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第七十一話 そろそろ、お迎えが…

 そろそろ、お迎えが…と言い始めて、もうかれこれ百五年、百合崎あやめは、しっかりと生き続けていた。彼女がそう言い始めたのは喜寿が過ぎたある頃からだった。いや、それがどうしてどうして、お迎えが来るというよりは、逆にお迎えの方が遠慮する…といった塩梅あんばいの元気さで、益々、勢いづいているのである。逆に若返っているのではないか、と家族達を思わせる溌剌はつらつさは、他の者を圧倒して大いに意気 軒昂けんこうだった。

 今年も秋のお彼岸が巡り、彼岸花が鮮やかに朱色で存在を主張していた。

「おじいさん! 私もそろそろ、お迎えが…」

 と、墓で悲しそうに両手を合わせるあやめだが、家族の者達は後方にズラリと並び、声を殺して爆笑していた。というのも、やはりこれをお墓で言い続けてかれこれ二十五年ほどがしっかりとっていたからである。家族は、『また、大ばあちゃんが始めた…』ぐらいの気持なのだった。百合崎家の墓参は今や増えにも増えて数十人になろうとしていた。バス一台を借り切っての旅行ならぬ墓参だった。百合崎家では墓参が済むと、家族全員で夕食を一流ホテルで囲む習慣があった。財閥の総帥、百合崎岩蔵が生存中は大広間中央のテーブルへ岩蔵が座り、家族の者達は左右に分かれてズラリと並んでいた。岩蔵の死後はその岩蔵の席にあやめが座るようになり幾久いくひさしかった。

「ほほほ…、みんなも元気でなによりだこと。私はそろそろ、お迎えが…」

「なに言ってるんです、お母さん。まだまだ…」

 言い返すのが役目となっている長男の岩一郎が母をなだめたが、そう言う岩一郎も今年で八十の傘寿を迎え、百合崎グループの相談役を辞したのである。そんな岩一郎を少し離れた斜め向かいに座る次男の嫁、蘭子が、『あなたの方が、そろそろ、お迎えが…』と、めた気持で見つめていた。ただ、その顔は笑っているのだから、こわい話である。蘭子は去年、七十の古希を迎えていた。しかし、上には上がいるもので、三男の嫁、梅は密かに百合崎家の婦人会・草月会の会長職を蘭子から奪おうと画策していたのである。これはもう、怖いを通り越して、実におそろしい話だった。


                  完

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