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第七十八話 振り出し   

 ここは未来のとある工業専門学校[工専]である。浩紀、民夫、友也の三人がゲーム部の部室で試作機の双六すごろくをやり始めた。

 双六は順調に進行し、白熱していった。浩紀が意気込んでコンパクト受像ボックスのサイコロ・ボタンを押した。点滅ランプが一回転するとサイの目が1~6の六通りに表示されるシステムだ。3の目を出せば上手うまく上がれるが、2の目だと土壺へまり、振り出しへもどされることになる。

 サイコロ・ボタンを押した浩紀は、止まった瞬間、サイの目を注視した。民夫と友也も、それぞれ手にするコンパクト受像ボックスに見入った。受像ボックスの中を色光の点滅で一回転して止まったサイの目は2だった。瞬間、浩紀の姿は消え失せた。

「ははは…残念でしたっ!」

 民夫が愉快そうに両手をたたきながら言った。友也は、腕組みしてながめるばかりで、はしゃぐことはなかった。浩紀は民夫の愉快そうな音声を聞き、腹立たしい気分だった。試作機の実験ゲームなのだから腹立たしくなるのは本来、変なのだ。だが、もう一歩で上がれた…とも考えられ、くやしくなる浩紀だった。ただ、民夫の姿は見えないから、浩紀は意固地になるほど腹立たしくはなかった。

 この双六ゲームは三人が新しく考案したもので、参加者が個々に人類平和のバーチャル・リアリティを体験できるゲームである。終戦の1945年を振り出しのスタートとして、上がりまでが五年単位でひと目ずつ作られていた。95年後の2040年の上がりまで、五年ずつ目はあった。もちろん、途中で2目戻る、とか3目進むとかも作ってあった。その理由もそれぞれ考えて三人は作っていた。あとは、すべてがコンビューター思考によって作られるバーチャルな映像と音声の世界である。浩紀が出した振り出しへ戻るは、[戦争に巻き込まれて振り出しへ]と理由づけが入力された。ゲームのバーチャル幻想体験システムは既成のソフトを使用して作られていた。ゲーム中は、コンパクト受像ボックスを片手に対戦者同士がそれぞれの幻想体験空間に移動し、通話し合う・・という進行である。サイは順に別空間で振る、一人が上がればゲーム・オーバー・・という基本ルールである。

 浩紀は遥か過去の、まだ自分が生まれてもいない1945年という終戦直後の日本へ現れていた。辺りは一面、未体験の焼け野原だった。こんな時代があったのか…と浩紀は思った。バーチャル映像は人物が存在ゼロの設定で作られていたから、バーチャルな人物に危害を加えられたり話しかけられたりするという映像上の心配はなかった。ただ、音声だけはその時代を再現したからリアル感が楽しめた反面、こわさもあった。

『日本は再軍備をし、某国から攻撃を受けたのです…』

 振り出しへ戻された浩紀はバーチャル音声を聞きながら、描き出された焼け野原にたたずんでいた。

「さて、次は俺だな!」

 民夫は2010年にいた。つい最近である。ビル群の屋上の一角に民夫は現れていた。その映像は1965年にいる友也にもコンパクト受像ボックスを通して見られていた。民夫はサイコロ・ボタンを押した。出た目は6だった。瞬間、民夫の姿は消え、ふたたびその姿が現れたのは上がりの2040年だった。

『おめでとうございます、民夫さん! 上がりです。よって、参加された皆さま、このゲームはゲーム・オーバーとなります! 楽しんでいただけたでしょうか。では、私はこれで失礼いたします…』

 バーチャル音声が静かにフェード・アウトした。三人は、驚きのあまり茫然ぼうぜん自失になった。2040年・・コンピューターによって描き出されたバーチャル映像の上がりは、振り出しの映像とほとんど変化がなかった。民夫が現れた辺りは一面、焼け野原だった。


                  完


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