狐葬
突き抜けるような澄んだ青空に高く、筋雲がうっすらと浮かんでいる。
天上の健やかな風情に比して、地上はただただ荒れ、秋だというのに、すすきすらも生えていない。 露わとなった茶褐色の土の上には、枯れた草と、ごろりとした石が横たわるばかりであった。
その中を、汗と垢にまみれ、風雨にさらされたボロ衣を纏い、やぶれかぶれの笠をかぶった坊主が歩く。 雲如坊某は、この飢饉に際して念仏を請願され、荒野の街道を西へ西へと足を進めていた。
ひょいと笠を持ち上げて路端を見れば、|雲如《》が身に着けているものよりも、粗末で継ぎ接ぎだらけの衣を着けた屍が転がっている。
なまんだぶ。
たとえ見捨てられし骨身であろうとも、仏の慈悲は届くであろう。しかしながらこの荒野で天を睨むされこうべを見ては、雲如は念仏を唱えずにはおられなかった。
|昨晩に汲んだ水も、寺を出るときに持ちだした干飯も、もうほとんど残っていない。
今夜のうちまでにこの野を越えねば、自らもあのされこうべの様に、あわれに朽ち果てる身となろう。
雲如は遺骸から目をそむけ、ぐいと笠を下げると、道とも言えぬ街道を、ひたひたと進んでいった。
そうして街道をしばらく進むと、その中ほどに、鮮やかな紅色のものがうずくまっているものが見えた。
よく目を凝らしてみれば、どうも女が道に座り込み、こちらに頭を下げているらしかった。
それを見止めた雲如は、ささと足を進めて、女の前にしゃがみ込んだ。
もし。
雲如が声をかけると、女は伏せながら頭だけを上げた。
真っ黒な髪が、秋空に艶やかに光る。頬には桃色がさしていて、白くすらっとした顔が映える。
どうか、おぼうさま。
女は顔をあげるなり、雲如にいった。
あたくしのむすこが、いきをひきとったのでございます。
ごしょうでございます。あのこのために、おねんぶつをとなえてやってくださいまし。
えい、これは。
雲如は思った。
このような場所に、このようなおなごがいてようか。
これはあやかしに違いない。
おそらくは、われをとって喰らうのだろう、と。
そうであったか、ははごぜどのよ。
ところで、ごしそくのなきがらは、どこにおいでになられようか 。
こう言うておいて、あまりに遠ければ、道を急ぐと断ろう。
本当のところ、こちらとてゆっくりはしていられない旅路であるのだ。
女は雲如のこたえに少し戸惑って、路端にある大きな石を見やった。
そうして大きく息をついて、
こちらでございます
と、その大きな石の後ろを指さした。
雲如は断る口実も失って、いたしかたなく道をそれ、その石の後ろをのぞき込む。
そこには、小さな子狐が、まるで眠るように伏していた。
これは。
雲如は思わずつぶやいた。
はい、あたくしらはきつねでございます。
女は雲如に向き直ると、改めて頭を地面にこすりつけた。
あたくしの、はじめてのこらでございました。
さいごまでいきのったこのこも、さきぼど、ゆきおおせました。
せめてもくるしみのないみちへすすめますよう、
どうか、おねんぶつを、おねんぶつを。
雲如は我知らず膝をつくと、手をあわせた。
どうどうと念仏が流れる荒野に、ひゅうと秋風が抜けた。
北の空には季節外れの入道雲が高々と昇り始めていた。