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第九十一話 これが、いい…

 今年で小学校の三年生になった天川星也は欲しくなったモノを、せがんで手に入れることで喜びを感じる、なんとも風変わりな子供だった。それも、新しいものではなく、こんなもの、どうする? と大人が不思議がるレトロで古風なモノを欲しがる妙なところがあった。

 ある日曜の昼下がりである。父親の明夫に連れられ、星也はとある時代村に来ていた。明夫は乗り気ではなかったが、星也は来たかった時代村だったから心はウキウキしていた。

 入場記念の土産物売り場である。

「これが、いい…」

「ははは…それは無理だよ、星也」

 星也が指さす骨董こっとう仕立ての小判に、明夫は周囲の目を気にしながら笑顔で小さく制止した。

「僕ね、これは売りものじゃないんだ。売り物はこっちのコレ!」

 少し離れたところに立っていた店員が近づいて、土産物の小判を指さした。

「どうも、すみません…」

「いえ、ははは…」

 明夫があやまったので、店員は愛想笑いをした。

「僕ね、これが、いい…。絶対! これが、いい…」

 星也が意固地になった。明夫はしまった! また始まったか…と、連れてきたことを後悔こうかいした。だが、もう遅かった。明夫には駄々(だだ)をねる星也に今まで一度として制止出来なかった過去があった。指定席を取った列車の時間が迫っていた。

「あの…、これ、なんとかなりませんかね」

「えっ? これですか? これは店の飾りですから…」

「そこを、なんとか。見たところ、コレとそう変わりはないように思うんですが…」

「はあ、まあ…。ちょっとお待ちください。店長に聞いてきます!」

 店員は、奥へ小走りして去り、すぐもどってきた。

「…いいということです。値段はコレと同じということで…」

「助かります。どうもすみません」

 欲しいものが手に入った星也は、したり顔である。金を支払い店頭の小判を包んでもらった二人は駅へと急いだ。

 帰宅して数日が経っていた。会社休みの日、星也が置きっぱなしにしていた骨董コレクションの本をめくっていた明夫は、なにげなく小判の写真に目をやった。よく見れば、店頭に飾ってあった小判とよく似ているではないか。あわてた明夫は子供部屋へ走った。星也は学校でいなかった。明夫は土産品と本を比較してみた。両社は確かに酷似こくじしていた。

 後日、分かったことだが、それはまぎれもなく時価¥1,800,000する本物の慶長小判金だった。明夫が支払ったのは¥1,800だったから、実に1,000倍の値内品を星也は品定めしたのだった。それ以降、明夫は星也が「これが、いい…」というものは、すべて手に入れることにした。不思議なことに、それらはすべて高価な品ばかりだった。天川家はいつしか、巨万の富を得て、億万長者になっていた。


                 完

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