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第八十話   買いだめ

 地方スーパーの三色堂は消費税値上げの駆け込み需要で混雑するほどにぎわっていた。

「お、押さないでください! まだ在庫は十分にありますっ!」

 課長の平畑は入り乱れる客の誘導に必死だった。その客の一人、真佐江は今年で52になる中年女性である。というよりは、中年のおばさんと呼ぶのが相応ふさわしいような厚かましさが、いつの間にか彼女の身にみついていた。

 真佐江は店の売り場のアチコチで、種々の品を買いだめていた。ひと目見て、そんなものを買ってどうするの? というものまであった。駐車した車はそれらの品であふれ返り、今日も真佐江は家と三色堂をすでに三往復していた。区役所に勤める夫の耕田は部長で、取り分けて真佐江が暮らしに困ることはなかった。それが理由ではなかったが、どういう訳か真佐江は買いぐせがついていた。無性に買わずにはいられない・・という癖である。他にすることはないのかと、夫の耕田を陰で愚痴らせていた。それが、この消費税値上げの駆け込み需要で、一気に火がついたのである。メラメラと燃えさかる購買欲の炎は、真佐江を人間からはなれさせた。買い物に動き回るその姿は、もはや人間ではなく怪獣そのものだった。

「そ、それも!」

「えっ? そんなに買われるんですか? 先ほども買われましたよ」

「いいんです! いるんですから…」

 真佐江は意固地になって叫んだ。その叫び声の大きさに、他の客は一斉いっせいに真佐江を見た。真佐江は、とり乱した自分に気づき、自重した。

「そりゃ、そうでしょうが…」

 対応する平畑は困り果て、あんぐりとした。

「買うといったら、買うんです!」

 そこまで言われ、平畑の闘争心に火がついた。他の店員も見ている手前、メンツもある。平畑の声が少し強く変わった。

「先ほどでトラック一台分ですよ! 他のお客さまのご迷惑にもなりますから…」

 真佐江にも意地がある。

「もう、いいです! メーカーから直接、買いだめしますから!!」

「うわぁ~~っ!!!」

 周囲の客から、一斉に驚きの声が上がった。平畑もその中の一人になっていた。言った真佐江もその中の一人で、あわてて自分の口を手で押さえた。


                 完

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