2話 挑戦
遅れまししししたぁぁ‼
木村乃愛です。現在絶賛絶望中です。
異世界に来たのに文字が読めない。ここで私は確信した。
オワタ、と。
理由は単純明快。
文字が読めないため、意思疎通ができない。
もちろん言語もわからないため教えてもらうこともできない。
つまり私がこの世界でできることと言ったら。ホームレスになって、道を通る人にご飯を分けてもらう事しかできない。
……泣きたい。
私はトボトボと街を歩くことにした。
△▼△▼△▼
しばらく歩いてみるとなにやら人だかりを発見した。
ああいうところはあまり好きでは無いが、今は何故かふらふらと近づいてしまった。
私の目に入ったのは、大岩に一本の剣が刺さっており、それを引っ張ろうとする、筋骨隆々な大男。
これはあれか、剣を抜いたら大金を手に入れられる異世界定番のイベントか。
周りから様々な声が聞こえる。
「○△×!」
「○△×!!」
うん全くわからない。
やがて男は諦めたのか、言語がわからない私にも理解できるような罵声を叫んだ。
ああ。本当になんて言ってるのかわからない。私にもこの世界の言葉理解できるようになればどれだけ人生が簡単になるだろうか。
そう私が思案していると、帽子をかぶった男が声を張り上げた。
「○△×○△×!」
《確認。言語を習得しました。》
なんて言ってるのだろう気になる……今日本語聞こえた気がしたのは気のせいだろうか。
「○△……さあ、他にいないか?今の金額は60万ユグドラシルだ。大金だぞ!!」
60万ユグドラシルかぁ。日本円にするといくらぐらいだろう。
……え。日本語?え⁉ なんで急に⁉
突如として聞こえた日本語に戸惑いながら、周囲に耳を傾ける。
「お前やれよ」
「無理に決まってんだろ。さっきの男、冒険者だったんだぞ。一般人の俺に抜けるはずねぇだろ」
やっぱり日本語だ。どういう事だろう。あれか、異世界転移特典として言語を理解するようにしてくれたのかも。
ありがとう神様。私頑張って生きてみます。
さて言語もわかったことだし、これに挑戦してみようこの世界のお金持ってないし。
「さあ誰か…」
「あ、あの…」
私はおずおずと手をあげ、
「やりたいんですけど……」
私は堂々と宣言した。
……堂々とは言い過ぎたかもしれない。
「……」
周りは静寂に包まれ、そして大爆笑が起こった。
「じ、嬢ちゃん本気かい?」
笑いながら確認してきた。
「は、はい」
私は怯えながら答えた。周りはさらに声を上げて笑った。
「く、くく。い、いや構わないよ。じゃあお嬢ちゃんは特別に無料でやらせてあげるよ」
帽子の男は笑いながら承諾してくれた。
周りから、ずるいぞぉとか、頑張れよ嬢ちゃん、などの声が聞こえた。私はそれを無視し剣の柄を握る。
少し上に引っ張りどれくらい硬いか確認する。案の定抜けなかった。
よくよく岩と剣の間を観察してみたら、剣の切っ先がフック状になっている。
これあれだ。剣の切っ先が岩にひっかかてるだけだ。
私は剣をしばらくカチャカチャやりながら、
「お嬢ちゃんどうする? 諦めるかい?」
そんな声を聞きながら、一息に剣を引っ張った。
剣は甲高い音を周りにまき散らしながら岩から抜けた。
やはり剣が岩に引っかかっていたようだ。剣先が案の定フック状になっている。
これでは強引に引いても抜けないわけだ。
周りに再び静寂が起こる。私は呆然としている帽子の男に剣を差し出し、
「抜けました」
そう告げると、
『ええええええええぇぇ‼』
今日一番の大声が街に響いた。