白霧の山脈
白霧の山脈というのは人間の国より更に北、地球で言うところの北極辺りに位置する山脈である。
かつては覇龍が住処としていたため、その魔力の残滓が大気に溶け込んでいるだけでなく、地下には魔力の脈があるため魔法の修行には最適である。
しかし、覇龍がかつて住んでいた場所として、かの龍が封印されて300年程の時が経ったが、今でも噂に惹かれて様々な龍が住んでいるため、龍から逃げおおせる程の強さは必要である。そこに住む龍を全滅させることもできるが、それは現実的ではないだろう。
基本的に龍種の餌は他の生物、または龍水と呼ばれる魔力を多量に溶かした飽和水溶液である。白霧の山脈では至る所で魔力が溢れているため、龍水は自然に湧く。
このような場所は世界の各所に見られ、中でも有名なのがアーティクルト王国地下、火竜の巣と呼ばれる洞窟である。
しかし、ここには基本的に龍は住み着かず、火竜と呼ばれる下位種が住んでいる。
何故龍が住み着かないのかと言うと、人間の王国の地下に住むことで、【閲覧できません】の妨げになる可能性があり、その場合なんにせよ【閲覧できません】、または神獣によって、滅ぼされるからである。
唯一住んでいる火龍は最奥地に住んでいるため人類には知られない。よって、悠久の時を過ごし続けるのである。
ちなみに、白霧の山脈には龍を統括する龍、ジークブルムがいる。しかしその生態は謎に包まれており、未だ明らかになっていない。
かつてこの山脈を訪れた人間が1人居たが、その者は極北故の寒さに耐えきれずに去っていった。しかし、龍とも渡り合えるようなその実力によって1週間はその山で過ごし、人間の村に帰ってその事を本に書いたそうだ。
その本の名は、【白霧の山脈】。この地に名を付けたのはこの小説家であり、しかしその内容は一部の者にしか信じられなかったという。
その後、興味を持った某国の王によって軍隊が派遣されたが、誰一人帰ってこなかったらしく、世間ではその山脈の噂が誠しとやかに語られている。
最も、実際はある国の王が横槍を入れ、その者の操る邪神の眷属によって壊滅させられただけなのだが、そのことを知る者はいない。
と、ここまで辿り着いたことのないような魔境のように語ってきたものの、実際に一定数の人々はこの山脈の近くに来て、拝んでから帰ったりする。
とはいえ、彼らの独特な宗教観により、この場所について言外するのは最大のタブーとされているため、あくまでも一部の宗教が聖地として扱っている、と言った所である。
また、この地には一応人類、と言えるのかどうかは怪しいが、確かにホモ・サピエンスから進化した種族がいる。それは神の気まぐれであり、そこに奇跡が重なって産まれた者達だが、彼らは確かに龍に愛され、同じ龍水を飲んで生きている。
伝承ではそれを、龍人という。体のシルエットは人と変わらない、いや、確かに尻尾や水かき、鋭い爪はあるが、多くの部位に大した違いは見られない。
しかし決定的に違う点が、全身が赤い鱗に覆われている所である。形容するならば二足歩行のトカゲとでも言うべきそれは、確かに言葉を話し、文明を持ち、しかしながらひっそりと過ごしている。
そんな背景を持つ白霧の山脈の全てを知るものは、神話の時代に生きていた覇龍とその配下以外、後にも先にも現れないだろう。