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特攻野郎14歳  作者: ZGMF-
3/4

その3

特攻野郎14歳 その3


学校からの帰り道、いつもと変わらないはずのソレは二人の少年と少女にとって特別な―方向性の違いはあれど―帰り道になっていた。


CASE1 ヤス子の場合


春の訪れは、二重の意味で春の訪れだった。

中学生活三年目にして、これまで男の子と何の縁も無かった私の隣には、一つ年下の男の子が並んで歩いている。

きっかけは彼、須川 文太郎からの熱いアプローチだった。


「頼む! 先輩の隣を歩かせてほしい!!」

「え!? え!! それって今から一緒に、帰るってこと……?」

「そうだ! このままはもう限界なんだ!! 頼む!! どこまでも一緒にいさせてほしい!!」

「え!!……っと、その、アタシもこういうのは、初めてってゆーか……その……」

「イエスかノーで答えてくれ!!!」

「きゃっ!……い、いえすです……」

「そうかありがとう! 後は全て任せてくれ!!」


彼、須川 文太郎は一年下の中学二年生。いつもの迫力ある雰囲気と顔を寄せたりすると照れてしまう可愛い所のギャップが魅力だったりする。引き締まったワイルドな四肢が不相応な制服のワイシャツやズボンからチラリと見えるのにもドキリとさせられてしまう。

私との出会いはストーカー退治の依頼で、昨日も二人で食事に行ったりしたのだが、やはり熱くアプローチされた帰り道とふらっと立ち寄る買い食いではワケが違う。

昨日まで感じていた怪しい視線も今は気にならない、というかどうでもよかった。むしろ自分の視線が文太郎に変に思われないだろうか、なんて考えているのだから女心と秋の空とはよく言ったものだと自分でも思う。


学校を出てから沈黙が続いて数分。夕陽に照らされる公園を二人で恋人の様に並んで歩きながら、気になる彼の視線をこっそり覗いてみる。

「て…どこだ…ヤ…あ…い…してる……いい…き…あい………」

ボソボソと何かを呟やきながら落ち着きなくキョロキョロしている。まさかこれは


(手を握るにはどこだ……ヤス子先輩、愛してる……いい雰囲気だから気合いを入れて……!!)


ということだとろうか!? つまり手を握る場所を探すためにキョロキョロしてあんなことやそんなこと……!? ちゃんと聞き取ろうにも加速し続ける心臓の鼓動が邪魔をする。


そうこうしている内に、自分が文太郎の顔を見つめ続けていることに気付いてしまった。


(意外と、かっこいいな……)

瞬間、張り裂けそうな心臓は爆発的寸前まで加速し、周囲の夕陽をいっぱいに集めたかのように頭に熱血が流れ込むのを感じる。顔を見られないように俯いてしまう自分が情けない。

(こ、こ、これってカップルに見えたりするのかな……!? さっきからブンタローくんキョロキョロしてばっかでこっち見てくれないし、やっぱり緊張して……こ、ここは歳上のアタシがお姉さんとして、リードしなくちゃ……!! え~~~いっ!!)

目標は彼の左手! 渾身の力で命令を拒もうとする右手を伸ばす! 近付いている指先、あと数ミリ……! 行っけーーーっ!!!


CASE2 文太郎の場合


春の訪れは、新たな地獄への入り口だった。

ガキの頃から血と硝煙にまみれ続けて十四年、これまでも様々な生き地獄を渡り歩いてきたが今回は桁外れ(ストーカー退治)だった。

そこで俺は、先輩に直接護衛の許可を貰おうとした。

いくらプロの俺でも、「ストーカー退治頼んでもさ、自意識過剰だったら恥ずかしいでしょ? そうだった時に友達にも頼んだのバレてたらやだなー、って……」なんて理由で直接の護衛を断られては困る。事が起きてからでは遅いと、戦友や同業者の屍が文字通り命懸けで伝えてくれた事を無駄にするわけにはいかない。減らせるリスクを極限まで減らす臆病者が最後に生き残るのだから。


「頼む! (直接護衛するために)先輩の隣を歩かせてほしい!!」

「え!? え!! それって今から一緒に、帰るってこと……?」

「そうだ! このまま(リスクの多い依頼を続けるの)はもう限界なんだ!! 頼む!! (護衛しつつ敵を殲滅するために)どこまでも一緒にいさせてほしい!!」

「え!!……っと、その、アタシもこういうのは、初めてってゆーか……その……」

「イエスかノーで答えてくれ!!!」

「きゃっ!……い、いえすです……」

「そうかありがとう! (依頼が終わるまで)後は全て任せてくれ!!」


依頼人、ヤス子先輩は中学三年生。以上。

ミッション開始から二日目、昨日もブリーフィングと接待の食事を行ったのだが、やはり襲撃しにくく逃走もしにくい屋内より射線が通りやすく人気も少ない帰り道ではワケが違う。

昨日から感じていた怪しい視線が、今日は外に出てはっきりと感じられる。統率された集団のような剥き出しの敵意というよりは、個人の執着や怨念のネットリとした感じが鼻を突く。こういうタイプの敵は厄介だが、単独なら守りながらでも戦える。戦いはギャンブルだ。だが確率を極限まで99%に近付けることはできる。


学校を出てから敵の沈黙が続いて数分。ヤス子先輩のまっすぐ横に位置を取って、気になる敵の射線を注意深く探ってみる。

「敵は何処だ……無難なのは茂みだが、ヤツの視線は明らかに常軌を逸している……いいぜ……痺れを切らした方が負ける、殺し合いの空気だ……!!」

考えている内に少し声が漏れてしまった。ヤス子先輩にはなるべく自然体でいてほしいので特に何も喋りかけていないが、聞かれてしまっただろうか?


俺を睨み付けながら、考え事をしていた。


命が狙われているかもしれない状況だからか、それにしても俺への視線に殺意に似たようなものを感じる。まさかこれは


(この依頼はキサマ程度の男が五体満足でこなせるなど夢のまた夢……ま、精々命を賭して私の身だけでも守ってみせるんだな……!!)


ということだろうか!? この依頼人、昨日のあたかも最後の晩餐のような美味すぎる料理と言い、俺の命を捨て駒程度に思っているフシがある。 いいだろう……だが俺は決して死なないし、依頼も完遂してみせる。あの夕陽のように沈もうと、またあの空に輝くために……それがどんな灼熱の地獄でもだ……!!


そうして更に集中力を高めると、敵が真後ろ高層ビルからこちらを補足していることに気付いた。


(しまった、スナイピングか……!!)

瞬間、張り裂けそうな集中力は爆発的寸前まで緊張し、奴の敵意をいっぱいに集めたかのように頭にアドレナリンが流れ込むのを感じる。ヤス子先輩も気付いたのか自然に俯いて頭部を隠している。自分も発見を悟られないようにしつつ身を呈して射線を塞ぐ。

(どうだ、これでスナイピングは……な!? アレはハンググライダーか!? ……「スカイ・ライダーズ」程までとは言わねえが、狙撃が無理と悟って突撃とはよ……!! 気概は認めるが詰めが甘いぜ、トーシローがっ!!)

目標は敵の左翼! カバンから素早く取り出したP90サブマシンガンを構える! 風に乗って突撃してくる敵、射程まであと数ミリ……! 行っけーーーっ!!!


こうして、ヤス子が虚空を握りしめると同時に、P90の5.7x28mmスポーツ弾がストーカーのハンググライダーを容赦なく蜂の巣にしたのだった。


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