第八十一話 未完
彫刻刀を握る深山の手が止まった。
「どうも納得が出来ない…」
ポツリと深山は呟いた。深山が手にする完成近い木像は誰が見ても出来がよい仏像で、普通に市販しても十分、買い手がつく品に見えた。だが、深山は今一つ納得できなかった。彼はジィ~~っと手にした仏像を眺めながら、フゥ~っと溜め息を吐くのだった。その木造は、どう見ても未完だった。というのも、苦心した挙句、施した肝心の光背が取り外せるのである。仏の有難さを象徴する光背の光が消えたり輝いたりする仏は、有り得ないのである。すなわち、深山が手にした木像はただの未完の木彫り像であり、仏像ではないことを意味していた。
深山は完成した仏像を持ち、大仏師の久松草琳に入門しようと考えていた。だが、手にした仏像 紛いの自作は、とても堂々と門を叩ける代物とは思えなかった。というか、未完きわまりない粗悪品に見えていた。深山は自己嫌悪に陥っていた。深山はほぼ完成した未完の木像を部屋の片隅へ投げ捨てた。部屋の隅にはそうした未完の木像が何体も積み重ねられていた。
━ なにが足りない… ━
深山は頭を抱えたが閃きの兆しは訪れなかった。一睡もしていない深山は、いつしか深い眠リへと誘われていった。ふと目覚め、深山が見上げた窓ガラスの向こうでチチチッ! と小鳥が囀った。そのとき、深山にある思いが閃いた。手間はかかるかも知れない。だが、本体と台座、光背までを一木で作ろう…という思いだった。
一年後、深山が刻んだ木像は、もはや未完の木像ではなく、紛れもない完成した仏像だった。深山が最後の彫眼を施し終えたとき、不思議なことに窓から、ひと筋の光輪が仏像へと射し注いだ。
「…」
深山の口元に一瞬、安堵の笑みが零れた。
深山は現在、深山舟景と名乗り、仏師として全国的に活躍している。
完




