なリアクションをするのは反則です。頑張れ、俺の自制心。超頑張れ。
「これはあくまで俺の予想です。シックル様はウォール伯爵の本当の娘じゃない………転移者の相手をする為に、急きょ仕組まれた義理の娘なのかも知れません」
それならヨバンの素っ気ない態度も説明がつく。何より肝心のウォール伯爵が顔を見せていない。
「でも、何の為でしょうか?」
普通に考えたら、スケープゴートだ、なにかあったら転移者の怒りや恨みをシックルさんに集中させたいとか……でも、これはまだ言えない。
「まずは、なんで日本人を転移させようとしたのか突き止めないといけませんね」
その為には伯爵に対抗出来る人と縁を結ばないと駄目だ。もしくは、それなりに強くなるか。
そのまま藁の中を移動。陽向、これ以上はお兄ちゃんのリミッターが危険なのです。




