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第九十三話 こんちわ!

 吹宮謙二の家へ訪ねてきた者がいる。者とは言っても、それは吹宮に分かるだけで他人には見えない、いわば気配であり、人ではなった。今日も朝から吹宮の家へ訪ねてきた者、いや、気配があった。

『こんちわ! 吹宮さん、おられますか?』

 吹宮は、そろそろ来るかな…と思っていたから、落ちついて答えた。

「はい、どうぞ! 玄関は開いてますから…」

 その声と同時に、不思議にもわずかに入口の戸が開き、また閉ざされた。吹宮は台所で鍋の準備をしていた。というのも、気温が低く、どうも温かい夕飯がいいな…と思えたからだった。

『あっ! 吹宮さん、こんちわ! ここにおられましたか…』

「ああ、冬ちゃんか。そろそろ、来るかな? って思ってたとこだよ。まあ、炬燵こたつにでも入って待ってておくれよ」

『どうも…』

 そう言うと、冬の始めはスゥ~っと台所から姿を消した。

 吹宮の家は古風な日本建築で、食事はいつも、畳敷の茶の間で食べていた。四畳半だから、そう広くはない。その間へ吹宮は具入りの鍋を運び、すでにセッティングしておいた簡易ガスコンロのスイッチをひねった。冬の始めは、すでに吹宮の左 どなりへ座っていて、炬燵へ脚を入れていた。と言っても、それは他人には見えない存在の、ただの空気である。その空気は少し冷えていた。

「おおっ! さすがは冬ちゃんだ、寒いねぇ~~」

 吹宮は思わず身を縮め、部屋のエアコンをつけた。

『いやぁ~、どうも、すみませんねぇ』

「いやいや、君があやまるこっちゃないけどさ。ところで、みんなは元気にしてるかい?」

『ああ、そのことなんですがね。春ちゃんと秋ちゃんは、まあまあなんですが、夏ちゃんがかなり腕白になってましてね。今年はかなり暑くなりそうですから、注意して下さい』

「そう言う君は、どうなの?」

『へへへ…。どうも、すみません』

「謝ってちゃ分からないじゃないか」

『はあ…。まあ、始めは自重するつもりなんですが、あとから来る者が暴れるかも分からないんで…』

「ああ、君は冬の始めだったもんなぁ~」

『ええ。前、中、後半と受け持つパーツが三部構成なんです』

「そうか…、まあ各々(おのおの)、挨拶に来るだろうから、そのとき穏便に頼む、と説得するよ」

『そうして下さい。あっ! 鍋が煮えてますよ』

「君には悪いが、それじゃ、失敬! どれどれ」

 吹宮は鍋の具をつつきながら、熱燗あつかんで一杯、やり始めた。

『お邪魔ですね…。それじゃ、これで』

「ああ、元気でね。…元気というのも、少し妙か?」

『ははは…』

 冬の始めは小笑いすると、冷気を流しながら吹宮の前から消え去った。


                 完

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