1話 挫折しかけた
そう、私は魔王かなにかを倒すために、強くなると10分ほど前に決意したのだ。
その決意はものの1分で音をたてて崩壊した。
理由?森から抜け出せないからさ!
体力が無く、おまけに方向オンチの私が森から脱出出来るわけが無かった。
そもそも強くなるとかどうやってさ?チート能力無しの平凡な女の子に何が出来るというのか…。
体育の授業で柔道やったから、赤子よりはマシ程度の実力。
…いやほんとに私この世界で何が出来るのだろうか。
そもそもここは本当に異世界なのだろうか?青いミミズがいたけど新種かなにかという線もある。
町から急に森に来てしまったが、なにかのドッキリかもしれない。
もういいですよぉ。私ドッキリってわかっちゃいましたから。
…なんて現実逃避してみたが、もちろんドッキリ名物の看板を持った人は現れず、遠くから小鳥のさえずりが聞こえる始末。
とりあえず一刻も早くこの森から出よう。その前にのどが渇いたな、水飲みたい。
私はふらふらと、再び歩き出した。
……。
………。
…………。
まずい。
本格的にのどが乾いてきた。
このままじゃ脱水症状を起こして死んでしまう。
なんでもいいから水を、そう考えた私の耳にかろうじて聞こえた川の流れる音。
私はそれを、幻聴ではないことを祈りながら、音の聞こえる場所へと走った。
木々を抜けると、そこには綺麗な澄んだ川があった。
私は生水だと言うことも気にせず、川に手を突っ込み、口の中に水を含んだ。
甘露。この一言に尽きる。
もう二度と水道水なんか飲まないと心に堅く決意した。
戻れるかわかんないけど…。
私は冷たい川水で顔を洗っていると、流れに任せてなにか運ばれている事に気がついた。
気になってそれに向けて手を伸ばすと、それはパンだった。
それも固い黒パン。水に濡れてグショグショになっってはいるが、それは確かにパンだった。
しかも人間の歯形が残っている。
これは木こりか、冒険者が落としたご飯に違いない。
私はようやく希望を抱き、パンが流れてきた方向に歩き出した。
歩きながら考える、自分は異世界に来たのに、あまりオドオドしていないことについて。
ここで私と同じ15歳くらいの男の子-あるいは女の子-だったら、親や友達を思い、不安が募ることだろう。
だが、私は戸惑いはしたが、絶望はしていなかった。
理由は友達も、親もいないから。
友達は作らなかったが、親は、どっちの顔も知らない。
私は児童保護施設に住んでいた。
私が赤子の時に入り口辺りに捨てられていたらしい。
手紙も無く、名前もわからずだったそうだ。
後に私に名前をつけてくれた。
それから15年間、私を育ててくれた。
感謝はしているが、私は中学を卒業したすぐ後に、アパートで一人暮らしを始めていた。
お金は、私が新聞配達のアルバイトをしてコツコツと貯めたものだ。
心配されたが、私は長年お世話してもらって申し訳ないからと言い、何度も説得してようやく受け入れてもらえた。
せっかく働いたのに、無駄だったなと思っていたが、私はこの世界に来た時ワクワクしたものだ。
チート能力はもらえなかったけどね……。
おっ、そんなことを考えてたら見えたきた。
いかにも始まりの街風な国が私の視界に広がっている。
よーし。異世界ライフ存分に堪能しましょうか!
私はそう心の中で呟き、最初の一歩を踏み出した……。
……ん?
なにか今違和感が。
なんだ、今私重要なことを忘れてる気がする。
一体なんだろうと思い辺りを見回す。
すると私の視界に、木で出来た看板が入った。
えっ、なにこれ。なんて読むんだ?
その看板には、ぐしゃぐしゃと、まるで子どもの落書きのような文字が書きなぐってあった。
え、こんなのが文字なの?
解読不可能なんですけど。
そして私は遅まきながら気がついた。
ここが異世界だということに。
当然都合よく日本語な訳がない。
ていうことは、言語も異世界言語な訳で……。
あっ、詰んだ。
遅くなってすいません。