魔物について
魔物というのは一言で語り尽くせるような存在ではない。一般的に魔法を使う生物のことを魔物と言うのだが、この世界では世界機構の補助によってあらゆる生物が魔法を使えるため、人間に害をなす生物を魔物と呼ぶ。
そして、その魔物というのも単純には分けられず、ほとんどの魔物には変異種、亜種、希少種といったものが見られる。
まず、変異種と言えば思い浮かぶのはキメラだろう。学名で混沌種と表されるそれは、あらゆる有機物、無機物を取り込み、その性質を我がものとする。
その非常に厄介な特性から、見つけ次第即討伐、というのが冒険者の間での通例となっている。
その中でも特に厄介なのが偏食種と呼ばれるキメラの亜種で、食べるものに偏りが見られるものである。
かつて人間の大国を滅亡寸前まで追い込んだキメラは龍を好んで食す龍種であり、またこの事件が龍種の数を大きく減少させたと言われている。なお、その後覇龍に挑んで三秒でこの世を去ったという。
また、通常一世帯にしか発現せず、遺伝することのないキメラ種の特徴を、少しだけ種として定着させたのがスライム種である。これは、粘体という特徴とキメラ種の特性のシンパシーが非常に高かったため起こったとされている。
スライム種とキメラ種の大きな違いとして、後者は加法によってステータスをも取り込むのに対し、後者は一時的に姿を真似たり、スキルを一部取り込むのみに留まっている。
しかし、変異種と呼ばれるのはキメラだけではない。例えば、シャドウ種やホーリー種がいる。
シャドウ種というのは、【影】に呑まれた魔物であり、夜にごく稀に出現する。通常物理攻撃は効かず、魔法も微々たるダメージしか与えることが出来ない。最も効果的な攻撃手段は、教会の持つ浄化魔法で消してしまうことである。
また、影の中を移動したり、あたりの影から分身を出すことが出来るが、分身の方は蝋燭の光などであっさり倒すことが出来る。
ホーリー種というのは、精霊に認められた魔物のことであり、半物質、半霊体といった曖昧な体を持つ。しかし、物理攻撃はほぼ効かず、精霊の弱点であるその場の魔力を掻き乱す攻撃にもある程度の耐性を持つ点は強力であるといえる。
とはいえ、人間に害をなすことはほとんどなく、むしろ自然の中から人類を見守るような姿勢すら見せ、一部の地域では守り神として崇められることもある。その生態は未だ謎に包まれている部分が多い。
亜種というのはその種の特徴が変化ないし強化されたものであり、例えば最も身近にいる魔物であるキューティーラビッツにも、亜種であるキラーバニーがいる。
前者は非常に人懐っこく可愛らしい魔物であるのだが、後者は赤黒く光る毛皮を持ち、殺した獲物の血を啜るという。
目の前で仲間を殺されたキューティーラビッツがキラーバニーに進化したという目撃例があげられることから、何らかの条件により進化する可能性もあるとされている。
希少種というのは名前の通り、集団の中にごく稀に現れる強力な個体である。希少種が存在するのは魔物だけでなく、人間にも現れることがある。
この原因として人間も広義の意味では魔物であるということが挙げられるが、実際はよく分かっていない。
人間の希少種というのは大きな特徴として生まれた時から【勇者】なるスキルを持っており、魔法とは違う未知の力を扱う。
その多くは明るい性格であるのだが、数百年前に現れた勇者はかなり卑怯な性格だったとされた。
しかし、数々の罠やその力を活かして多くの魔物を殲滅し、卑怯ながらにも人々の役には立っていたという。