表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/100

第八十二話 寂[さび]れ街

 片崎は、おやっ? と首をひねった。折角、遠出して買いに来た店が見つからない。自転車を約30分ばかりいで、ようやく目的の店付近まで来たには来たのだ。片崎は自転車を一端、降り、道路マップを広げた。間違ってはいなかった。

━ やはり、この辺りだ… ━

 と、片崎は記憶を辿たどった。そして、やはり、ここだ…と確信した。そこには、一軒の大衆食堂があった。うっすらと灯りが漏れ、営業はしている風だった。ただ、周辺の店のシャッターは、ほとんどが閉ざされていた。辺りはどことなくうれいを含み、不気味だった。そのたたずまいは、以前、来た活気ある街の面影ではなかった。片崎は少しこわくなってきた。すでに午後四時を回り、冬の日は暮れ始めていた。通行人が誰一人としていないのも、少し気がかりだった。ああ…今日は商店街が定休日か! と感じ、気分が少し落ちついた。片崎はともかく、大衆食堂に入ろう…と思った。店でけば、その辺の事情も分かるだろうし、昼から何も口にせず、腹も減っていた。

「あのう…すみません!」

 店の中には、やはり人の気配がなくかったから、片崎は思わず声を出していた。

「はい、お待たせしました。 ご注文は?」

 店の奥から暖簾のれんくぐり、急に飛び出してきたのは顔が蒼白い初老の男だった。感じからして、どうもこの店の主人に思えた。

「チャーハンときつねうどんを…」

 あとあと考えれば妙な組み合わせなのだが、片崎の口は勝手に動き、食べたい品書きを選んでいた。

「はい! 少しお待ちを。なにぶん、一人でやってますんで…」

 まあ、そんな店は今どきあるな…と得心し、片崎はうなずいた。主人風の男は、あっ! と小さく声を出し、あわてて暖簾へスゥ~っと駆け込んだ。片崎はなに事だ? といぶかしく思った。男は、しばらくすると、水コップと茶をれた湯呑みを盆へ乗せて戻ってきた。

「あのう…、この近くに竹山洋品店ってありませんでした?」

 水コップと湯呑みをテーブルへ置く男に、片崎はたずねいていた。

「竹山洋品店? ああ! そういや、ありましたな。この先、二軒向こうです。今はもう、取りこわされてありませんが…」

「ああ、そうでしたか…。それにしてもこの商店街、静かですね。今日は休みですか?」

「いいえぇ~、今日もやってますが」

「えっ?! ほとんどの店は閉まってますよ」

「ははは…お客さん、ご冗談を! 全店、開いてるじゃないですか。今日も人で大 にぎわいですよ!」

 冗談はあんただろ! と片崎は怒れたが、グッとおさえ、外の様子をうかがった。やはり、人の気配は一切せず、アーケード街は静まり返っている。

「お客さん、この街、なんて言うか知ってます?」

「いや、一度、来ただけですから…」

(さび)れ街って言うんですよ、フフフ…」

 薄気味悪く(わら)うと、男はスゥ~っとかすみのように消え失せた。そのとき、片崎はゾクッ! とする冷気を肌に感じた。その男は二度と片崎の前へ現れなかった。片崎は走り出ると自転車へ飛び乗っていた。

 数日後、街の情報が得られた。商店街は一年前から閉ざされていた。時折り、幽霊が出るともっぱら評判で、人々は寂れ街というようになっていた。片崎はふと、男の言葉を思いだした。

(さび)れ街って言うんですよ、フフフ…』

 片崎は冬に怪談かよ…と、別の寒気さむけを覚えた。


                 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ