6話 決闘
「お前が本当にリーダーに相応しいか、この俺が見極めてやろう」
ギルドにある決闘場。私はそこで、金髪碧眼の青年と対峙していた。
心配そうに見てくるマーガレットとマリア。それから冒険者達が私達の周りを囲んでいる。これで逃走は不可能。
正直、絶対勝てるかと問われると微妙なところ。ナビ子さんの計算によると、ミスを1つでも犯したらしたら負けるとのこと。
私は『攻撃予測』をフル起動させ、相手の出方を窺う。
「名乗るのをを忘れていたな、俺の名はユーリだ。行くぞ!」
青年―ユーリはそう叫び、私に突撃してきた――
△▼△▼△▼
事の発端は30分程前。私は、マーガレットとマリアと共にギルドで朝食を取りながら、今後のことについて話し合っていた。結果としてはパーティはそのまま存続。することとなった。
マーガレットが、トイレに向かった直後に、私達が座ってた椅子に近づいてくる者がいた。
目を向けるとそこには金髪碧眼の美青年が立っていた。
白い肌に、大きい目。ギルドに来たとき絡んできた金髪の男ではない。あのチンピラよりもイケメンだし、金色の髪が鮮やかだった。腰にはロングソードを提げ、青色の重厚な鎧を着ていた。
「お前がキノか」
と、名前を問われた。
なんで私の名前知ってるんだろう。まだそんなに知名度高くない、ていうか昨日冒険者になったばかりなんですが。
「そうですけど……」
これはまた何か厄介事に巻き込まれるやつだろうか。正直めんどくさいのでやめてほしいのだが。
「そうか、お前のことは聞いている。なんでも、俺の妹が世話になっているそうじゃないか」
妹? 私はマリアの方を見るもマリアは無言で首を振っている。じゃあ、後妹と言えば……。
「に、兄様、何故こんな所に⁉」
青年の後ろから驚いた様な声が上げられた。見てみると、先ほどトイレに行っていたマーガレットが驚愕で目を見開き、口をパクパクさせていた。
やはり、この男はマーガレットの兄のようだ。
「ん? マーガレットじゃないか。まったく、冒険者をやっているときはその呼び方はよせと言っただろう」
「そ、そんなことより、どうして兄様がこんな所にいるのですか。いつもは王都にいるのに……」
王都? 王都ってことは強い冒険者しかいけないとかあんのかな。超凄腕とかなのだろうか。
私はマリアに顔を寄せ、耳元で小さく囁いた。
「マリアはあの2人が兄妹なの知ってたの?」
「兄がいるというのは聞いていましたが、初めて会いましたね」
ふむ、マーガレットとマリアは仲よさそうだし、この男のことも知っていると思っていたのだが。
「俺がここに来た理由はただ1つ。そこの女を見極めるためだ」
青年はそう言って私を指さしてきた。
え、私なんかしたっけ。見極めるってどういう……。
「に、兄様、見極めるってなにを……」
マーガレットは嫌な予感がするのか、不安げな様子で兄に問う。
「決まっているだろう。そこの女がマーガレットを守れるかどうか。今日はそれを確かめに来たんだ」
えぇ……。
「に、兄様まさかそんな理由でわざわざここに来たのですか⁉」
一瞬呆気にとられていたマーガレットは慌てた様に兄に攻め寄る。
「当たり前だ。じゃなきゃわざわざこんな薄汚い所には来ない」
話を聞いていたギルド職員がむっとしたような表情になった。まあ、自分が働いている所を薄汚い呼ばわりされたらこうなるだろう。
「マーガレットから聞いたぞ。なんでもお前達のパーティのリーダーだそうじゃないか。だがお前は昨日冒険者になったと聞く。そんな奴に妹を預けられん」
一見悪そうに見えるが、実際は妹想いの優しい人だった。だからこんなに悪し様に言われても、私は対して腹が立たなかった。
「冒険者キノ。お前に決闘を申し込む」
まさかの決闘。そこ話し合いで良くないと思ったがそこは冒険者なのだろう。
「な、なにを言ってるのですが⁉ そんなことしなくてもキノさんはちゃんとリーダーに相応しい人人ですよ!」
「器の大きさが問題じゃない。重要なのはお前を守れる程力があるかだ」
聞けば聞くほど良い人だった。こういう人は嫌いじゃない。
「話は終わりだマーガレット。お前は下がっていろ。さあキノ、俺と決闘しろ。俺が認めたらそのままパーティを続けてもいい、ただしお前が負けたらマーガレットには関わらないで貰おう」
関わらないまで行きますか。
まあ、でも……。
私は息を吸い込み、
「受けます」
力強く答えた。
△▼△▼△▼
「行くぞ!」
ユーリは凄まじい速度で突進しながら突きを放つ。
私は『攻撃予測』と『加速』で突きを最小限の動きで躱す。
ちょっ、疾っ!
私が密かに驚いている間に、ユーリは間髪入れずに横薙ぎに剣を振るおうとする。
『加速』で引き上げられた身体能力で、上に跳躍して躱す。
今度はこちらの番だとばかりに私は真下にいるユーリに手を翳し、
「『火炎魔球』ッ‼」
私の手から巨大な火球が放たれる。魔法を撃ってくるとは思わなかったのか、ユーリ目を見開いた。
だがそこは流石というべきか、ユーリはすぐさまその場から素早く退避する。
私が放った魔法は床に当たった瞬間、轟音をまき散らし、辺りにに火の粉が舞う。
マーガレットに比べると威力は無いが、元の世界では手榴弾並の威力がある。
ちなみにナビ子さんによると私は魔力はそこそこ高いらしい。
ユーリは腰だめに剣を構える。俗に言う居合い切りで落ちてくる私を斬るつもりらしい。
まっずい!
私は内心で毒づきながら、レイピアを『怪力』全開で突き出す。
ユーリが放った剣と私のレイピアが切っ先で当たる。
剣とレイピアは金属質な音を周りにまき散らしながら、火花を散らす。
私は着地すると同時に構え、手を翳し、
「『雷光魔撃』ッ‼」
青白い稲妻を放つ。これは雷撃系の魔法だ。ファイヤーボール程威力は無いが、速さはこちらの方がずっと速い。
「……っ!」
ユーリはこれは流石に回避出来なかったのか、左手に付いていた丸盾で防いだ。
私はその隙を逃さずレイピアを構え突進する。魔法の応用でレイピアに雷を纏わせる。
これは今日の朝ナビ子さんに我が儘を言って創って貰った私専用の必殺技。名前はナビ子さんがどうしてもというから、ナビ子さんに付けてもらった。その名も……!
「“雷獣刺突撃”ッ‼」
『加速』に『怪力』を最大まで使い凄まじい速度と威力の突きが放たれる。
ユーリは丸盾を構えたままだったが当たる直前ユーリの口元が歪む。
私はその瞬間悟る。誘われたのだと。勝負を急ぎすぎたのだ。
ユーリは雷獣刺突撃を紙一重で躱し、無防備となった私の背に剣を振り下ろし――
ガギィィィィィンッ
それは金属質の物が折れる音。それが静まりかえっていたギルドに響く。
私は無意識的に上を見る。そこには半ばから折れた剣が弧をかきながら宙を舞っていた。
「……は?」
ユーリの間の抜けた様な声。折れた刃が落ち、カシャンという音を立て、動かなくなる。
《今です》
ナビ子さんの声が頭に響く。私は、はっとなり、未だ呆然としているユーリの腹部を狙い。
「あああああああっ‼」
力一杯突きを繰り出した。
直に喰らったユーリは『怪力』で吹き飛ばされた。
「がはっ!」
近くにあった柱にぶつかり声を上げる。
ユーリはよろよろと立ち上がり、
「さっきの雷獣刺突撃とやらだったら俺は死んでいただろう……俺の負けだ」
一瞬の沈黙、そして大歓声がギルドに響いた。
△▼△▼△▼
あの後ギルド内では宴会となり深夜まで続いた当然当事者である私は不本意にも中心にいた。
そして、ガゼル宅に戻り、死ぬように眠っり、翌日ギルドに行ってみると――
「キノさん! おはようございます!」
ユーリがいた。
「……あの、なんでいるの?」
そう呟くと近くに寄ってきたマーガレットが耳元で囁いた。
「じ、実は兄様が昨日『私もキノさんのパーティに入る』と言い出して……」
私なんも言われてない。ていうか……。
「『私』?」
「あ、はい。あれが兄様の素です」
そ、そうだったんだ。
「キノさん、今日の討伐クエストはゴブリン15匹討伐と、ナイトスパイダーの1匹のクエストがありますが、どちらにしますか?」
ユーリがまるで秘書みたいだ。
私とマーガレット、マリアは同時に苦笑した。
新しい仲間が出来ました。