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第九十二話 誰もいない

 寝過ごして起きれば、昼前になっていた。いつもソワソワと動いている妻の美樹の姿が消えていた。家中を見回ったがいない。買物袋はある。ご近所か…と、静一は外へ出た。だが、隣の家にも、やはり人の気配はなかった。五月蠅うるさい…と、いつも愚痴る近所の番犬がえる声もしなかった。うろたえた静一は110番へ電話をかけた。

「あ、あのう…誰もいません!」

 静一が受話器に話しかけた途端、女性の電話音が聞こえた。

『この電話番号は現在、使われておりません…』

 そんな馬鹿な! と静一は怒れた。昨日の夜、眠るまで家族は皆、いた。いや、いた、はずだった。そうでなければ、一家団らんで和気藹藹わきあいあいとスキ焼鍋を囲んでいたあの記憶は、すべて夢だったことになる。静一は、電話台の前のフロアへ腰を抜かしたように座り込み、茫然ぼうぜんした。ここはひとまず、落ちつこう…と、静一は息を吸い込むと大きな深呼吸を、ひとつした。それから、急須にポットの湯を注ぎ、熱目の茶を湯呑みにれて飲んだ。そうだ! 携帯だ…と気づき、静一は電話帳に登録した番号へ片っぱしから電話をした。しかし、返ってくる電話音は、やはりれない女性の声だった。

『この電話番号は現在、使われておりません…』

 小一時間が経過した。静一の顔は蒼ざめていた。これは、夢に違いない…と、静一は缶ビールを一本、飲み干し、ベッドへもぐり込んだ。すぐには寝つけなかったが、それでもいつしか深い眠りへと落ちていった。

 ふと、気づいたとき、部屋の窓は薄暗く、すでに夕方近くになっていた。静一はベッドを降り、無気力にフラフラと部屋を出た。そのとき、キッチンで包丁の音がした。静一は喜び勇んでキッチンへと走った。そこには美樹の後ろ姿があった。

「あらっ! いらしたの? てっきり外出かと思ったわ…」

 美樹が答えた。だが、振り返ったその姿は年老いていた。静一は嘘だろ! と愕然がくぜんとした。だが、鏡に映る自分の姿を見たとき、静一は現実を信じない訳にはいかなかった。鏡の中には年老いた自分がいた。


                  完

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